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第28話 おばあちゃん、どうして?

「タイセイさん!行きますよ!!」


 完全にコボルトたちに気付かれた俺たちは、一気に走り出してコボルトへと向かう。


 幸か不幸か、コボルトたちは逃げ出す素振りを見せることはない。


 そして、距離が近づいてくると、月明かりでその姿が徐々に見えてきた。


 俺が想像していた狼男とほぼ変わらないその姿。


 全身を黒い体毛に覆われて、その顔は犬というよりも、やはり狼に近かった。


 身長は170センチの俺と変わらないくらいだが、その長く突き出た口からは鋭い牙が顔を覗かせていた。


 おそらく、その手にもヤバそうな爪があるんだろうね。


 しかし、ここにきて逃げ出すわけにはいかない!!


 俺は勇気を振り絞ってナイフを抜いた。


『【称号】ダービージョッキーの効果で全てのステータスが100%アップします』


 は?へ?え?


 これが大舞台?


 判定ガバガバじゃね?


 いや、今は不満は言うまい。これはラッキー。


 明らかにそれまでとは力が全身に漲ってきているのを感じる。


 すでにそれまでの恐怖心はどこにも無かった。


「俺が前に出る!!タマちゃんは後方から支援お願い!!」


 今の俺なら、目の前のコボルトを倒すことは造作も無い。それが感覚で分かっていた。


 しかし、万が一にも取り逃がすわけにはいかない。


 その為に、【弓使い《アーチャー》】のタマちゃんにはサポートに回ってもらうのが一番だ。


「分かりました!!タイセイさんも気を付けて!!」


 そう言ってタマちゃんは、今朝買ったばかりの新しい武器を構える。


 鋼で出来た綺麗な刃渡りのロングソード。


 違う、それじゃない。


 何?その位置からそれを投げるつもりなの?


 どうしても欲しいって言ってたから買うの止めなかったけどさ。


 早く剣士とかに転職しようね。



「ガウゥ!!」


 走ってくる俺にコボルトの1匹が向かってきた。


 2足歩行が出来るくせに、走る時は4足走行なのか。


 そのスピードは、これまで遭った魔物の中でもダントツに速い。


 ――が、こちらのスピードも今は2倍になっているので問題ない。


 お互いの距離が一気につまってきたが、コボルトは速度を落とすことなく向かってくる。


 俺は止まってナイフを構え、コボルトに対して迎撃態勢を取る。


 残りが5メートル程となったところで、コボルトが地面を蹴って飛び掛かて来た。


 大きく開いた口から見える牙。その両手にはやはり鋭く長い爪が生えていた。


 どっちでくる?牙か?爪か?


 どっちであっても、今の俺なら余裕で躱せるはずだ。


 そして、カウンターで一撃を入れてやる!!


「タイセイさん!!気を付けて!!」


 後ろからタマちゃんの声が飛んできた。


 大丈夫だよ。コボルトの動きは暗闇でも十分に見えてるから。


 だから――間違っても、その剣を投げてこないでね。後ろには気を付けられないから。



「ガアア!!」


 空中で叫びながら向かってくるコボルト。


 俺はその口と手に意識を集中して、どちらが来ても対応出来るように構えた。


――くるっ。


 え?コボルトは突然、空中で身体を回転させた。


「へぶしっ!!」


 左の頬を何かが直撃して、俺は体勢を崩してよろけた。


 何?何が起きた!?


 ダメージはほとんどない。防御力も2倍になっているおかげだろうか?


 しかし、それ以上に、何が起きたのか分からないことで混乱していた。


「大丈夫ですか!?」


 タマちゃんの声にはっと我に返ると、コボルトは俺に向かって威嚇するように唸り声を上げていた。


 まずい!!いくら強さが2倍になっていても、見えない攻撃はどうしようもない。


 他の3匹のコボルトも合流して、俺は4匹の見えない攻撃をしてくる敵と対峙することになった。


 どうする!?見えない攻撃と牙に爪。


 これはヤバい……。


「タイセイさん!!コボルトは回転して尻尾で攻撃してきます!」


 尻尾かーい!!


 それで回転したのか……。


 いや、しかし――


「爪で攻撃してきたりしないの!?」


「長く鋭い爪は作物を刈り取るのに使う為です!!」


「大きな口と牙は!?」


「大きな口と牙は刈り取った作物を食べる為だよー!!」


 赤ずきんか。


 コボルトたちを見ると、4匹ともが尻尾をフリフリしながら威嚇してきていた。


 俺は息をふうっと吐いて肩の力を抜くと、ゆっくりとコボルトたちへと歩き出した。


 コボルトたちは威嚇を続けていたが――その間合いに入った瞬間に飛び掛かってきた。


 俺はそのタイミングで一気に距離を詰めて、コボルトが回転をする前に、その無防備に晒されている腹にナイフを突き立てた。


「ギャン!!」


 仲間の悲鳴に反応した2匹が同じように飛び掛かってきたので、俺はそのうちの1匹を同じように仕留め、尻尾が空振りして着地したもう1匹は、こちらを振り向こうとしたタイミングで、その首へとナイフと振り抜いた。


 残りは1匹、と思った瞬間――その1匹は仲間がやられたことで逃走を図ろうと走り出していた。


 まずい!!素早さが上がっているとはいえ、競争となれば簡単に追いつけるほどの速度差はなさそうだ。


 それでも追いかけるしかないと、走り出した瞬間――


――ヒュン!!


 どこかで聞いたような風切り音と共に、何かが俺の耳元を通り過ぎた。


「ギャン!!」


 そして遠くで悲鳴を上げて倒れるコボルト。


 そして俺の頬を僅かに流れる鮮血。


「やった!当たったー!!」


 そんな喜びの声を上げるタマちゃんへと振り向くと――


 その手に握られていたロングソードの姿は無かった……。



 かくして――悪い狼さんは、猟師さんによって撃ち殺されたのでした。


 めでたし、めでたし……。




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