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第8話 NO APPLE NO KNIFE

 タマちゃんの誤解を解くために、俺はさっき起こったことをざっと説明した。


「えっと……やっぱり何を言っているのか分かりません」


 そう言われても、他に説明の仕方が思いつかない。


「ステータスは個人の能力を示すもので、装備したりドロップしたりしません。ましてや、モンスターがステータスを落として、それをタイセイさんが装備するとか意味分かりません」


 事実だから仕方ない。


「それに、タイセイさんは無職なんですから、そんな特殊な事が出来るはずないです」


 無職じゃないよ。その他だよ。


「でも、実際にそうしたら強くなって――蹴りでスライム倒したのをタマちゃんも見たでしょ?」


「まあ……見ましたけど……」


「信じられないだろうけど、本当なんだよ」


 本当だけど、俺も信じられないけどね。


「……信じます。意味は全然分からないけど、私はタイセイさんが言ってることを信じることにします。理解は全然出来てないですけど――急に生き返ったり、急に強くなったりしたのを見ちゃいましたから……」


 死んではなかったけどね。

 原子の塵にはされかけたけど。


「タマちゃんありがとう。俺もまだ理解出来てなくて混乱してるから、信じてくれるって言ってくれる人がいるだけで嬉しいよ」


 でも、良い人すぎるタマちゃんが悪い人に騙されないか心配だよ。


「タマちゃん、知らない人に壺とか勧められても買ったら駄目だよ」


「え?駄目なんですか?部屋に置いておくと幸運が訪れるからって――」


 手遅れだった。



 とりあえず、ステータスがどうなったか確認しておかなきゃな。


 ステータスオープン。


 ……


「ステータスオープン!」


「タイセイさん、人の趣味にとやかく言うのもあれなんですけど……」


 違う!これは俺の趣味じゃない!



名前 園田 大勢 

職業 その他

レベル 2

HP  125/125

MP  65/ 65

力   高2          我慢    軟弱

頭   非常に弱い        器用さ  不器用

動き  見るに耐えない      運勢     吉

学問  安心して学べ 

旅行たびだち  さわりなし やまい用心

EXP          5/110


【固有スキル】

覚えることが出来ません

【スキル】

覚えることが出来ません。

【称号】

「マルマールの使徒」

(???)


【装備】

 「年季の入った果物ナイフ」

 「鍋敷き用の皮の胸当て」

【装備ステータス】

 「その他」

【装備スキル】

 「対物理防御(小)」(常時)



 お、運勢が吉になった――じゃねえよ。


 力が中2から高2になってる。

 スライムは、軟弱で不器用な高校生でも倒せるってこと?

 その前に殺されかけたのは何?


 あ、あの時――


『現在所持しているステータスは一つです。【その他】のステータスを表示します』


 『所持してる』ステータスって事は、あのおかしな能力値すら装備してなかったってことか!?


 軟弱以下の防御力だったら、スライム相手でもああなるの――ん?


「ねえ、タマちゃん……」


「なんでしょうか、ソノダさん」


 何で精神的にも物理的にも距離が出来てるの?


「ぶつぶつ言っているのが怖くて…つい…」


「あれ?声に出てた?」


「お、運勢が吉になった――じゃねえよ。から」


 全部かよ!!


「えっと、タマちゃんは【弓使いアーチャー】だよね?」


「そう…ですけど?」


「弓で攻撃する人だよね?」


「まあ、【弓使いアーチャー】ですから?」


「多分、なんだけど……タマちゃんでも、弓矢じゃなくて、足で思いっきり蹴ったらスライム倒せるんじゃないかな?って思うんだ」


 弓矢との相性は悪いみたいだけど、高2の力で大丈夫みたいだし。


「……それは盲点でした!!まさに逆転満塁ホームランの発想!!」


「いや、何も逆転してないし、満塁でもないし、ホームランとか何で知ってるの!?」


 この世界に野球とか無いでしょ?


「何か頭の中に浮かんできて……」


 転生者かな?


「私、生まれた時から【弓使いアーチャー】でしたから、弓矢で攻撃することしか考えたことなかったです!!」


 それはそれで冒険者としてはどうなのかと思うが。


「敵が近くに来た時にどうするつもりだったの?」


「弓で殴って矢で刺すつもりでした」


 まさかの物理攻撃!?

 矢で刺すとか想像したらこえーよ!!


「ま、まあ、これからは少し近接戦闘も慣れていった方が良いね。どこから敵が来るかも分からないし」


「そうですね……私もタイセイさんみたいな果物ナイフを…あ……」


「もう果物ナイフで良いよ」


 ステータスにもそう書いてたからね。これ以上は抵抗するのを諦めるよ。


「……短剣とか持っておくことにします。……使ったことないですけど」


「タマちゃんは器用そうだから、練習したらすぐに使えるようになるよ。それに、これから先もずっと【弓使いアーチャー】とは限らないでしょ。短剣の方が使いやすく感じて、それが生かせる職業に転職とかさ」


「いいえ!私はこれまで苦楽を共にしてきた【弓使いアーチャー】という職業に誇りをもっていますから、これから先も変えるつもりはありません!!」


 レベル3なのに?

 何その【弓使いアーチャー】への過剰な信頼。

 それと、言ってることがベテラン冒険者みたいだよ?

 駆け出しのレベル3なのに。


「まあ、先の事は分からないけどさ、とりあえず身を護る手段は多いに越したことはないでしょ?」


「……確かに、そうですね」


「街に帰ったら、一緒に武器屋に見に行こうか」


 あの店だったら、もう果物ナイフは品切れのはずだし。

 せめて普通の短剣を買ってあげよう。

 お金はあるからね。

 王様ありがとう。


「でも……」


「他にも心配事があるの?」


「私……りんごの皮とか剥けるかなあ……」



 まだいじってくるんかい!!



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