「タイセイ殿……終わったのですか?」
俺たちが戻ってくると、2人が不安そうな表情で俺たちを見ていた。
頼もしいことを言ってくれてはいたけど、内心はかなり不安だったんだろうな。
「ええ、一応ボスっぽい奴は倒しました。これで扉が開けば――」
「タイセイさん!開きましたよ!扉!」
「……らしいですよ。良かったですね」
タマちゃん。こういうのは余韻というものが大事でしてね……。
「タイセイ様、タマキ様。お疲れ様でした。そしてありがとうございます」
ロリ様がそうお礼を言って丁寧に頭を下げた。
「さっきも言いましたけど、パーティーメンバーであるロリ様を護るのも冒険者としての務めですからね。気にすることはないですよ」
これでも冒険者の端くれだからね。
「でも……」
そう言ってもロリ様は納得がいかない様子。
さすがにお姫様だけあって守られてばかりで何もしないというのは道徳的な葛藤があるのかもしれない。
「私が付いてくることは依頼する時に話しておりませんでしたので……」
「……そういえばそうでしたね」
直前になって知ったんだったわ。
知ったというか、勝手に先に入っちゃったんだわ。
ま、今更でしょ。
開いた扉をダンジョンの廊下に出る。
多分閉じ込められていたのは1時間くらいだと思うけど、何だかすごく久しぶりのような気がする。
『いろいろと倒しました。
経験値82700を手に入れました
レベルが18上がりました。
各種ステータスが上昇しました。
スキル装備スロットが18増加しました。
HPとMPが全回復しました』
部屋から一歩出た途端に通知が聞こえた。
『いろいろな職業のステータスがドロップしました。
いろいろな職業のステータスをステータスインベントリへ保存します』
手を抜くな!!
いろいろで全部まとめんな!!
それにしても……一気にレベルが上がったんだけど……。
何だこの経験値の多さは……。あの闇の奴の分かな?
「タ、タイセイ様……」
そんなことを考えていると、ロリ様が震える声で俺を呼んだ。
まさか、どこか怪我でもしてたのか?!
慌ててポーションを取り出しながらロリ様の方を見ると、バックスさんもロリ姫と一緒に怯えたような表情で自分の手の平を見つめていた。
「どうしました?2人ともそんな面白い顔をして……」
何が起こっているのか分からない俺は、恐る恐る2人に話しかけたのだけど、その時に後ろでタン!タン!と何かを蹴る音が連続して聞こえてきた。
「タイセイさーん!!見てくださーい!!凄いでしょー!!」
そして通路のあちこちから響いてステレオで聞こえてくるようなタマちゃんの声。
何かとんでもなく嫌な予感がした俺。
そおっと後ろを振り向くと、そこには無邪気に跳び回っているタマちゃんがいた。
壁を蹴って跳びあがる。天井まで到達すると、今度は天井を蹴って逆方向の壁に跳ぶ。そしてまたまた壁を蹴ると、一気に逆の壁まで跳んでく。
タマちゃんは一度も地面に足を着けることなく壁と天井を蹴って、本当の意味で跳びまくっていた。
しかも、目で追うのがギリギリのとんでもないスピードで。
「タマちゃん……。君は一体何をしてるのかな?」
「部屋を!出た!瞬間にー!!一気にレベルが上がってー!!こんなこともー!出来るようにー!なりましたー!!」
――あ!!
そんなはしゃぐタマちゃんを見て、俺は慌ててロリ様の方へ視線を戻す。
タマちゃんは楽しそうなんで放っておこう。
「まさか……2人とも……」
「タイセイ様……これは何なんでしょう?今までに感じたことのない感覚が私の中に……」
「ロリ姫様。これはレベルが上がった時の感覚でございます。しかも、一気に多くのレベルが上がった時の……」
やはり2人もレベルアップしたようで、そのことに戸惑っていただけのようだった。
バックスさんは分かる。ロリ様を護りながら魔物を倒していたんだから。でも、護られていただけのロリ様もレベルが上がった?何で?
「ス、ステータスオープン」
バックスさんが震える声でステータスを開く。
俺以外は声に出さなくても良いはずなのに、それだけ動揺してるって事なんだろうな。
俺以外って何!!
名前 バックス・フォン・カマンベール
職業 国家公務員 騎士部
レベル 28
HP 265/750
MP 114/180
STR 82 DEF 88
INT 98 DEX 44
AGI 38 LUK 51
EXP 2777/ 14700
【固有スキル】
「定時退社」(常時)
(計画性10%上昇 PT指揮力10%上昇 対人交渉力10%上昇)
【スキル】
「分析力上昇(小)」(常時)
【称号】
無し
……国家公務員?騎士部?市役所的な?
いや、それよりこのステータスって……勇者よりも強くなってない?
骸骨とか倒してただけで?
「これは……おそらくは我が国の騎士団長よりも遥かに強くなっております……。どうしてこのようなことが……。はっ!ロリ姫様は!?」
「え、ええ。ステータスオープン」
名前 ヒューナード・ボランド・ウルフシュレーゲルスターインハウゼンベルガードルフ・ロリエレット・フィラデルナード
職業 妖精王女
レベル 18
HP 60/420
MP 330/790
STR 31 DEF 28
INT 122 DEX 61
AGI 43 LUK 88
EXP 700/ 12300
【固有スキル】
「世界の声を聞く者」(常時)
(???)
【スキル】
なし
【称号】
「万物の導き手」
(???)
「トラブルメーカー」
周囲を苦難に巻き込むことによって成長を促す。
……こちらはいろいろと見てはいけないものを見てしまった気がする。
職業とか、スキルとか、称号とか……。
見てはというか、この子と知り合ってはいけなかったんじゃないかと……。
「レベル……28。ずっとレベル1だったのに……何故?それにこのステータスの数値は……」
ステータスを見てしまって、余計に動揺するロリ様。
「ロリ様……。多分俺たちが倒した魔物の経験値がロリ様にも入ったからだと思います。バックスさんにも」
そうとしか考えられない。
タマちゃんみたいにパーティーを組んでいれば経験値が分散されるのは分かる。でも、ギルドに登録もしていない即席パーティーの2人に何で経験値が……。
『本当に2人を気にせずにやる気はないけど、この頼もしい2人を最高のパーティー仲間だと思って戦おう。』
脳内で再生される俺の心の言葉。
CV ナビの声。
俺のせいかあぁぁぁ!!
俺がパーティー仲間だって思っただけでそうなるのかぁぁぁ!!