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第60話 静かに♪湖畔の♪森の奥地へ♪

「こちらから入れます」


 王城へ連れていかれた翌日。

 俺とタマちゃんはコノツギ王国の北に広がる「この世の森」、その入り口に立っていた。

 入り口といっても別にきちんと整備された道があるわけじゃなくて、案内されるままに森の前に立っているだけなんだけどね。


 その案内をしてくれているのが、昨日俺たちが城で会った人物――えっと……。


「ヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラデルナードですわ」


 そんな俺の心を読む新たな人物。

 赤毛の長い髪をなびかせる小柄な12歳の少女。


「ひゅーなーど、ぼらんち、うるふしゃらしゃら……」


「ですから、ロリとお呼びくださいませ」


「いえ、それはマズいです!」


「ではフルネームで」


「いえ、それは無理です!」


「ロリ姫様、ここから入るんですか?道とか無いみたいですけど?」


「タマちゃん早まるな!!ロリ姫様は更にマズイ!!」


 いろいろマズイ!!

 俺の中の何かがそう叫んでいるんだ!!


「でも、私はフルネーム覚えられないですから……」


「いや、それは俺もそうなんだけどさ」


「タイセイさん。諦めてロリ姫様とお呼びくださいませ」


 そう諭すように言ってくるのは後ろに控えていたバックスさん。

 今日は鎧を着こんで、本職である騎士としてこの場に同行していた。

 こうして見るともう騎士にしか見えない。

 騎士が魚屋ねえ……。

 先入観もあるとはいえ、よくもまあ誤魔化せたもんだわ。


「……ロリ様。本当にここから入るんですか?どこかに道があるとか?」


 これが俺のギリギリの妥協!

 タブンナ近郊の世界の森。最初に俺たちが薬草採集やこのあいだの狩猟祭で入った場所は、長年の探索によって途中までは道のように開拓された場所があった。

 しかし、今目の前にあるのは、どう見ても未開拓の木が生い茂った場所だ。


「大丈夫ですよ。見ていてください」


 ロリ様はそう言うと、ゆっくりと森へと近づいていく。


「通してもらえますか?」


 目の前の木に向かって話しかけるロリ様。

 すると――


 ガサガサガサガサ――


 森の木々がそれに応えるかのように動き出し、ロリ様の前に森の奥へと続く道が現れた。

 なんじゃこれ。


「この道を進んだ先に地下迷宮への入り口があります」


 何事もなかったかのように笑顔でそう言うロリ様。

 俺とタマちゃんは呆然としたまま出来たばかりの道を眺めていた。


「お二人とも不思議に思われるでしょうが、これが姫様の生まれつき与えられた力なのです」


 バックスさんは当然知っていたんだろうけど、知らなかった俺たちはそんな説明されてもすぐに納得出来るようなことじゃあない。


「ロリ姫様凄い!!植物と会話できるんですね!!」


 タマちゃんは受け入れるのが相変わらず早い。

 本当にそれは凄い才能だと思うよ。

 俺はまだその境地には達していないし、永遠に達するつもりもない。


「姫様は人には見えないものが見え、人では無いものと心を通わせることが出来るのです。しかしこのことは極秘事項となっておりまして、この国でも知る者は極一部となっております」


 人には見えないものが見える……トリュフさんの上位互換がここにもいた。

 この能力があるからこそ、今回の依頼は少数精鋭で他国の者という制限がついたんだろう。

 最悪、秘密が漏れる前に消してしまえるように……。


「ふふふ。本当ならみんなに教えてあげれば、もっと何かの役に立つかもしれないんですけど、お父様が絶対に秘密にしろっておっしゃるんですよ」


 他に同じような能力をもつ人がいるかどうかは知らないけど、この力が広く知られたらマズイことになるのは理解出来る。

 それは戦争の際に障害物を無視して攻め込んだり、逆に敵の侵攻を止めることが出来るだろうから。

 つまり、その秘密を知ってしまった俺たちはこの時点でヤバい事になったのは間違いない。


「城でも申し上げましたが、このことはお二人も絶対に秘密にしていただきたく存じます」


 バックスさんは、少し声のトーンを落としてそう言った。

 脅されてる?


「うっかりバラしたら消されますか?」


 今更なので直球で訊いてみた。


「いやいや、私と姫様にそんなつもりはありませんよ。しかし、陛下たちを説得できるかと言われると……」


「その時は私が絶対にお父様を説得いたします!!十六夜様のご友人を危険に晒すような事にはいたしません!!」


 十六夜様……十六夜久遠。本名、鈴木花恵さん。

 俺と一緒にこの世界へ召喚された本当の勇者の一人。俺的印象は厨二委員長。

 旅の途中でこの国に立ち寄った彼女たちは、どういうことかロリ姫様と出会い、そして何故か懐かれてしまっていた。

 その際、これもどういうことか俺の事がロリ姫様に伝わってしまっていた。

 異世界から召喚されたことも含めて……。

 どうせあのチョロイン三人組が妹キャラに転がされて喋ったんだろうな。


 何にせよ今はこの二人の言葉を信じるしかない。

 本当に最悪の場合は、あのへっぽこ王様に泣きついて匿ってもらおう。

 なあに、飲み屋のお姉さんが喜びそうな物を渡せばちょろいちょろ――


「タイセイ様、タマキ様。では早速参りましょうか!」


 ロリ様がそう言うと、まずはバックスさんが先頭に立って歩き始めた。


「歩ける程度の道はございますが、この先は魔物が普通に出てきますのでお気を付けください」


 そしてバックスさんの後にロリ様が続いて歩きだ――


「え!?姫様も行かれるんですか!?バックスさんも!?」


 おいおいおい!それは聞いてないぞ!!

 こんな小さな女の子を、それもフリフリのドレスを着たままで森の中へ!?

 もしかしてダンジョンの中にも入ってくるつもりか!?


「だって、地下迷宮の中を私が探索するのが依頼の目的ですわ」


 やっぱり中までついて来るつもりなんだ!?

 ……え?そんなん聞いてないけど?

 俺たちが探索するだけじゃないの?

 昨日聞いた話だと……

 新しく発見した地下迷宮の調査を頼みたい。王様に先に報告しちゃうと立ち入りに制限がかかるから、その前に中がどうなっているのか知りたい。という話だったと……。

 『中がどうなっているのか知りたい』……姫様自身の目で見てってこと!?


「……でも護衛とか聞いてないですよ?俺たちも初めて入る場所ですから、ロリ様を守りながらというのは難しいかもしれませんが……」


「ああ、それは大丈夫です。ロリ姫様の護衛は不肖私バックスめが務めさせていただきます。お二人は姫様とパーティーを組んでいただいて、共に地下迷宮の探索をお願いいたします。私のことはロリ姫様の周りにいる不審な魚屋くらいに思っていていただければ大丈夫かと」


 そんな不審者がいたら余計に不安だわ。


「さあ!参りましょう!――レッツ!未知なる世界へ!!」


 ロリ様は軽快にスキップしながら森へと入っていった。

 むしろ少しは警戒してほしい。

 仕方なく俺とタマちゃんはその後を追っていく。

 まだ俺には全然状況の整理がついていないのに。


「タイセイさん。これって途中でロリ姫様を守ったら、後で護衛分の報酬も貰えるんですかね?」


 あ、タマちゃんは別の意味で整理ついてた。

 この子、やっぱりスゲエな。


 でもパーティーメンバー助ける度に料金が発生していたら関係がギスギスしちゃうからね?





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