栗色の髪先を指でいじりながら、男子生徒は困惑顔を浮かべていた。
「川村くんじゃん? え? てことは拓真くんも来てる!?」
なので生徒会長の拓真を追いかけているみくにとは自然と顔を合わせることも多い。
きょろきょろと客席を見渡すみくにに、洋一は申し訳なさげに眉を下げた。
「王崎生徒会長は、今日は他校との代表生徒会に出席されてます」
がっくりと肩を落とすみくにの横で、綾香が目線で保安委員会の生徒たちを指した。
「厳しすぎるんじゃない? 生徒会長のワンちゃんたち」
保安委員会は生徒たちから陰で“生徒会長の犬“なんて呼ばれ方をしている。
そしてそのことは生徒会の耳にも入っているはずだ。
生徒会一年生洋一は、怒るでもなくしょんぼりと頭を下げた。
それはそれでなんだか子犬を思わせる。
「ごめんなさい」
「まあ、一年の君のせいってわけじゃないと思うけど」
「でも生徒の安全を守るための保安委員会が、生徒から反感を買ってる状況はいいはずないです。生徒会の一員として責任を感じます」
客席で言い合いになっている生徒たちに視線を移し、洋一はため息をついた。
「休日にわざわざ応援に来てくれた生徒たちですから、大目に見てあげてもいいと思うんですよね。穏便に穏便に……」
しかしみくにの耳には、保安委員会の生徒の高圧的な物言いが聞こえてくる。
どうやら私服姿の生徒たちは強制退去になるみたいだ。
「川村くんが言ってあげたら? 大目に見てあげようって」
洋一は頭を横にぶんぶんと振った。
「僕なんか、とてもとても。生徒会の
生徒会直属の組織である保安委員会の校外活動には、生徒会役員が最低一名同行する決まりらしい。
「彼らを動かしているのは、生徒会長ですから、僕になにか言う資格はないんです」
それを聞いて、綾香が憤りをにじませる。
「てことは、王崎拓真のせいってことか。あのむっつり冷酷優等生め」
「むっつりじゃないよ、爽やかクールダンディー王子様だよ」
みくにが目をキラキラと輝かせて、拓真の魅力を語ろうとしたときだ。
どくん。
鼓動が胸を打ち、視界が赤く明滅した。
スーパーガールの出番だ。
どこかで誰かが助けを求めているとき、悪者が現れたとき、それを知らせるためにみくにの身体には変調が生じる。
「ごめん、綾香! あたし急用思い出した!」
「え? なに? おうちの事情ってヤツ?」
「そう、おうちの事情ってヤツ! 試合中だけどごめん!」
「いいよ、そういう約束だし。あとはうちらでなんとかする!」
快く送りだしてくれる綾香に礼を言い、ベンチの奥に引っ込もうとしたら、洋一に呼び止められた。
「
その
洋一はなぜか頬を紅潮させ、思い悩んだ様子で唇を引き結んでいた。
「どした川村くん? あたし、すぐに行かなきゃなんだけど」
洋一は口を開きかけ、けれど唇を噛み、今度は声を振り絞るように言った。
「ひ、広小路先輩に伝えたいことがあって……明日の放課後、屋上で待ってます!」
それだけ言うと、生徒を連行していく保安委員会メンバーの元へ駆けていく。
綾香は「え? まさか」と、驚きあらわに口元を手で覆ったが、みくにのほうは頭をかしげていた。
「あんな深刻な顔して……。あたしに勉強でも教えてもらいたいのかな。ていうか、急がなきゃ」
みくには
その姿を見送った綾香は、呆れ顔でひとり言をもらした。
「補習常連のあんたに勉強は教わらんでしょ」