「俺にも色々と……
アクロの気持ちを
「それは違う──! アクロは、僕と一緒に、自由に世界を見て回るんだ──! だから離せ──!」
男は少し驚いた表情をした後、大きな声で笑い出す──。
「自由に……世界を見て回る……か──」
そして──低い声で
「──馬鹿みたいな夢を語るな! お前も、この女も、今まで互いに
男はその人生経験から、この世界の厳しさをとても良く知っている──。
「──そんな者達が外の世界に出た所で何になる!? もっと
男には、現実を何も知らない若者の
「──悪い事は言わない……。ここにいれば安全だ──。外の世界に
男は最後に──
セレンは外の世界に
それは事実だ──。
ただ、
セレンは何も答えられない──。
セレンは
「そんな事はない──!!」
突然──!
アクロが大声で叫ぶ──!
男も少し驚いた表情だ──。
「──聞いて……! セレン──!」
「──私は、全然……望んだ形ではなかったけれど……。外の世界に出て、良かったと思ってる──!」
「──ありのままの自分を……一切、否定せずに認めてくれる人に出会えたんだもの──!」
「──だからもう……誰かに、何かを言われたって平気──! 大丈夫──!」
「──私は……何よりも大切な宝物を手に入れたの──!」
「──セレンに出会えたの──! セレンが
セレンに
笑いながら……泣いていた──。
満面の笑みで……
「──こんな所で
「──そしてもう一度、旅に出る──! 自分の目で世界を見て回る──!」
「──でも……それは一人でじゃない──! セレン──! あなたと二人でよ──!」
「──二人で世界を見て回ろうって──! 約束したでしょ──!?」
「──セレン──!」
セレンの
二人は夢を語りあい──そして──大切な約束をした──。
空から──夕日が
あの日──セレンがアクロの髪を切った──穏やかな午後──。
「どれくらいの長さに切れば良い……?」
ナナシの手に、母の
「うーん……今のままだと長すぎて……毛先が汚れるから……」
家から持ち出した椅子に、アクロは座っている──。
「──
アクロは
「──これからは身軽に動ける様にしておかないと……その方が良いと思うし……。でも……おしゃれに……したいし……」
アクロはホッペを
「──ムウゥ……」
その様子を見て、ナナシは母のアドバイスを思い出していた──。
『覚えておきなさい──! 女の子はおしゃれに時間がかかるのよ……!』
──これは……かなり時間がかかりそうだ……。
ナナシはそう思っていたが──アクロは驚くほど早く答えを出した──!
「決めた──! 黒猫さん──! バッサリ切って──! 首の辺りまで──!」
アクロは覚悟を決めた──!
「えっ──!? そんなに……切るの……? 分かった……!」
ナナシも覚悟を決めた──様……だ?
『これは絶対──大切な事よ……! 忘れないで……! 髪は女の命──!』
天国の母が見ている──!
失敗は許されない──!
ハサミを
ナナシは
「せっかくこんなに伸びたんだから! これ──記念に取っておきましょう──!」
そんな事をアクロが言うのだから仕方がない──。
肩のあたりで髪を
アクロはその髪の
──失敗しなくって良かった……。
ナナシはひとまず
ナナシがカットに集中して、口数が少なくなった所で、アクロも
森にチョキチョキと──ハサミの音だけが響く──。
「黒猫さん……。あなた──ずっとここにいるつもり……?」
ナナシは一瞬──手が止まる──。
だが、驚くほど冷静な雰囲気で、また直ぐ手を動かす──。
ナナシはその答えを──ずっと前から持っている──。
アクロは話を続けた──。
「──私には夢があるの……。こんな
アクロは下を向いてクルクル
「──私は世界中の国を端から端まで全部! 自分の目で確かめたい──! 小さい時からの……私の夢なの──!」
夢を語るアクロの表情は、ケラケラとしていて楽しそうだ。
「──お父さんとお母さんが、私の事を心配して待っている筈だから──家に帰るのが先だけどね──」
アクロは両手で
ナナシは
「──ねぇ……黒猫さん! 私と……一緒に来ない──? まずはたくさんのお金と……準備が必要だけど──」
ナナシの答えは始めから決まっている。
「君と同じさ……」
アクロが話し始めた時から──。
「──僕もずっと……外の世界に
アクロが──私達は似ていると言った日から──。
「──いつか世界を見てみたい……。と、思っていた……」
アクロが運命を口にした瞬間──ナナシも運命を感じていた──。
あるいは──森で眠るアクロを見つけた時には
「──お金のことなら僕が何とかするよ──! それに、
ナナシは
「良かった──!」
アクロは椅子から立ち上がりナナシに抱き付く──。
「──それじゃあ……。まずは──お父さんとお母さんにあなたを紹介して……」
アクロが抱き付いたまま、下から、
「──それから、二人で世界を旅しましょ!」
二人の胸は
「うん──! 約束だ──!!」
「きっとよ──! 絶対に──!!」
二人は自然と小指を出し合い──
「約束するよ──! 僕は、君と一緒に世界を見て回る! 楽しい二人旅にしよう──!」
「ヤッター! フフッ……」
運命的に出会った二人は……この日、とても大切な約束をした──。
「ところで……アクロ……実は……少し短く切りすぎちゃったんだけど……大丈夫かな……?」
やはり、アクロが動いて大変だった様で、ナナシは申し訳なさそうに頭を
「ムウゥ……大丈夫! かわいい──! 好きよ! ありがとう! 黒猫さん──!」
家から持ち出した