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第9話 本当だよ?

「二人ともお帰りなさい。遅かったですけど、大丈夫でした?」


 すっかり日が暮れてからギルドに戻った俺たちをお姉さんが迎えてくれた。


「いろいろ大変でした……」


 タマちゃんが俺以上に疲れているように見えるのは何故だろう?


「ソノダ様も初めての依頼でしたから、疲れたでしょう?」


「そうですね……俺も、何か疲れました……」


 主に精神的に。


「ライラさん、これが依頼の薬草です」


 ライラさん……お姉さんの名前か。

 今朝会った時は、あのへっぽこ受付嬢のせいで、名前も聞いてなかったな。


「――はい。確かに。こちらが今回の依頼の報酬になります。お二人ともお疲れ様でした」


 渡された銀貨2枚は、とりあえずタマちゃんに預けておくことにした。


「ライラさんも遅くまでご苦労様です」


 朝もいたし、今は完全に残業時間に入ってるはずだしな。

 受付の奥で何かゴトゴト聞こえるから、他にも残っている人はいるみたいだ。

 夜勤とかいるんかな?


「いえ、私は……他にもいろいろとやることがあるついでに残っているんで……」


 ああ、あいつの尻ぬぐいか…。

 で、その元凶は先に帰ってるのか?


「あのへっぽこ、いや、ラバンダさんはもう帰ったんですか?」


 あんなのでも何か手伝えることくらいあるだろうに。


「いえ、いますよ」


 え?いるの?

 じゃあ、受付やらせればいいのに。


「ライラさんが受付やってくれたんで、もう帰ったのかと思ってました」


 どこで油売ってやがんだ?


「ええ、あの子は奥で別のことをやってもらってます」


 あ、じゃあ、奥から聞こえてくる物音は、あいつが何かやってる音か。


「タイセイさん、タイセイさん…」


 どうしたタマちゃん?


もらおうと思ってます」


 ん?ライラさんの雰囲気がちょっと怖いぞ。

 そんなに大変な仕事やらせてるのかな?

 ゴトゴト聞こえてくる音が大きくなっている。


「……ちなみに、ラバンダさんが何してるか聞いても良いですか?」


 何かがすごい暴れているような音になってきた。


「そうですねえ。ソノダ様は聞かれない方がよろしいかと思います」


 ライラさんの笑顔がめっちゃ怖いんですけど……。

 んーんーって呻き声みたいな物音も混ざり出した。


「ライラさん!私たちはこれで失礼します!タイセイさん!早くしないと宿屋閉まっちゃいますよ!!ほら!早く行きましょう!!」


 そうして、俺はタマちゃんに腕を強引に引っ張られてギルドを出ていった。


 ギルドを出た瞬間、中から微かに悲鳴のような声が聞こえた気がしたけど、多分――入り口の扉を閉めた時の軋む音だったんだろうと思い込むことにした。


『称号【人でなし】の獲得条件を満たしました。獲得しますか?YES/NO』


「NOで」


「タイセイさん…?」


「何でも無いよ。さあ、早く宿屋探さないと野宿になっちゃうからね」


 そうして、俺はタマちゃんがお勧めだという宿屋に向かったのだった。


 南無……。




「ここが私の泊まっている宿です」


 お勧めの宿というのは、タマちゃんが泊っているところだった。


「ここは、値段も安いですし、料理も美味しいんですよー」


 おお!食事が美味しいのは嬉しいな!

 あれ?俺、この世界に来てから何も食べてなくない?

 気づいたら急にお腹が空いてきたぞ。


「タマちゃん、ここって晩御飯も食べられる?」


「はい。夜は一階が食堂になってますから、別料金を払えば好きなものを頼めますよ。そういえば、お昼ご飯も食べてなかったですね」


 朝ご飯も寝坊したせいで食べてないんだよね。

 ヤバい…空腹を意識したらふらふらしてきた――気がする。


「とりあえず、空室があるかどうか聞いてみましょう」


 空いてなくても、ご飯は頼もう。


 そうして、俺たちは宿の中に入っていった。



「あら、タマキちゃんお帰り!!今日は随分と遅かったねえ」


 元気な声で出迎えてくれたのはふくよかな体形をしたおばちゃん。

 優しそうな笑顔が素敵なナイスミドル。


「ちょっと依頼に時間がかかっちゃって。それで、ファレノさん。部屋の空きってあります?」


 その言葉にファレノさんの視線はタマちゃんの後ろでふらふらと立っている俺の方へと向けられる。


「あらあら。タマキちゃん、どこでこんな素敵な彼氏拾ってきたのー?」


 捨て猫みたいに言わないで。

 猫に拾われるとか意味わかんないから。


「え!?いや!彼氏とか!そんなんじゃなくて!!あの、タイセイさんは、その、あの――」


「はじめまして、ソノダ・タイセイと言います」

 話が進まないので、自己紹介をすることにした。


「これはこれはご丁寧に」


「タマキさんとは清い交際をさせていただいてます」


「タ、タイセイさん!?」


 火には油を注いでいくスタイル。


「ああ、タマキちゃんとたまたま一緒に依頼を受けたのね。それで、タマキちゃんがうちを紹介してここに来た――ということね」


 なんで分かった!?


「一応、空いてる部屋はあるんだけど……」


「あるんだけど?」


「タマキちゃんの部屋もベッド増やしたら、一緒でも泊まれるわよ?」


「じゃあ、それでお願いします」


「タイセイさん!!」


 いや、その方が安く済みそうじゃない?

 それだけの理由だよ?

 本当だよ?


『称号【むっつり】の獲得条件を満たしました。獲得しますか?YES/NO』


「んー。NOで」


「じゃあ、タマキちゃんの隣の部屋にしときましょうか」


 無念……。




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