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第32話 パンが無ければ焼けば良いじゃない

 城門近くにある旅馬車の停留所?に俺たちは約束の時間に到着した。


「お待たせしました」


 トリュフさんは誰かと違って、ちゃんと先に来ていた。

 まったく、その誰かにも見習ってもらいたいものだ。


「じゃあ、乗りましょうか。運賃は私が出すから」


 トリュフさんの好意に甘えながら俺たちが馬車に乗り込むと、すでに何人かの人が先に乗っていた。


 幌馬車の中はそれほどの広さはなく、乗れて10人ちょいくらいだ。


 トリュフさんが操縦席?側の1番前に座ったので、俺はその隣に座ろう――とする前に、すすっとタマちゃんが俺を追い越して、そこに座った。


「危険を未然に防ぐのって大事ですよね」


 そんなことをトリュフさんに言っているタマちゃん。


 はて?どういう意味だろうか?


「では時間ですのでそろそろ出発します」


 運転手さんがそう言った時、席にはまだ空きはあったが、すぐにそこには何やら荷物が運び込まれて埋まった。そして馬車は目的地である「ワリトーク」の町へと動き出した。


 ちなみに、馬車の運転手は「御者ぎょしゃ」と言うんですよ。と、タマちゃんがこそっと教えてくれた。


 うん、独り言には気を付けなきゃ恥をかくな。



「いやあ、冒険者の方が乗っている時は、毎回安心感がありますなあ」


 少し進んだところで、御者さんがトリュフさんの方を向いてそんなことを言ってきた。

 ぽっちゃり黒ひげで、どこかあの王様に似た雰囲気のある癒し系の顔だ。


 ちゃんと前見て操縦してくれよと一瞬思ったが、すれ違う人や馬車はめったにないので、車とは違ってわき見運転も危険は無いのかもしれない。


 まあ、危なかったら馬が自動で反応するというハイテク仕様だからな。


「あら?ワリトークまででしたら、危険な目に遭うことはほとんど無いのではないですか?」


 トリュフさんが不思議そうに聞き返した。


 おっと、この流れは……。


「いやあ、ここ最近の事なんですけどね」


 おい、やめろ。


「旅の商人や馬車が盗賊に襲われてるらしいんですよ」


 フラグを立てるな。


「でも、今日は安心して進めますなあ」


 盗賊さん、お待ちしておりますよ。



 なんてことを思いながら、俺1人がビクビクしながら乗っていたのだが、特に何のイベントが起こることなく、1日目の野営地点に到着してしまった。


 してしまった?いや、別に何か起こることを期待していたわけじゃないよ?


「タイセイさん、どうかしました?何かずっと落ち着かない様子でしたけど?」


 馬車から降りてほっと一息ついていた俺にタマちゃんが話しかけてくる。


「今からそんなに緊張しなくて大丈夫よ。コモドワームは身体は大きいけど、そんなに危険な相手じゃないから」


 トリュフさんは、俺がコモドワームの事に緊張していると勘違いしたらしく、そんなことを言ってくる。


「……そうですね。初めての魔物との戦いって考えて、意識しすぎていたみたいです」


 とりあえずそう返した。


 まさか急に、この後に盗賊が来るぞー!なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われる。


「タイセイさんでも、そんな人間らしいことを考えることがあるんですねえ」


 失礼にもほどがあるぞ。


「まあ、まずは食事にしましょう。お腹が満腹になれば、気持ちも落ち着くわよ」


 俺たちは御者さんが準備してくれた焚火の傍へと移動して、出発前に買い込んでいたパンと干し肉、それと竹のような筒に入れてもらったスープを取り出した。


 うーん。普段は宿の美味しい食事に慣れてしまっているから、こういうのはあまり食欲が湧かないなあ……。


 お腹空いてるから食べるけどね。


「わあ!トリュフさんの食事、凄い豪華ですねえ!!」


 もしゃもしゃと干し肉を噛んでいると、タマちゃんの大きな声が聞こえてきた。


 ん?そういえばトリュフさんはどこで食べてるんだ?


 タマちゃんの声の方を向くと、トリュフさんは焚火から少し離れたところにいた。


 どこから持ってきたのか、テーブルがそこには設置されており、その前の椅子にトリュフさんは座っていた。


 トリュフさんの後ろには、手を前で組んで立っている女性がいる。

 あれ?あの人って、馬車に乗ってた人だよな……。


 そして、トリュフさんの手にはワイングラス。


 そのグラスにワインを注いでいく男性。

 やはり一緒に馬車に乗っていた人だ。


 え?何してんの?


「お待たせいたしました」


 そう言って2人の男性が皿に乗った料理を次々とトリュフさんの前に運んでくる。

 ここからでも分かるくらいに、温かそうな湯気が出ている。

 またまたこの人たちも馬車に乗っていた人だ。


「トリュフさんて、いつもこんな感じなんですか?」


「ええ、私はどうも干し肉とかの携帯食が体に合わなくて……」


 もしゃもしゃもしゃ。


「冷たいスープもどうも苦手で……」


 ぐびぐびぐび。


「パンも焼き立てじゃないと―――」


 あんた何故冒険者やってんの。


 え?何?じゃあ、遠出の依頼の度に、専属のシェフ連れてきてるの!?


 じゃあ、後ろの人は絶対にメイドさんだよね?


 いくらなんでも、お嬢様がすぎる!!


 命を賭けてやってる冒険者の人たちに失礼すぎるだろ!!


 これは強く言わなければいけないよな。


 俺は立ち上がってトリュフさんのところへ近づいていった。


「あ、タイセイ君。良かったらあなたたちも一緒に食べない?」


「いただきます!!」


 強く言ってやったぜ。




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