さて、初めての護衛依頼に意気込んでいたところだったのに、その出鼻をくじかれたような状況になってしまった。
2週間かあ……。
それまでどうするかな?
ライラさんに依頼主への連絡をお願いして、俺たちは依頼書の張られている掲示板へと向かった。
しかし、話をしている間に目ぼしい依頼はすでに他の冒険者たちに取られていて、残っているのはお約束の薬草依頼くらいだった。
「今日は薬草探しに行きます?」
タマちゃんも掲示板を見ながらそう言う。
今日は諦めてそうするかな、そう考えていたところに声をかけてくる人物がいた。
「タイセイくん、タマキちゃん、まだ今日の仕事は決まってないの?」
それは若い人間の女性で、彼女はDランク冒険者のトワリューフさん。
黒いローブを着ている、職業【黒魔導士】の魔法使い。
Dはあくまでも冒険者ランクだ。そう――他の意味は無いよ。
そしてお姉さん系美人だ。お姉さん系美人だ!!
大事な事なんで2回言いました。
「トリュフさん、おはようございます」
あだ名はトリュフ。
当然、命名は俺。
「ええ、おはよう。それで、まだ決まってないのだったらお願いがあるんだけど」
「分かりました。引き受けましょう」
美人の頼みは断れまい!!
「タイセイさん?トリュフさんはまだ何も言ってないですよ?」
おっと、背後から殺気を感じるぞ。
「すいません。で、俺たちにお願いって何ですか?」
「もしあなたたちが良かったらなんだけど、私と一緒に依頼を受けてもらえないかしら?」
「え?トリュフさんと一緒にですか?」
「ええ、私たちのパーティーは今朝コモドワームの討伐依頼を受けたんだけど、メンバーの2人が朝食の後に急にお腹を壊して寝込んじゃって…」
「コモドワーム……」
タマちゃんがぼそりと呟いた。
「それは……大変ですね。でも、俺たちはFランクですよ?トリュフさんたちが受けるような依頼を手伝えますか?」
ランクは1つ違うだけで大きく評価が変わってくる。
強さとは必ずしも比例しないとは言うが、魔物討伐などでランクを上げた人だと、それだけ強い相手を倒してきたということなのだから、やはり強い事に変わりはない。
ランクのギャップというのはそんなにあるものでは無かった。
俺たちはFランク。トリュフさんはDランク。
そこには2段階も差がある。
しかも、その彼女たちがパーティーを組んで受ける依頼なのだから、俺たちがその仲間の代わりを務めるのは荷が重いと思う。
「ライラさんに聞いたわよ。あなたたち、昨日はコボルトを4匹倒したんでしょ?それも暗闇の中2人で」
女性の情報網はこの世界でも早いらしい。
「倒しましたけど、コボルトですよ?トリュフさんだったら、同じ条件でも瞬殺でしょ?」
「まあ、それはそうだけど。それだけ戦えるなら十分よ。今回の相手は前衛がいない状況で魔法を使う私1人だと、ちょっとやりにくい相手なのよね。あ、あなたたちに盾になれという訳じゃないのよ。私が魔法を使う時間を稼いでもらいたいの」
いえ、あなたの人生の盾になら喜んでなりましょう。
おっと、何故か背後の殺気が増した気がするぞ。
「タイセイさん、気のせいですよ」
そうか、タマちゃんがそう言うなら信じよう。
「本当にそれは俺たちでも出来そうなんですか?」
「そうね。私も普通のFランクの人にだったら、こんな話はしないのだけれど。何故かあなたたちからは他のFランクの人とは違う何かを感じているのよねえ。これがランクのギャップってやつかしら?」
スキルの分かな?
「タイセイさん、これはチャンスかもしれないです」
「チャンス?」
トリュフさんとお近づきになる?
「今の私たちじゃ、絶対にDランクの依頼なんて受けられません。でも、手伝いとはいえ、これを達成することが出来たとしたら――」
「多分、これまでの功績と合わせて、Eランクへの昇格はあるんじゃないかしら?」
「マジですか!?」
それはかなり大きい。
ランクが上がれば、今後受けられる依頼に幅が生まれるということになる。
当然、遠出をしても割に合う依頼も受けられる。
それは魔物を捜してスキルを集めるという目的の俺たちには、願っても無い話だ。
「じゃあ、タマちゃん。この話を受けるという事で良い?」
「はい。そうしましょう」
「ありがとう!助かるわ!」
「こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ、早速だけど出かけましょうか?一応、3日くらいは往復の移動でかかる予定だから、準備とかして、1時間後に旅馬車のところに集合で良いかしら?」
「はい、ではそれで」
そうして、俺たちは初めてのDランクの依頼に参加することになった。
綺麗なお姉さんとの旅……いや、未知なる冒険を前に、俺の心には滾るものがあった。
ぐはあっ!!
え?タマちゃん?何で急に足を蹴ってきたのかな?