「兄貴が
なるほど……といった様子でグランダムは顎に手を当てた。
「今は「お
ルーシファスはそうグランダムに一言伝えた。
「じゃあ、この人はスレキアイ兄ちゃんのモノになったんだね」
ウィンリルは嬉しそうだった。
「こら、ウィンリル。人をモノ扱いなどしてはいかん。相手が誰であれ、他者には敬意を払うのじゃ」
スレキアイはそうウィンリルをたしなめた。
「だいたい略奪など、一昔前に王都で流行った子供の遊びではないか」
「そうだな。懐かしいな」
「そうなの?」
「ウィンリルの時にはブームが去っていましたね。僕の世代にはかろうじて残っていました」
「男女を問わず、担がれた者は相手の命令をその日一日だけきくという遊びじゃ。
人権を無視したモラルに欠けた遊びじゃ。わしはそういうのは大嫌いじゃ」
「確かにそうだな。子供だから許される無邪気な残酷さというやつだな」
「この遊びは王都で流行り、波紋のように地方に伝播していきましたが、地方に行けば行くほど本気で相手の所有物になってしまうということが信じられていると聞いたことがあります」
「となるとこの娘の領地は魔界の最辺境。もっとも強く信じてしまっている者たちの一人かもしれんな……。兄貴、どうするんだ?」
「どうもこうもない。追い返すだけじゃ」
「ええ~。帰しちゃうの~? せっかくだしスレキアイ兄ちゃんがもらっちゃいなよ」
「こら、ウィンリル。だから人をモノ扱いするなと言っておるじゃろうが」
「あ、あの……。皆さんで何をコソコソお話しされているのでしょうか……?」
ネフェルは部屋の隅に四人が集まって、顔を寄せて話し合って話をしている姿を怪訝に思い、恐る恐る声をかけた。
「ああ、いえ。どうか気にしないでください───ってッ! うわぁッ!」
ネフェルに真っ先に顔を振り向けたルーシファスは驚嘆の声を上げた。
「どうした、ルーシファス? ───うおッ!? なんだこれはッ!?」
次に顔を振り向けたグランダムも驚愕の声を上げた。
「え? どうしたの?───って、うわぁぁッ! 何これッ!?」
ウィンリルも二人の兄と同様に驚きの声をあげた。
「なんじゃ、騒々しい。おぬしたちは何をそんなに驚いておるのじゃ───」
そういって振り返ったスレキアイも言葉を失って固まってしまった。
四人が振り返るとスレキアイの部屋が綺麗に整理整頓されていたのだ。
「な、なんだこれはッ!? 先ほどまで足の踏み場もない程散らかっていたのに、部屋が綺麗に片付けられているぞッ!?」
「至る所に山積みだった本も本棚に戻されてる……。しかも巻数がちゃんと番号順に並べられているよ!」
「し、信じられません……。これは貴女がやったのですか? いったいどんな魔法を使われたのでしょう?」
そういわれたがネフェルは涼しい顔だった。
「すみません。あまりにお部屋が散らかっていたので皆さんがお話をしている隙にお片づけておきました。あの……ご迷惑でしたでしょうか?」
ネフェルはスレキアイが固まってしまっている姿をみて不安がった。
「い、いや。迷惑ではないぞ。むしろ助かった。素晴らしいではないか」
「よかったです。ありがとうございます。私もよく部屋を散らかしてしまうので片づけは得意なんです。それとお食事の支度も整えておきました。皆様、どうぞテーブルにおつきください」
そういわれて促されたテーブルには四人分の食事の用意がされていた。
「途中までご準備をされていたようでしたので、仕上げておきました」
「わー、すごいね。そうなんだよ。ボクたちスレキアイ兄ちゃんの部屋で一緒にお昼ご飯を食べようって集まって、持ってきたお弁当をテーブルに置いたところだったんだよ」
「それを綺麗に盛り付けたというわけか」
「テーブルメイクも完璧です。まるで食事会に招待されたようです」
グランダム、ルーシファス、ウィンリルはテーブルに着くと、見違えるように豪華になった自分たちのお弁当をご馳走を見るような目で見渡した。
だがスレキアイだけは只一人、不服そうで、腕組をしたまま席に着こうとはしなかった。
「あ、あの……、どうかなされましたか?」
ネフェルは不安になった。スレキアイはどこか少し不機嫌そうでもあったからだ。
「うむ。これでは不十分だ」
「えッ?」
ネフェルは何か落ち度があったのかとテーブルを再度確認した。
しかしネフェルにはスレキアイが不十分だという落ち度がわからなかった。
「申し訳ございません。私は辺境育ちで王都中央のマナーに慣れておりませんでした。すぐに直しますので至らぬ箇所をお教えくださいませ」
ネフェルは懇願した。しかしスレキアイの返答は意外なものだった。
「いや。テーブルメイクは完璧だ。だが足らんのだ。一人分足らんのだ」
「……え?」
「だから、そなたの分の食事がないと言っておるのだ。
すぐに手配をするのでそなたの席も用意し、五人で昼食をする準備をするのじゃ」