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第37話「ロキからフェンリル達へ」


「………改めて言うけれど、本当に皆、元気そうで嬉しいよ」


アルシア達が去った後、フェンリル達を見てロキは本当に嬉しそうに微笑んだ。

そんなロキに、フェンリルは問いかける。


「ロキよ。一つ、聞いてもよいか?」

「なんだい?」

「妾達が聞いた最後の言葉、あれは全て嘘だったのか?」


その問いにロキは僅かに考えた後、答える。


「………ちょくちょく本心はあったかな?うん。ヴォルフラムに心底呆れたのも事実だし、君達に大規模侵攻の対処が嫌になったら逃げてもいい、とかね。君達が死ぬのも、スルトやアルシアが死ぬのも嫌だったから。だから…………、ああいう選択しか出来なかったのは本当に悔しかったよ。人類の大半を見殺しにする様な真似をしたのは、さ………」

「けど、アンタだって………」

「勿論、ボクも被害者だよ?どう転んでも死ぬしかなかったし、スルトもインドラも殺されるし、本当にふざけた話だよ。それでも、やっぱり感じるのさ。あれだけやって僅かな数の人間しか守れなかった事への不甲斐なさや悔しさとかね」


ロキはその幼い顔に悔しさを滲ませて、フレスは得心した様に目を閉じた。


「ワガママ、人間への試練だの、その辺は君の嘘で自身への誤魔化しという訳か」

「………そうだね。本当に嫌だった。きっと、アルシアにも嫌な思いをさせたろうし……」

「城で盛大に暴れたらしいぞ。彼が大龍脈を破壊してなければ、大規模侵攻終結後にまず間違いなくファルゼアの王族を滅ぼしていただろうさ」

「だろう、じゃなく間違いなくやるよ。さっきは言わなかったけど、グレイブヤードでもボクが殺されてブチギレた後、襲ってきた悪神の身体の一部を焼き払ってたからね。」

「そうなのか?」

「そうだよ。しかも、本人はその時、それが何かも分からずに攻撃してたし。大龍脈破壊したり、国を滅ぼそうとしたり、大人のニーザ放ったらかしてグレイブヤードの階層一つと、どこかの村消し飛ばしたりとか、本当に災い起こしだよねぇ………むぎゅ」

「アンタもアルシアみたいに余計な口聞くわよね……っ」


真っ赤になったニーザに頬を引っ張られながらもシギュンは楽しそうに笑う。

こんなやり取りは、もう1000年もしてなかったからだ。


「あははは、ニーザはもっと素直にならないとねー。アルシアは神器と同化してるとはいえ人間だから、自分の時間の感覚だけで接してると、いつの日かいなくなっちゃうかもよ?」

「………本当に余計な御世話だし」


ニーザがべちべち尻尾で叩いてくるが、それでもロキは笑ったままだ。

(このやり取り、本当はもっと長く続けたいのになぁ………)

あと少し、いや……。もっと欲張って、いつまでもこんなやり取りをしていたい。フェンリル達だけではなく、そこにアルシアやアリス、フリードリヒや今を生きる人間達も含めて、ずっと……。

そんな気持ちに蓋をして、ロキは改めて3人を見る。


「ねえ。フェンリル、ニーザ、フレス」

「……何じゃ?」

「悪神を倒した後は、頼むね」


その言葉に3人は何も聞かない。

気の遠くなるような時間を共にした仲なのだ。

その言葉の本当の意味を、聞かずとも分かっている。


「分かっておる。お主は何も気にするな」

「言われずともだな。ここから先は……」

「アタシ達の仕事。大丈夫、分かってるわ。ちゃんと」

「そっか………」


フェンリル達を見て、ロキは一瞬だけ顔を伏せた。

微笑み、隠してはいても、自分との別れを悲しんでくれていたから。

それでも、彼女達は言ってくれるのだ。

この戦いが終わって、自分が消えた後の事は任せたよ、という想いを受け取ってくれると。

伏せた顔を上げて「なら、心配ないね?」と返し、彼はフェンリル達にある事を話すと、3人は表情を変える。


「……それは本当なのか?」

「本当だよ。優先順位としては低いだろうけど、それでも最後には必ず此処に辿り着く」

「アルシア達には………」

「言わなくていい、当分は。とは言え、時期が来ればあとは彼から……………」


『…………………』


話を聞き終えた3人は押し黙る。

語られた話はまったく想像していなかった物で、その内容たるや、フェンリル達の顔を険しい物へと変えるには十分過ぎるものだった。




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