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(六)

 女のマンションをあとにし、ユニフォーム姿のみくにはひとけのない通りを清々しい気分で歩いていた。


 あの様子なら女が事件を起こすことはなさそうだ。


 それに悪の波動を出している男も、今回のことで痛い目に遭えば、少しは反省して行動をあらためるかもしれない。


 もし変わらず、さらに悪事を働こうとするなら、そのときは自分がこらしめてやろう。


 あたしはスーパーガールなんだから。


 心の中で呟き、足取り軽く歩いていく。


 ひとしごと終えた充実感でいっぱいだ。


 数限りなくスーパーガール活動をやってきたが、無事にその任務を果たしたあとはいつも気分がいい。


 もちろんスーパーガールとして出動しないのがいちばんなのだが、残念ながら悪事や悪者が尽きることはないようだ。


 だからこそ頑張んないと。


 歩きながら気合を入れなおしたときだ。


広小路ひろこうじみくに」


 不意に名前を呼ばれ、反射的に「はい」と応えて振り返った。


 通りに面したへいに寄り掛かって、少女がひとり立っていた。


 ギャルだ。


 茶髪に小麦色の肌、細い眉とマスカラを塗って目立たせた大きな瞳が華やかさを演出している。


 白いブラウスにチェックのスカートはこのあたりでは見かけない制服。


 カーディガンを腰に巻き、足元は定番のルーズソックス。


 右手に持った携帯電話にはこれでもかとストラップが付いている。


 似たような格好の女子はいくらでもいるが、これほど完璧にギャルファッションを着こなし、なによりハッとするほどの端正な顔立ちの女子高生はそうはいない。


 その美少女っぷりに息を呑むみくにに、少女はモデルのような歩き方で近づいてきた。


「広小路みくに」


 もう一度名を呼ばれて、ようやくみくには警戒心を持った。


 見知らぬ顔。


 会ったことないはずなのに、どうして彼女は自分の名を知っているのか。


 その表情はいかにも楽しげで、鼻歌でも聞こえてきそうだ。


「今日も元気に正義の味方、お・つ・か・れ」


「!?」


 みくには目を見開き、瞬時に身構えた。


 この子、あたしの名前だけじゃなく、スーパーガールのことも知ってる!?


「何者?」


 緊張感を帯びた声で問うと、少女は立ち止まり、挑戦的にニヤリと笑った。


「君の敵だと言ったらどうする?」


 敵?


 自分にとっての敵は悪者だ。


 けれど今まで悪者のほうから会いに来ることなんてなかったし、しかも少女からは悪の波動がいっさい出ていない。


 わけがわからず、みくには内心激しく動揺した。

 彼女が不気味にさえ思えた。


 でも……。


 みくには拳を握りしめる。


 目の前の少女が本当に悪者なら、スーパーガールとしてこらしめなくてはならない。


「もしもあなたが敵なら……ていうか、悪いことするのなら」


「するのなら?」


「痛い目にあってもらう」


「楽しそ」


 つぎの瞬間、少女はみくにの視界から消えた。


 いや、消えるような素早さでみくにに接近すると、その腕を取り、関節をめると同時に投げた。


 彼女の携帯ストラップがジャラジャラ音を立てる中、みくには一回転し少女の足元に落ちた。


 わずか一秒ほどの出来事に、みくには反応すらできなかった。


「痛い目に合うのはどっちかな?」


 悪戯いたずらっぽい表情で見下ろす少女に慄然とし、あわてて立ち上がって距離を取ろうとしたら、


「がんばってて偉いよ、広小路みくに!」


 不意に抱きしめられた。


「え? な、なに!?」


 困惑するみくにから身体を離し、けれど両肩にそっと手を置きながら、少女は優しげに目を細めた。


「わたし、くくりひめ。君の生みの親なんだけど」


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