ミズナルの森でのミクニの活躍を思い出していたら、雑踏の中から呼びかけられた。
「こんにちは、騎士様と魔法使いのお嬢ちゃん」
ハーミャイの大通りの街角で、声のした方へ顔を向けると、酒場の
背が低く小太りの男は、脂ぎった顔を緩ませながら
荒くれ者といった風体だ。
昼間から酒を飲んでいたのか、男は赤ら顔でニヤニヤ笑っている。
「なにか用?」
大都市ハーミャイには移住者も訪問者も多いぶん、よからぬことを企む
そんな悪人から市民を守るのも騎士の役目のひとつだ。
わたしはミクニを背後にかばいながら、男に要件をうながした。
「お嬢ちゃんたちに会いたいって方がいるのさ。とくにそっちの魔法使いの娘にね」
「あたし?」
ミクニは自分で自身の顔を指差し、目をぱちくりさせた。
男はのっそりとした動きで近づいてくると、ミクニを上から下まで舐めるように見つめた。
「いいねえ、嬢ちゃん。ずいぶんと高級品を身に着けているじゃないか」
ミクニの神コーデに目を細めている。
たしかにその装備品のひとつひとつが国の宝物庫にあってもおかしくないレベル。
大陸に名を馳せている数名の大富豪でさえ、おいそれと手が出る代物ではない。
「そんな抜群のセンスを持つ嬢ちゃんと、ぜひとも話したいって言ってるのさ、あの方が」
わたしは男を警戒しつつ尋ねた。
「あの方って誰?」
「来てくれればわかるさ。あの方のパーティーに招待しよう。うまい酒も飯も食べ放題だ」
正直、怪しさしかない。
けれど隣のミクニは目を輝かせ、うずうずとした様子で身体を揺らしている。
「行こう、ミユ! 食べ放題!」
この世界の食事に興味津々なのだろう。
完全に食欲が警戒心を吹き飛ばしてしまっている。
「よし、付いてきな、嬢ちゃん」
得意顔で歩き出した男のあとを、ミクニが足取り軽く付いていく。
こうなってしまっては、彼女をひとりでいかせるわけにはいかない。
まあ、なんとかなるとは思うけど……。
ミクニの腕っぷしはミズナルの森で証明済みだし、わたしだって騎士団長として数々の修羅場はくぐってきた。
おくれを取ることはないだろう。
そう頭では確信しているのに、ふたりに追いつこうと歩き始めたわたしは、なぜか緊張しだしていた。
男の案内で向かったのは、ハーミャイの町の南端、港湾区の奥に建ち並ぶ倉庫の一棟だった。
このあたりの倉庫は長期保管の荷が多いので、極端にひとけが少ない。
なのに、倉庫前に立つとピタリと閉じた扉の向こうから賑やかな話し声や笑い声が聞こえてくる。
「この中にあの方がいらっしゃる」
男が横開きの扉を開けている間、わたしはすぐに腰の剣を抜けるようにひそかに身構えたが、ミクニは好奇心たっぷりの表情で、無警戒に倉庫を見上げている。
その強心臓っぷりに感心していると、室内から歓声と酒と料理の匂いが、押し寄せてきた。
「ここは、あの方――リードナー様が創ってくださった楽園だ」
倉庫内には歓談を楽しみ、テーブルに用意された酒や料理に
そのほとんどが女性で、皆一様に高級そうな衣装で身を固めている。
彼女たちは熱にうなされたみたいな、やや
「な、なんか、やらし」
思わず口から洩れたが、ここまで案内してくれた男は気にした様子もない。
「来な、リードナー様に紹介してやろう」
にこやかな表情でそう言って、室内の女たちを避けつつ奥へ向かっていく。
お
身体にまとわりつくような煙だ。
ミクニとともに男のあとについていき、たどり着いたのはパーティ会場の最奥。
たんまりと食事が用意されたテーブルからやや離れた場所に置かれた大きなソファの前だった。
「リードナー様、新たな“客”を連れてきましたぜ」
「ごくろう、相変わらず仕事熱心だなおまえは」
うれしげな口ぶりで応じたのは、ソファに深々と座り、両側に下着姿の女性をはべらせた男だった。
「俺の名は……――リードナー」
両側の女の肩を抱きながら名乗った男は、目を引くほどの美男子だった。