スレキアイが自室のドアを開けると、そこには異様な光景があった。
一年生の女生徒が大きなカバンを両手に下げ、背中にも巨大な荷物を背負って佇んでいたのだ。
「カーコスの妹ではないか。なんじゃ? どうしたのじゃ? 腕の具合はもう大丈夫か?」
スレキアイがそういうとネフェルは踵を付けて「気をつけ!」の姿勢をとった。
「昨日はありがとうございました。腕の怪我はもう大丈夫です。完治しました。本日は、昨日、あなた様に略奪されたので急ぎ身の回りを整理して身一つで参った次第です」
そう言ってネフェルは腰を90度曲げて深々と頭を下げた。
「わしが略奪じゃと? 何を言っておるのじゃ?」
「き、昨日のあの行為です。
あなた様は確かに私をお米様抱っこされました。ですのでこうして参った次第です」
そういってネフェルは尚も頭を下げ続けた。
ネフェルがその姿勢でいると、背中の大荷物がスレキアイの眼前につきつけられた。
そこには鍋や皿、コップ、教科書や筆記用具、傘などに加え、衣服や布団、枕、さらには学習机、タンス、ベッドなどの家財道具一式もロープで縛られ一塊の団子のようになっていた。
これで身一つ……?
スレキアイは疑問に思ったが、そこは触れないようにした。
「まて。わしはそなたを略奪などしておらぬ」
スレキアイは撥ねつけたがネフェルには通じなかった。
「いえ! そんなことはございません! あなた様は確かに私を「お
そう言われてスレキアイは「ああ、あれのことか」とようやく合点がいったようだった。
「あれは急ぎそなたを治療せねばならぬかったからじゃ。略奪ではない」
「理由はどうであれ、あれは確かに「お
そういってネフェルは肩を震わし、ポロポロと涙を零した。
「できることはある。その荷物を持って自分の部屋に帰るのじゃ。そして略奪の事は忘れて学業に励むがよい」
「そ、そんな……困ります! 略奪された者がおめおめと引き下がることなどできません! どうかお傍に置いてください……! 下働きでもなんでもします! 後生ですから……!」
そうネフェルにすがられてスレキアイは心底参ってしまった。
確かに「お
例えるならそれは袋に入った金貨が道端に落ちているようなものだった。
そんなものが道端にあれば誰かれなく寄ってたかって金貨を奪い取り、袋さえもずたずたにされてしまうのは火を見るより明らかだ。
今ネフェルがスレキアイの傍に置いてもらえないということはそれと同義だった。
その為、ネフェルも必死だった。何が何でもスレキアイの傍に置いてもらう覚悟だった。
そしてその覚悟はスレキアイにも十分伝わっていた。
その為、スレキアイがどうしたものかと唸ったが、そうしているとグランダムがスレキアイの肩越しに顔を覗かせた。
グランダムはスレキアイの部屋を訪れていたのだ。
「なんだ、兄貴。困りごとか?」
するとそのグランダムの発言を皮切りに、次はウィンリルがスレキアイの脇から顔を覗かせた。ウィンリルもスレキアイの部屋を訪れていたのだ。
「えっ!? スレキアイ兄ちゃん問題発生なの!? なになに!? どんなトラブル!?」
ウィンリルはトラブルがどんなイベントなのか興味津々だった。
そんなウィンリルの後に、今度はルーシファスがスレキアイの反対側の肩から顔を覗かせた。ルーシファスもスレキアイの部屋を訪れていたのだ。
「兄上がトラブルなんて珍しいですね。おや? この子は……? はて? どこかで見たことがあるような……?」
スレキアイは深く長く、心底参ったといった様子でため息をついた。
そして「わかった。とにかく中に入るのじゃ。そのような格好で部屋の前におられては目立ってかなわん」と根負けし、ついにネフェルに入室を許可したのだった。