「タマちゃんおはよう」
フロントに降りていくと、すでにタマちゃんは席に座っていた。
「タイセイさん、夕べはゆっくり眠れましたか?」
「うん、結構疲れてたからね。風呂上りで横になってたら、そのまますぐに寝ちゃったみたいだよ」
本当はステータスのこととかいろいろチェックしたかったんだけど、身体が睡眠を求めていたみたいだ。
「ああ、それで……その寝ぐせなんですね」
そう言われて頭を触っていみると、頭の真ん中の髪が逆立って怒髪天みたいな手触りがあった。
いや、むしろモヒカンの方が合ってるか?
「こんなになる!?」
俺の寝相どうなってんの?
「でも、その髪型も似合ってますよ」
これが似合うのは荒廃した世紀末の住人だけだと思う。
「ごめん、ちょっと直して――」
「さあ、朝ご飯にしましょう。朝はギルドが混みますから急がないと」
え?俺、今日はこの髪のままなの?
雑魚キャラと間違えられて秘孔突かれたりしない?
席に着くとファレノさんが朝食を運んできてくれた。
パンとスープとサラダ、それにソーセージが焼いたものが添えられた目玉焼きという、日本でも見慣れたメニューだった。
ソーセージの香ばしい匂いと、スープに入っているのだろう香草の香りが食欲を刺激する。
夕べは無理を言って、残り物を使って賄いのような食事を出してもらったのだけど、それがめちゃめちゃ美味しかった。
お風呂も大浴場があって、自由に入り放題。
それで一泊朝食付きで銀貨一枚はかなりお得だ。
まあ、他の宿屋の料金知らないけど。
そんなこともあって、朝食も期待していたのだが――
「うまっ!!」
やはり、期待通りに美味かった。
最初に一口飲んだスープはコンソメに近い味がして、刻まれて入っている野菜もそのスープの味を引き立てるような味と食感だ。
パンは普段食べていたものと比べると硬かったけど、スープに浸して食べると絶妙な硬さになって、小麦の香ばしさが口の中に広がってめちゃめちゃ合う。
そして、このソーセージ!
何の肉で出来ているのかは分からないけど、噛むとパリッと皮が破けて、口の中に
あまりの美味さに、一気にソーセージを食べきってしまった。
「タイセイさん、美味しそうに食べますねえ」
「おいひほうっていふか、おいひひほ」(美味しそうっていうか、美味しいよ)
「口の中に入っている時にしゃべるのはお行儀が悪いですよ」
「ほめんははひ」(ごめんなさい)
「もう……そんなに美味しいなら、私のソーセージも食べますか?」
「良いの!!」
「はい、私は……あんまり…その…苦手なんですよね……」
こんなに美味しいのに!?
タマちゃん、人生の10割損してるよ?
「じゃあ、遠慮なく――うまあ!!」
「そうかあ……知らなかったら美味しく感じるんですね……」
タマちゃんが何かおかしなことを呟いた気がしたけど、深く考えないようにしよう。
そうして、俺たちは朝食を終えて、ギルドへと向かった。
髪型モヒカンのままで。
ギルドの入り口を入ると、多くの冒険者たちで賑わっていた。
やはり朝はみんな依頼を受ける為に集まってくるんだな。
でも、昨日の朝はここまで人が多くなかったような…。
俺たちは昨日と同じような薬草採集の依頼書を掲示板から剥がして受付に向かったのだが、どの受付も列が出来ていて、かなり時間がかかりそうだった。
「あれ?あそこだけ誰もいなくね?」
よく見ると、冒険者の列の間に、一カ所だけ綺麗に空いているカウンターがある。
「あれ、ラバンダさんとこですね…」
確かに、そのカウンターに直立不動で微動だにせず立っているのはへっぽこ受付嬢だった。
「何かあったんでしょうか?」
「ラバンダって、そんなにみんなに嫌われてるの?」
「いや…そこまででは無いと思うんですけど…」
そこははっきりと否定してあげてほしい。
「まあ、空いてるみたいだから、一応行ってみようか」
一抹どころか、かなりの不安はあるけど、最悪の場合は昨日みたいにライラさんが来てくれるだろう。
空いているへっぽこのところへ向かっていると、周囲の冒険者たちがざわつく。
正気か?とか、勇者がきた!とか、吸血森大ムカデのソーセージは絶品だとか言う声が聞こえてきた。
最後だけは聞かなかったことにしたい。
何かそんな気がする。
「イラッシャイマセー!コンニチハー!ホンジツハ、オモチカエリデスカ?ソレトモコチラデオメシアガリヤガリマスカ?」
しまった!最悪どころじゃかった!!
ライラさーん!へっぽこがポンコツになってますよー!!
「おはようございます、ラバンダさん。今日はこの依頼を受けようと思いまして」
タマちゃん!何で普通に接してるの!?
「コチラノイライトイッショニ、ドラゴントウバツノイライハイカガデスカ?」
「俺たちに死ねと?」
「今日は薬草採集だけで構いません」
「タダイマ、セットデゴチュウモンイタダクト、ヒジョウニオトクニナッテオリマスガ」
「単品でお願いします」
「カシコマリマシタ。コチラノバンゴウフダデオマチクダサイ」
受諾のスタンプの押された依頼書を渡された。
これ以上何を待てと?
その間、周囲からの奇異の視線に晒され続けることに限界を感じた俺は、タマちゃんを引っ張ってギルドを出た。
「今日のラバンダさん――」
昨日の夜に何があったんだろうか……
教えてライラさん……。
「調子良さそうでしたね」
……よし!森へレッツゴー!!