「というわけだらか安心するのじゃ。おぬしを枷で縛ったり、牢につないだりはせん」
スレキアイは略奪とは王都で流行った子供の遊びだということをネフェルに丁寧に説明した。
最初はその説明を受け入れられないネフェルだったが、最終的には真相を理解し、ようやく落ち着きを取り戻した。
「略奪とはそうだったのですね……。私はすっかり信じてしまっておりました。お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんでした」
ネフェルが落ち着いたのを見てグランダム、ルーシファス、ウィンリルの三人も安心した。
「その上で改めて訊くが、それでもそなたはわしの
「はい。元の部屋は引き払ってしまいましたので私は行くところがありません。ご迷惑とは存じますが、次の部屋が決まるまで隅にでも置いていただければ幸いです」
「うむ。幸い部屋が片付いたら埋もれていた一部屋が発掘された。その部屋を使うがよい。そなたが望むなら自分の部屋としてずっと使ってもよいぞ」
スレキアイは綺麗に片付けられた部屋の奥を指さし、解放された一部屋を指し示した。
「いえ! ずっとだなんて! 新しい部屋が見つかるまでで結構です! 公爵家のご令息にそんなご迷惑はおかけできません」
「まずこの学園にいる間は家柄については不問じゃ。爵位の上下を振りかざすことなく、皆等しく学園の生徒として振る舞うよう校則に定められておる。まあ、ほとんどの者はこの校則を守っておらぬが、しかしそれでも気にするな。わしとそなたは学園の先輩と後輩ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない。
そしてこの部屋だが、一部はわしの自室だが、大部分は学園の錬金術部の部室を兼ねておるのじゃ。その為、そなたに与えようとしているあの部屋はわしの部屋ではなく、学園の部室じゃ。じゃからそう気を遣わんでもよい。
───じゃがしかし、そうはいってもそなたは気を遣ってしまうじゃろう。その為、条件を3つ出す」
「条件……? ですか?」
「そうじゃ。条件じゃ。そなたに部屋に与える代わりにやってもらいたい条件を3つだす。そうすればそなたも少しは気が楽じゃろう」
「確かにその通りです。どうかそうしてください。3つの条件をお願いします」
「うむ。ではまず一つ目じゃが───」
スレキアイが条件の説明をしようとすると、ルーシファスが割って入った。
「まず一つ目ですが、兄上に代わり、お部屋の整理整頓をお願いします!
兄上は片付けが壊滅的に苦手で、まさに混沌の申し子───どんなに整頓された部屋でも瞬く間に足の踏み場もない程に散らかしてしまうので、ぜひともお願い致します!」
急にルーシファスが割って入ったのでスレキアイは迷惑顔をした。
「なんじゃルーシファス。邪魔をするでない。わしはそんな条件は───」
スレキアイがそうルーシファスをたしなめている隙に、次にグランダムが割り込んだ。
「もう一つは昼食の手はずを頼む。我々はどんなに忙しかろうと兄弟四人で昼食を摂ると決めている。いつもは持ち寄った弁当を広げて食べているだけだったが、今日の昼食は本当に旨かった。明日からも是非お前にテーブルメイクと盛り付けをしてもらいたい」
グランダムがそう条件を述べると、これにウィンリルも続いて割り込んだ。
「最後にキミもボクたちと一緒にゴハンを食べること! 大勢でゴハンを食べると美味しいと思ったのは本当だよ! だからキミも絶対にボクたちと一緒にゴハンを食べてね!」
弟たちが次々と割り込むのでスレキアイは心底困ってしまった。
「まてまて、お前たち。何を勝手に条件を出しておる。どれもわしが出そうと思っていた条件と全く違うではないか」
「では兄上はどんな条件を出すおつもりだったのですか?」
「まずわしがすることを放っておくこと。食事は自分が食べたいものを食べ、嫌いな野菜などを相手に無理やり食べさせたりしないこと。そしてネフェルも気にせず好きに過ごすこと、じゃ」
弟たち三人は異口同音に「それでは部屋がまたすぐに魔窟になる。食事も偏って不健康になるし、何より美味しくない」と申し立てた。
あまりに弟たちが詰め寄るのでスレキアイは根負けし、言い分を聞いてやることにしてしまった。
そして三人の提案に、ネフェル自身も異存はなかった。
「すまんな、ネフェルよ。謝りついでにわしからもう一つだけ条件を追加させてくれ」
「もちろんです。この3つの条件は部屋を与えていただくのであれば行って当然のことばかりです。これでは私の申し訳ないと思う気持ちが晴れません。ぜひ何なりと条件をお申し付けください」
「うむ。ではもう一つの条件じゃが、この部屋は錬金術部の部室も兼ねていると申したな。そこでこの部屋に住まう間、そなたにも錬金術部に入って欲しい」
「錬金術部、ですか?」
「そうじゃ。先の保健室での一件を見るに、そなたは薬の調合が得意なようじゃ。ぜひその力を我が錬金術部に貸して欲しい」
