「ほらね。今の咆哮を聞いたでしょ? この先には危険な魔獣がたくさんいるの。早くここから離れましょう」
ユキメはそう言ってネフェルの袖を引っ張ったが、ネフェルはついその魔獣たちを見てみたい衝動にかられてしまった。
「だめだって、ネフェルちゃんっ! 本当に───本当に危険なんだからっ!」
ユキメは懸命にネフェルの袖を引っ張って思いとどまらせようとしたが、ネフェルは「ユキメお姉さん、ちょっとだけ。遠目にどんな魔獣がいるのか角からちょっと覗くだけですから」と言って角から顔を出した。
「ネフェルちゃん、ダメよ! 見ちゃダメ!」
ユキメは慌ててネフェルをひっぱったが遅かった。
ネフェルは角から顔を出し、テイマー部の出し物を目の当たりにしてしまった。
そこにはアーチ型の大きなゲートが設けられ、ファンシーな文字で「よこそ!テイマー部魔獣どうぶつ園へ!」と文字が書かれていた。
大きな檻が幾つも並び、その一つ一つにドラゴンやグリフォン、ミノタウロス、それにトロールやゴーレムといった巨大魔獣や、ドライアードやサラマンダーなどといった珍しい精霊が入れられていた。
ピエロ姿のテイマー部員が風船を配り、行き交う学生たちは魔獣や精霊を眺めて楽しんでいた。
確かに巨大な魔獣は威圧感があったが、そこにユキメがいうような危険があるようにはネフェルは思えなかった。
いずれの魔獣も精霊も、しっかりテイムされていて、大人しく檻に入っていたからだった。
「あの、ユキメお姉さん。この先に危険はなさそうです。皆さん、楽しそうにしておられますよ?」
そうネフェルは言ったがユキメは「それ以上は見ちゃダメ! ネフェルちゃん、早く戻って! 本当に危険だから!」と尚もネフェルを引っ張った。
ネフェルは何がそんなに危険なのか全くわからなかったが、ユキメがあまりに強く自分を引っ張るので、諦めて戻ろうとした。
───が、しかし、その時だった……。
ネフェルはそれを見て、まるで自分が石にでもなってしまったかのように体が硬直してしまった。
それは石化魔獣の檻───つまり鶏の頭に蛇の尾を持つコカトリスや石化する毒ガスを吐くバジリスク、さらに見た者をすべからく石像にしてしまうメデューサなど、いずれも危険な石化魔獣の檻───の、その先にある『
そして看板の傍らには小さな柵で囲いがされていて、その中に───その中に子犬や子猫など、モフモフした小動物がギュウギュウに詰まっていたのだ。
そしてネフェルの目を釘付けにしたのは、学生が一人一人順番に柵の中に入り、モフモフのヌイグルミのような小動物たちにもみくちゃにされている姿だった。
ネフェルは急速にユキメの声が遠のくのを感じた。
全神経が『モフモフふれあいコーナー』に注がれ、他のものは何も耳や目に入らなくなった。
ただただ自分の心臓の音だけがドクンドクンと鳴っていた。
ユキメの制止をすり抜け、吸い寄せられるようにフラフラとネフェルは『モフモフふれあいコーナー』に近づいた。
すると柵を飛び越え、一匹の白いモフモフの子犬がネフェルに駆け寄ってきた。
子犬は嬉しそうにネフェルの足をまわってまとわりつくと、ゴロンと寝そべってお腹をだした。
「撫でて、撫でて~」と言わんばかりのアピールに、ネフェルは為す術もなく手を伸ばし、一心不乱にお腹をワシャワシャと掻きむしってしまった。