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第30話 何かある?何がある?

「で、そんな魔物って何だ?」


 さて、次の目標は決まったのだが、そもそもこの世界の知識が無いに等しい。


 すばっしこそうな魔物だと可能性が高そうに思えるんだけど、どんなのがどこにいて、どれくらいの強さなのかが全然分からない。


 てか、それなりに強い奴なら、元々素早いんじゃね?って話になる。


 タマちゃんに一応聞いてみようとは思っているけど、彼女が魔物と戦った経験は、俺とそんなに変わらないんで、あまりあてには出来ないと思っている。


 そりゃあ、俺に比べては知っているだろうけど、前回のコボルトにしても、実際に見たのも初めてらしいので、知識だけで速そうな魔物はこんなのがいるみたいですとかって言われても、俺もあまりピンと来ないんじゃないかな?


「んー。ピンとこないですね」


 あ、そっちがピンと来ないんだ。

 俺の説明が悪いんかな?


「でも、タイセイさんが試してみたい事には興味がありますね。というか、それが実際に出来るとしたら、私に付けることの出来るスキルも強くなるって事ですよね?」


 確かに。

 取り外しが出来るんだから、進化したスキルをタマちゃんに付けることも出来ると思う。


「多分――ね。今付けてる「気配察知(小)」を進化させることだって――」


「それで「豪運(特大)」とかあったら、競ンバで負ける事無くなるじゃないですか!?」


 ……うん。


「そしたら、これから先、遊んで暮らすことだって――」


 これからって、まだそんなスキルがあるかすら……いや、豪運持ちの魔物って何さ。


 そんなの絶対に倒せないじゃん。


 もし、俺たちが倒せる強さだったとしたら、出会うことも出来ないんじゃない?


 豪運なんだからさ。


「……まあ、それはさておき。これからも目標はスキルを集めながら依頼をこなしていくって事で良いかな?」


「そうですね……。それだったら――昨日みたいに、森以外の郊外での依頼を中心に受けていきましょうか?遠くへ行く事のある依頼だったら、この近辺にいない魔物もいっぱいいるでしょうし」


「遠くへ行く依頼って、他にどんなのがあるの?」


 まあ、昨日の依頼にしても、全然近所だったけど。


「多いのは護衛の依頼でしょうか?他の街に行く商人とか、旅の馬車に着いていくやつですね。あとは、他の街で塩漬けになっている依頼がこちらにも回ってきているとか」


「後のは面倒なやつが多そうだから、やるなら護衛依頼か。それはFランクの俺たちでも受けられるの?」


「ランクは……微妙ですね。Fランクだと、なったばかりの初心者も含まれますから……」


「ああ、そうか。登録当日でも受けられるとかだと依頼主も困るね」


「あ、でも、ギルドの推薦があれば、簡単な護衛とかだったら受けられるかもしれないです」


 推薦?俺たちが?


 無理だろー。




「ええ、もしこちらでよろしければ、私が先方へ伝えますよ」


 推薦貰えたー。


「え?ライラさん?本当に俺たちで構わないんですか?」


 とりあえず相談してみようということになり、翌朝一番でギルドに行った俺たちを待っていたのは、意外なまでな返答だった。


「はい。こちらの依頼は隣のナニカールの街までの護衛依頼ですので、それほど危険なことはないかと思います」


 いや、街の名前がすでに何かありそうですけど?


「ナニカールまでですか?それなら、普段は護衛なんていらないんじゃないです?」


 タマちゃんはさすがにこの辺りの地理には詳しいので、ライラさんが言うように、本当に危険は無いような近くの依頼の様だ。


「普通はそうなんですけどねえ……」


「普通は、ですか。今回は何かーるんですか?」


 いかん、つられてしまった。


「いえ、特には……ただ、この依頼主の方が、遠方から来られている行商の商人の方でして、何回説明しても万が一の事があったらと言うんですよ。しかも、依頼料が安いんで、他の冒険者の方は引き受けてくれなくて……」


 ケチで小心者の商人。


 何か大成しそうだな。


 ライラさんが出してくれた依頼書を見ると、報酬は銀貨3枚とある。


「ナニカールまではどれくらいかかるんですか?」


「そうですね。馬車での移動になりますので――ここを朝出れば、野営を挟んで翌日の昼頃には着くかと思います」


 往復で2泊3日か。薬草採集と同じくらいの報酬にはなるな。


 でも、この金額だと、普段から普通に依頼を受けている冒険者だと見向きもしないだろう。


「タマちゃんはどう思う?」


 俺としては受けても良いと思っている。


「私は――受けてみたいです。護衛依頼をこなせるようになって、初めて一人前の冒険者って感じがするので」


 あ、そう言われるとそんな気がする。


 魔物を倒すだけじゃ、ゲームの主人公と変わらないよね。

 そういうのはレベル上げしてる勇者の仕事だ。


 今の俺たちの目的はスキル集めだけど、基本は冒険者なんだということを忘れていた。


 一昨日の夜に、怖さを実感したところだというのに、それでもなお、どこかゲーム感覚でやってたんだと反省した。


「――ライラさん、その依頼でお願いします」


「分かりました。では、こちらの依頼を受けるという事で、先方にはお二人のことを伝えておきますね」


 これが初めての護衛依頼だ。

 気をしっかりと引き締めていこう。

 もし何かあった時は、俺たちだけじゃなくて、依頼主の人の命もかかっている。


 依頼中はスキル集めの事は忘れて、しっかりとやらなければいけない。


 今の俺はこの世界に来て一番真剣な顔をしているはずだ。


「タイセイさん?何かいつもより顔がおかしいですよ?」


 いつもよりって何!?


 普段から少しはおかしな顔って思ってんの!?


「ソノダさん、そんなに今から気合い入れていたら、当日までに疲れちゃいますよ」


 そう言ってライラさんは微笑んでくれた。


「なにせ――出発は2週間後ですから」


 うん、それまでこの顔はもたないね。




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