「はぁ、構いませんが、錬金術部の諸先輩たちの前で私の調合がどれだけ通じるか……」
「それなら心配いらないよ」
そう告げたのはウィンリルだった。
ネフェルは心配いらないとはどういうことだろうと思った。
「だって錬金術部の部員はスレキアイ兄ちゃんと、あともう一人しかいないんだもん」
それを聞いてネフェルは「えっ?」と驚いた。
「部屋が汚すぎてな」
グランダムは腕組みをして唸った。
「そうなんです。せっかく部員が入っても、みんなすぐに辞めちゃうんです」
ルーシファスも苦笑気味だった。
「何を申すかお前たち。第一に先ほどから部屋が汚いだの散らかっているだの申すが、あれは散らかっているのではない。手に取りやすいところにすべての物が配置されているのじゃ。あれほど錬金術の実験がし易い状態はなかったものを……。それに部員が辞めるのは、単に錬金術の腕が足りず、わしについてこれないだけじゃ」
スレキアイはそう言ったが弟たちは猛烈に反論した。
「いや、兄貴も頻繁にアレがないコレがないと探し回っているではありませんか」
「よしんば兄上には場所がわかったとしても、他人には全くわかりません」
「そんな状態でいろいろ実験するから失敗ばかりじゃない。ボヤ程度で済むならいいんだけど、毒ガスが発生したり爆発したり……」
ネフェルはなるほどと、部員が辞める理由を納得した。
そして自分も毒ガスを吸ったり、爆発に巻き込まれたりしないか少し心配になったが、そういうことなら錬金術部に入部することはやぶさかではないと考えた。
そうして入部の意思をスレキアイに伝えると、スレキアイは満足そうに頷いた。
「うむ。正直に言うととても助かるぞ。知っての通り、来月、新入生歓迎の学園祭がある。わが錬金術部も出し物をせねばならぬのだが、わしともう一人の部員の二人では人手が足りなくてな。宜しく頼むぞ」
「はい。お任せください。むしろ私も所属する部活が決まって助かりました。
グランダム様、ルーシファス様、ウィンリル様も本当にありがとうございま、うみゅ!?」
ネフェルがお礼を言おうとしたが、ルーシファスがそっとネフェルの口に人差し指をあてて言葉を制した。
「お礼はいいですよ。むしろお礼を言いたいのはこちらの方です」
「そ、そんな私がお礼を言われるなんてとんでも、うみゅ!?」
ネフェルがとんでもないと言おうとすると、今度はウィンリルがネフェルに抱きついて言葉を遮った。
「やったね! なんか家族が増えたみたいで嬉しいよ! ボクはずっとお姉ちゃんか妹が欲しかったんだ!
あ、でもキミは僕と同い年だよね。じゃあ、どうなるんだろう? 姉? 妹? うーん……。
───よしッ! キミの方が後から来たから妹だ! ボクはキミを自分の妹のように大切にするよ! ボクの事は本当のお兄ちゃんだと思って頼ってね!」
「そ、そんな家族だなんて。恐れ多いことで、うみゅ!?」
ネフェルが恐れ多いことだと言おうとすると、最後にグランダムが人差し指と親指でネフェルの頬を摘まむんで顎をクイッと引き上げた。
「それにしてもお前はとても美しい瞳をしているな。一目見た時から気になっていた。これからそのような美しい瞳を見ながら昼食が摂れるのかと思うと、胸が高鳴るな」
そういってグランダムはぐっと顔を近づけ、じっとネフェルの瞳をみつめた。
「う、うみゅ、みゅみゅみゅうみゅみゅ、うみゅうみゅうみゅみゅみゅみゅ
(あ、あの、すみませんが、お顔が近いです)」
そういわれてグランダムはハッと気づき、慌ててネフェルから顔を放した。
この時、グランダムは胸が高鳴り、顔が紅潮するのを覚えた。
グランダムにとってこのようなことは初めての経験だった。
✿.*.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.*.✿ ✿.*.。.:*:.。.ꕤ.。.:*:.。.*.✿
【後書き】
お世話になっております。柳アトムです。
今回のお話で「第二章完結!」です♪
ここまで私の小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。
( ᵕᴗᵕ )ウレシイデス
こうしてお母様がスレキアイと同室で学園生活を送ることになりましたが、ここまでのお話はどうでしたでしょうか?
(,,•﹏•,,)ドキドキ
「まさか、学生のうちに半同棲生活!?」などなどご意見ご感想いただけますと幸いです(笑
さて、次回、第三章では魔界学園で「新入生歓迎 ☆ 学園祭」が開催されます。
魔界学園の学園祭がどのようなものか、乞うご期待いただけますと幸いです。
( ᵕᴗᵕ )
この後も皆様に「面白い!」と思っていただけるよう頑張ります。
( *˙ω˙*)و
引き続き宜しくお願い致します~!
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