「きゃあぁぁぁ!!タマちゃん早くー!!」
「タイセイさん!あんまりちょろちょろしないでください!!本当に当たっちゃいますよ!!」
「そん、そんな、そんなこと言ったってー!!気持ち悪いもんは、気持ち、悪いんだからー!!」
うにょうにょうにょうにょ――
「うにょうにょすんなー!!」
無数の触手を伸ばしながら俺だけを狙ってくる巨大ヒマワリチックな魔物。
音に反応するらしく、大声で逃げ回る俺に照準を合わせてきているようだ。
じゃあ騒ぐなって?
「いやー!!触手気持ち悪いー!!」
のだから仕方ないでしょ?
ぬるぬるうにょうにょは生理的に無理!!
「バックスさん!!助けて―!!」
「いえ、私はロリ姫様の護衛の任務がございますので」
冷静すぎるくない?
目の前で襲われてる人がいるのにさ。
「あああー!!アースウォール!!」
俺とヒマワリの間に魔法で土の壁を作り出す。
くそっ!最初からこうしてたら良かった。
ヒマワリは壁に激突して、両脇から触手だけがうにょうにょと見える。
「タマちゃん!!今だ!!」
「何がですか!?」
「早く撃てよ!!」
ふざけてる場合じゃねーよ!!
――ぴぎゅうぅぅぅぅ!!
壁の向こうで意外と可愛らしい悲鳴が上がった。
見えていた触手も一瞬ピーンと伸びて、ゆっくりとしなだれていく。
こちらからは見えないが、タマちゃんの放った矢が当たったんだと思う。
動かなくなったヒマワリを確認すると、頭?花?の中心部分をタマちゃんの矢が貫通していて、ひまわりをアースウォールに磔にするように刺さっていた。
それを見てようやく俺はほっと胸を撫でおろした。
『ラブリーフラワーを倒しました。
経験値1200を手に入れました』
『職業【ラブリーフラワー】のステータスがドロップしました。
職業【ラブリーフラワー】のステータスをステータスインベントリへ保存します』
あいつ、そんな名前だったのか……。
全然ラブリーじゃねーよ。
逃げ回っていただけだったのに俺も戦闘に参加したと判断されたのは、どうやら俺の作った土壁に激突したことで攻撃を与えたと認定されたようだ。
今はロリ様たちがいるので、ステータスの確認はダンジョンから帰ってからにしよう。
「タイセイさん。大丈夫でした?」
のんきなトーンでそんなことを言いながらタマちゃんがゆっくりと俺の方へと歩いてきた。
「とりあえず大丈夫。ほんの少し前までは全然大丈夫じゃなかったけど……」
「そんなに触手が嫌いなんですか?こいつはそんなに強くなかったし、見た目も結構可愛らしいのに」
「いや、これが可愛らしいとか……。そりゃあ花の部分は可愛らしいかもしれないけど、下のうにょうにょは違うでしょ?」
花の部分が可愛らしいのはあくまでも触手と比較した場合に限るが!
「これですか?ぷるんぷるんして可愛らしいですよ?」
――ぴと。
いつの間に持ってきたのか、タマちゃんの手には切り取られた触手が握られていて、それをひょいっと俺の頬にくっつけると――
――くるん。
その勢いで顔の周りを触手が一周して巻き付く。
微妙に生暖かく、にちゃっとした独特な感触が顔全体に……。
「――ひいぃぃぃぃ!!」
「ね?気持ちいいでしょ?」
俺は怒りの感情が湧き上がる暇もなく意識を失ってしまった。
消えゆく意識の中、最後に思ったことは――
タマちゃん。当分晩御飯抜きな。
その後も度々魔物の襲撃を受けたが、よくてCランク中盤くらいの敵ばかりだった。
ラブリーフラワーはあれから出てきてないけど、俺は普通の木の蔓にもずっとビクビクしながら進んでいる。
まあ、それでも他の魔物に後れを取るようなことはなかったけど。
「本当にタイセイ様はお強いのですね。それに聞いていた話では魔法は使えないということでしたが、それもどうやら間違いだったようですし、実は魔法の仕える職業なのでしょうか?」
ロリ様が突然感心したように言った。
いや、あなたは俺たちがそれなりに強いのが分かってたから呼んだんじゃなかったの?
