「共同の敵」が消えた時点で、海賊たちと脱走の捕虜たちの対峙が始まった。
一部の海賊は客船に配置されたとはいえ、人数上、海賊の方は圧倒的に有利だ。
そもそも、脱走が成功したのに、アルビンたちはどうしてここに来るの?
「そろそろ時間です」
ウィルフリードは懐から懐中時計を出して、一目をした。
「騒がしかったけど、ちゃんと時間稼ぎができました」
彼の目線は海面に移した。
……火の光……
斜め後ろの海面に数点の光が近づいてくる!
ケンの騒ぎに気を取られて、誰もほかの船の接近に気付かなかった。恐らく、ウィルフリード以外に。
光の明るさから見れば、もう相当近くまで来ている。
ウィルフリードの信号に呼ばれてきたのか?
まさか、あれは……
「あれはなんだ!」
ほかの人も意外な展開に目を向けた。
「姉貴!ローランドの警備船だ!!3艘もあるんだ!!」
海賊の叫びは私の予感を証明した。
「このままだと囲まれるぞ!」
「ちっ、いつの間に――あの奴隷めに気を取られて……」
カンナは地団太を踏んで、早速命令を出した。
「全力で進め!野郎ども、全員動け!」
警告の鐘は大きく鳴らせた。
「もう遅い!お前らは袋の鼠だ!もう逃げ道はない!おとなしく降伏しろ!」
「畜生、黙れ!」
「ガァッ!」
勝利宣言をした少年はカンナの不意打ちを食らえ、床に倒れた。
何人の海賊はその機に乗り、武器を持つ乗客たちに襲いかかった。
その争いと同時に、発砲の轟音も響いた。
警備船は容赦なく、海賊船に向かって連続発砲した。
今夜二回目、海は荒らされた。
ひどく揺らされている海賊船は、ここにいる全員のバランス感を試している。
「このままじゃ俺たちも巻き込まれる!」
船長は彼に襲いかかった海賊を殴り倒し、仲間の手助けをしながら大声で叫んだ。
「海賊たちに構うな!救命ボートのところに戻ろ!」
「しかし、砲火のなかで、あんな小さなボートで客船に戻れるのか……いいえ、戻ったとしても、巻き込まれる可能性は……」
「グズグズするな! 海の男なら勇気を持って海にその身を託そう!」
「こちらです、お嬢様」
他の人が戸惑う間に、藍はさっそく姫様の手を引いて、船尾の方向へ走り出した。
「に、逃げたぞ!」
「いい!」
カンナは追おうとする下っ端海賊を止めた。
「放っとけ!反撃の準備をしろ!警備船のほうが先だ!」
カンナの判断は正しい。
捕虜を人質にして警備隊に交渉しようとも、今の状況で、武器を持つ捕虜たちを確保するのは苦労をする。
逆に足を引っ張られ、警備船から逃げるチャンスを失ったら大損になる。
海賊の邪魔がなくなり、脱走の成功率も上がった。
でも、ウィルフリードはまだ垣立の前に佇んで、傍若無人のように海面を眺めている。
「行こう!」
いきなり腕が掴まれた。
「アルビン……待って!」
「ぼうっとするんじゃない、このバカ!!」
アルビンに引っ張れて、強引的に走り出された。
警備船を呼んだのはウィルフリード。きっと何か裏がある。
彼がそこを離れない理由に気になるが、今はそれを究明する場合ではないようだ……
「皆様、落ち着いてください、必ず脱出できる!」
船尾に着くと、船長は指示を出して、船員たちは早速救命ボートの支度を始める。
攫われた乗客と船員はすでに集まった。
警備船の攻撃で、船体は時々激しく揺れる。
加速し続ける海賊船と不安定な甲板は準備のハードルを高めた。
それに加えて、周りに倒された海賊や、走り回っている海賊がいる。
人々の不安を更に煽る。
幸い、海賊たちはカンナの命令に従い、救命ボートを「盗用」する乗客たちに手を出さず、警備船から逃げ出すことに専念している。
「みんな、心配はいらない!海賊たちはもう俺たちを止める余力がない!冷静に対処すれば、必ず脱出できる!」
人群れの真ん中で宣言する探偵少年に、通りかかる海賊たちは凶悪な目線投げた。
「ゲッ!何を見ている?!まだ失敗を認めたくないのか!」
ドン!
