マグジールが目の前から姿を消し、それから少しして天蓋の大樹最上層の葉や枝に火が点き始め、凄まじい炎圧が降り注いだ。
間違いなく鎧の魔族の仕業で、それが何かを察したニーザが口を開く。
「アルシア、あれ………………」
「……………
俺が知る限り、スルトが持つ最大火力の技の一つだ。
膨大な量の火炎を一点に集め、圧縮させた後に解放、爆発させてすべてを焼き尽くす破壊の技だ。
その火力だけで小さな山くらいなら普通に破壊できる。
それがあんな密室で放たれようものなら…………!
念話を試みるも、場所が場所なのと塵獄の発動前の余波でフェンリル達に届く前にかき消され不発に終わる。
ならばとフェンリルの力を召喚しかけたところで、ニーザに肩を掴まれ止められた。
「駄目よ、アルシア。今から行ったところで間に合わない!」
「だけど………」
「そうそう、ニーザの言う通りだよ。力の流れを見る限り、このままだとアルシアまで巻き込まれて終わり。だからストップだよ」
「っ!?」
突然の第三者の声に驚いてそちらを向くと、そこには遺跡図書館で出会った白い少女、シギュンが立っていた。
俺達をここに飛ばした時よりも顔色は幾分が良くなっているが、まだ少しだけ気怠げだ。
「アンタ、大丈夫…………?此処来るのだってかなり無茶して―――――」
「ボクの事は平気………と言いたいけど、ちょっとキツイかな。だから二人とも、皆を助けるのに力を借りていいかい」
「……どうするつもりだ?」
問いかけながら俺達はシギュンのその細い肩に手を置き、俺はバフォロスが喰らった分の神力を、ニーザはそのまま自分の力を分け与えた。
「ここまで転移で………と言いたいけど、流石に時間が足りない。だから、今起動準備中の天蓋の大樹内の転移機能と、そこから塵獄にもついでに干渉する。それでギリギリ助け出せる」
神力を注ぎ込まれたシギュンは神術を組み上げながら右手を自身の目の前に、左手を天蓋の大樹最上層に向けながらそう答えた。
「他に手伝える事ある?」
「塵獄に干渉すると言っても消す訳じゃない。余波が来るかもしれないからそれに身構えていて欲しい、くらいだね」
「分かったわ、そっちは任せて」
「よし、じゃあ始めるよ!」
そう声を張り上げ、シギュンと名乗る少女はその力を解放した。
◆◆◆
「っていう感じで塵獄の炸裂を少しだけ遅らせて、転移の座標をここに指定したんだ。鎧の魔族には逃げられちゃったけどね」
と、フレスに支えられながらアリスに軽く説明したシギュン。
トートの時もそうだが様子を見るに、やはり神術を使うだけでも大分負担が大きいのだろう。
シギュンの身体を支えながら、フレスが問いかける。
「色々あるが一つ聞きたい。どうしてそんな事に……?」
「そうだね。すぐに答えたいところだけど…………、やっぱり王都に行ってからだ。ここに来るのと、さっきので大分……負担………が……………」
「シギュンさん!?」
ゼンマイが切れたかのように突然ぐったりとしてしまうシギュンを心配してアリスが声を掛けると、フレスが静かに頭を振った。
「心配ない。疲れて眠ってしまっただけのようだ。一先ず王都に戻ろう。もうここに居ても意味がないからな」
フレスの言葉に全員が頷く。
マグジールを倒せはしたらしいものの、鎧の魔族には逃げられ遺体を奪われた。
彼の言う通り、これ以上ここに居ても意味などない。
支えている少女を俺に預け、フレスが獣化を始める。
「……忘れんなよ。王都に帰ってからキッチリ聞くからな」
シギュンを支えながら、俺はそう語り掛け、そして天蓋の大樹へと目を向ける。
巨大な大木の枝や葉は塵獄の一撃によって焼け、跡形もない。
僅かに残った残り火も徐々に勢いを弱め、一つ、一つと消えていく。
まるで、先にこの場から姿を消した鎧の魔族を追うように……………