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第62話 エスカレーターとエレベーターの区別っていつ頃からついた?

 こういうのって大体トラップとかがあったりするもんだからと考えながら、地下へと続く長い階段を慎重な足取りで降りていく。

 先頭をタマちゃん。そのすぐ後ろを俺。そしてロリ姫様、バックスさんと続く。

 タマちゃんが気配察知で先を探りながら、何かあれば俺が対応出来るようにという布陣だ。


 通路の横幅は大人が三人並ぶのがやっとの広さ。天井は2メートルあるかないかくらいで少々低い。

 まあ、最初の入り口からの階段だからそんなもんか?


 気になったのは、何故か通路全体が明るいという事。

 そりゃあ外に比べたら暗いけど、別に照明が必要ではない程度には明るく、進む視界は結構奥まではっきりと見えている。

 不思議に思ってよく見てみると、通路の壁や床、そして天井がうっすらと発光しているようで、どうにもサービスの良いダンジョンだと思った。

 しかしそれにしても――


「階段長いな!!」


 階段を下りだしてから10分は経っている。


「まあ、地下迷宮っていうくらいですからね」


 ロリ様は特に気にしてないご様子。

 地下だから下りていくのが当然でしょ?ってくらいな感じだ。


「いやいや、入り口からこの長さの階段下りさせられるんだったら、この先の迷宮がどれだけの広さになるか分からないですよ?ロリ様だって陽が落ちるまでには戻らないといけないでしょう?」


 お城から何と言って出てきているのか知らないけど、一国のお姫様が夜になっても戻って来なかったら大騒ぎになる。

 下手したら俺たちが誘拐したとか言われかねない。


「私でしたら3日は戻らなくても大丈夫ですわ」


「は?そんなに?」


「お友達とキャンプに行ってくるとお父様には伝えてありますので」


 夏休みの小学生か!!

 一国の姫がそんな理由で外泊出来るわけないだろう!!

 それに姫様とキャンプ行くような友達って誰!?


「ですから、野営に必要なものを持ち出すことが出来ましたわ」


 多分、バックスさんが背負っているバックっスね……ごほん!バックの中身のことなんだろう。

 いや、まだその理由に納得したわけじゃないからね?


「携帯食に十分な水。小型のナイフに火おこしの道具。折り畳みの椅子とテーブル。あと、最終日にやる花火も用意しておりますぞ!」


 花火はいらん。

 荷物になるから捨ててしまえ。

 それにどうせナイフ準備するなら、ロリ様が護身出来る用のを準備してくれ。


「……そうですか。じゃあ、行けるとこまで行きますけど、これ以上は危ないと思ったら引き返しますからね。俺たちのじゃなくて、バックスさんだけじゃロリ様の身を護るのが難しくなったら――ですよ」


「はい。それは承知しております。私のせいでお二人を危険に晒すわけにはまいりませんから」


 あなたが同行している時点で、俺たちの今後の身が危険なんだけど。

 本当に大丈夫そ?

 ダンジョンから出た瞬間に逮捕されたりしない?


「タイセイさん。もう少ししたら開けた場所に出ます」


 何だかんだで階段を下りる事30分。このまま地下帝国まで続くのかと思われた階段がようやく終わりを迎えようとしていた。

 次来るまでに誰かエスカレーターを作ってくれ。




「これが地下迷宮なのですね……」


 階段を抜けた先にあったのはそれまでの階段通路よりも広い通路。

 陽のある日中と変わらない程に明るく、縦横5メートルくらいのトンネルのような広さの通路が真っすぐに奥に向かって続いていた。


 壁も床も立派な大理石のような美しい石造りで、天井には豪華なシャンデリアが通路に沿って並んでおり、壁にはところどころに絵画が飾られてある。

 その脇の高そうな花瓶に生けられている花の良い匂いが微かに漂ってくる。


 うん。これは人の家だ。

 王様とか貴族とか、そういう金持ちとか権力者の人の家だ。


「初めての場所なのに、何故か落ち着きますわ」


「でしょうね」


 ロリ様は普段こういうとこに住んでますよね?


「私も……何か懐かしい気持ちに……」


 タマちゃんも昨日一緒にお城に行ったよね。

 多分それだよ。

 懐かしむ程時間経ってないよ?


「そう言われれば私もどこかで見たことがあるような」


 職場だからな。

 バックスさんはそう言われなくても見たことあるよ。毎日そこに勤めてるんだからさ。


『【デジャヴ】

デジャヴ(既視感)とは、過去に経験・体験したことのない初体験の事柄であるはずにも関わらず――』


 デジャヴと違うから黙っててくれるかな?




「なるほど。言われてみれば城の中と似てますわね」


 これは地下迷宮ラビリンスというよりも地下宮殿パレスの中?

 あれだけ長い階段を下りて来たってことは、地下に巨大な空間があって、城のような建物がそこに建ってるのか?

 じゃあ、ここに住んでるのは誰だ?

 昔住んでいた人の持ち物だったとしたら、その人が今も生きているとは到底思えない。

 いつからあるのかは知らないけど、少なくとも何十年か、何百年か……。ロリ様が最近ここを見つけるまでの間、ここを訪れた人はいないはずだ。


「ちょっと思ってたのとは違いますけど、油断はしないでください」


 家主がいるいない関係なく、未知の場所なのだから気は抜けない。

 もしかしたら、こちらの警戒心を解くための罠なのかもしれないんだから。

 罠?誰の?魔物が?


「タマちゃん。魔物の気配は無い?」


 全く足音が聞こえない猫のような歩き方で先頭を進んでいるタマちゃん。

 そのたまに無意識で出てくる猫っぽさは何なのか。


「今のところは…何も感じな――感じました!複数の何かがこちらへ向かってきます!」


 タマちゃんがそう叫ぶと、俺は瞬時に剣を抜いて構える。

 バックスさんはロリ様を護るように前に立ち、タマちゃんも弓に矢をつがえて正面に狙いを定める。


「気配の感じは?」


 俺は初見の魔物なのかどうかを聞く。


「初めて感じる気配です。でも――魔物には間違いなさそうですし、その数もどんどん増えてきます!」


――どどどどどどどどー。


 通路に鳴り響く「どどどどどどどー」ってな音が聞こえてきた。

 集団の何かが近づいてきてる足音なんだろうけど……何か音に緊張感が無いな。


 そしてようやくその姿が確認出来た。

 全身毛むくじゃらのもこもこした大きな体で、四本の短い手足を懸命に動かしながら走ってくる。

 短めの耳がちょこんと付いた丸い顔は、体と一体になっているような感じで首がどこか分からない。

 まん丸お目目に、おちょぼ口。

 ぷくぷくほっぺに、ピンクのお鼻。

 薄っすらと茶色の縞があるように見える毛色。

 見覚えがある。

 しかもつい最近同じ顔のやつを見た。


 そう、俺たちへと向かってきていたものの正体。それは、狩猟祭最終日に戦ったキマイラ――に付いていた顔の一つ。今回は単体としてだったが、その大きさは大人の大型犬ほどもある巨大なジャンガリアンハムスターの群だった。



 しまった!ラブリーフラワーからヒマワリの種採ってきておけば良かった!!





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