「あっ!」
少年は海賊に威張る途中、どこから重そうな砂袋が飛んできて、彼の頭に命中した。
海賊にして手柔らかな攻撃と思う。
海賊船の後ろについている客船も砲火に巻き込まれたが、メイン目標にされていないようだ。
それもウィルフリードの信号のおかげなの……
「なにか心掛りでもありますか?」
不意に声をかけられた。
藍と姫様は私の前に来た。
「先ほど、うちのお嬢様を助けていただいて、誠に感謝いたします」
「本当に、モンドさんがいなければ、わたくしは……」
「気にしないでください。私はこの通り無事です。お嬢様のほうこそ、これからもお気を付けください。奴らはまた青石に手を出すかもしれません」
「ええ……」
姫様は手を胸元に握って、困りそうに目を伏せた。
「おい、お前」
姫様が沈黙すると、アルビンは会話に割り込んだ。
この人、普段はまともに見えるのに、なぜか私だけに乱暴な態度を取る。
まあ、無理もないことか……
「そろそろ教えてもらおう」
「何を?」
「とぼけるな、お前は言っただろう。知っていることを全部話すと」
知らないふりをしたら、アルビンは焦った。
「その指輪はなんだ。中に何が入っている?!ずっと使っているのか?!」
「私が言ったのは――ここから逃げ出したら、なんでも答えてあげる――今はまだ海賊船にいますよ」
「ッ……」
私の食えない態度に忍耐が切れたのか、アルビンの眉の間に深いシワができて、ざっと私の右腕を掴んだ。
「今すぐ教えろう!」
「止めてください!」
姫様は慌てて私たちの間に入ろうとしたけど、藍に止られた。
「大丈夫です。ブリストン様はモンドお嬢様を傷つくようなことをしませんよ」
「……どういうことですか?」
姫様は困惑そうな顔で聞き返した。
その話題に乗る気はないので、早速別の話題を……
「お嬢様、こんな時、申し上げにくいですが、ちょっと頼みたいことがあります。できれば、二人で……」
「その前に、うちのお嬢様の質問を答えさせてください」
藍は私の話を断ち切って、姫様に向けた。
「一つ、昔話、いいえ、物語を語ってあげましょう」
よくない予感で心臓がドクンとした。
姫様を探す途中、情報交換としてアルビンとの因縁を藍に教えた。
まさか、ここで明かすつもりなの?
秘密を守るという条件を出さなかったのは失策だった。
藍は真実を暴く「いい人」になるつもりかもしれないが、アルビンとこれ以上関わったら、私にとって面倒なことにしかならない……
「『例の物語』だったら、場所と聞き手を選んでください。どうしても話すというなら、姫様だけに……」
!!
藍を止めようとしたら、激し痛みがまた襲いかかった。ケンに掴まれた時と同じ、頭が裂けるような痛み……
「モンドさん!」
一早く気づいた姫様は倒れそうな私を支えてくれた。
「具合が悪いですか?すぐ治してあげます……」
姫様は手を私の額に当てて、神聖な白い光を放した。
それでも、痛みが止まらなかった。
天使の聖跡も、この呪いを解けないの……?
「ブリストン様、手を放してください!モンドさんは苦しんでいます!」
「あっ、あ、はい……」
姫様に叱られて、アルビンはようやく我に返して、私の腕を放した。
一方、泉のような静かな声は周りの噪音を掻き分けて、物語を語り始めた。