でもラブリーフラワーの時に不用意に魔法を使ったのは不味かったか……。
この世界では魔法を使えるのは魔法職に就いている人だけ。それなのに無職のはずの俺(その他だけども)が魔法を使えるのは不自然すぎるな。
「……実は魔法は使えたんですよ。向こうの世界にいた時から」
イケるか!?
「まあ、そうでしたか!タイセイ様の世界では魔法職でなくても魔法が使えるんですね!それでしたら十六夜様たちが勇者として召喚されるのも頷けますわ!」
イケた!!
「十六夜様からはタイセイ様は無職だとお聞きしておりました。巻き込まれてこちらの世界に来てしまって、何の能力も持っていないのは本当に可哀そうだとおっしゃっておりましたわ。私もその話を聞いた時はなんて不憫な方なのでしょうと思っていたのです。それで気になってタイセイ様のことを調べてもらったところ、なんと冒険者になっていて、しかもこの短期間で大活躍されているという。無職で、スキルも持っていないと聞いておりましたので、話を聞いても最初は信じられませんでしたわ。でもどうやら本当のことらしいと。私はそんな不思議な報告を聞いた時から是非ともこの目で直にお会いしたいと思っておりましたの!」
「ん?あれ?本当は好奇心を満たすために呼ばれた?」
「ああ!タイセイ殿!姫様がおっしゃっている事はあなたたちを今回の事で選んだ理由の一つではありますが、ダンジョン探索に適した冒険者を探していたところ、お二人が相応しいということになったも事実ですので!」
バックスさん。フォローありがとう。
ちょっと帰ろうかな?って思ってたところだったから助かったよ。
「まあ、無職じゃなくて『その他』なんだけどね……」
「はい?何かおっしゃいました?」
「いいえ、特に何も」
説明するのが面倒だし、秘密にしている部分に触れないなら無職と変わらないしね。
森の中を歩くこと数時間。
「あれが地下迷宮の入り口です!」
ロリ様がそう言って指さした先には、岩が積み上がってできたかまくらのような洞窟の入り口が見える。
ようやく目的地に着いたようだ。
洞窟の入り口上部には――
【ようこそ地下迷宮へ】
【WELCOME】
【おいでまし!!】
【ごゆっくりおくつろぎください】
そんな看板が無数に掛けられていた。
「本当にあれが地下迷宮に続いてるんですかね?」
タマちゃんの気持ちは痛いほど分かる。
「そう書いてあるんですから間違いありませんわ!!」
ロリ様の気持ちは微塵も分からない。
「……怪しすぎません?」
ダンジョンで誰がくつろげるというのか。
中に温泉でもあるとか?
そして何故あんなにアピールしてるのにこれまで発見されなかったのかという謎も残る。
「まあ……ほんの若干ですが……胡散臭さはあるような……無いような……」
バックスさんも俺と同じ気持ちらしいが、立場上はっきりとは言えないんだろう。
お勤めご苦労様です。
「さあ!参りましょう!レッツ!地下迷宮へ!!」
その言い回し気に入ってるのね。
「いや、さすがにちょっとこれは怪しすぎると――」
「とっつげきー!!」
またもやロリ様は先頭を切って穴の中へと走っていった。
「ロリ姫様―!お待ちくださーい!!」
で、バックスさんも追いかけていくっと。
森に入って来た時と同じ展開。
取り残された俺とタマちゃん。
「タイセイさん…どうします?」
「どうするって言っても……」
このまま帰るって選択肢はありますか?
あるなら帰りたいんですけど。
でも、あんな小さい女の子を放っておいて帰るとか出来ないよねえ……。
「……行こっか」
「……ですね」
俺たちは顔を見合わせて大きなため息をついたのだった。
はあぁぁ……。