俺は
「先ほど長谷川殿もおっしゃっていましたが、潮見城は現在、建設ラッシュ中でしてね。新しい石垣を造っているんですよ」
長谷川はいぶしかむように、俺に視線を送った。
俺は自慢するように、使者殿へと向けて説明する。
「新しい石垣は高さ十二
「そんな巨大な石垣、聞いたことも見たこともありません。『
「他の城でしたら、きっとそうなのでしょう。ですが、我が城の職人は働き者でしたね。おかげさまで、『紅雨季』にはなんとか間に合いそうです」
「そんなバカな……!」
長谷川が目を見開いた。
風間城の技術力では、とうてい真似できることではないからだ。
「疑うようでしたら、長谷川殿もご覧になりますか? いくらでも視察されても構いませんよ?」
「…………お願いします」
すでに勝敗は決している。
それでも、まだ終わりじゃない。
俺の計画通り、長谷川は潮見城の石垣建設を視察した。
そして彼は、驚くように口を開ける。
「まさか本当に、潮見城がこれほどの石垣を建造しているなんて……!」
「長谷川殿、いかがですか? 潮見城はもう、昔の潮見城ではないということを、おわかりいただけましたかな?」
「はい……たしかに理解しました。潮見城はあの頃とは、もう変わったのですね」
長谷川は、前にも潮見城に来たことがあったのだろう。
その時の記憶と、いまの潮見城の現状に、衝撃を受けているように見えた。
「先ほど皆本殿がおっしゃっていたことですが、風間城に持ち帰らせていただきます。他の五家とも、しっかり協議することをお約束いたしましょう」
これで、風間城からの一方的な支配から、潮見城が抜け出せることができるだろう。
──それにしてもこの男、面白いな。
一緒に視察をしてわかったのだが、長谷川には商売の才能がある。
変革された潮見城の経済状況にも興味があるらしく、先ほどからずっと城下内のあちこちを見て歩いていた。
このまま風間城の武家の人間にしておくにはおしい。
「長谷川殿……ここだけの話なのですが、俺には計画があるんですよ」
「計画、ですか……?」
「俺は『紅雨季』が到来しても、この潮見城に残るつもりです。それだけじゃない、この地を
「潮見城を新しい国境線に!? しかも商業都市だなんて……」
「俺はこの潮見城を、これまでの鉱石の鉱石供給地で終わらせるつもりはありません。この潮見城こそが、蒼霞国の中心となるのです!」
「そんな突拍子もない計画が、実現するとは思えませんが……」
「そう思っているのであれば、それでもいいですよ。でもその時は、風間城は新しい時代には乗り遅れてしまっているでしょうが」
「……皆本殿のその言葉で確信しましたよ。やはり潮見城には、風間城以外の資源調達手段があるのですね」
「我が潮見城はもはや、風間城との交易をすべて切り捨てても倒れることはありません。これまでと同じようなやり方では、時代に置いて行かれますよ?」
「新しい時代、ですか……」
長谷川の顔つきが、変わった。
潮見城はもう、風間城の従属地ではなくなった。
それだけじゃない、俺が何をしようとしているのか、この男は理解してしまったのだ。
こうして、風間城との会談は終わりを迎えた。
使者の長谷川は、口を閉じたまま風間城へと帰って行った。
潮見城が変わったことは、痛いほどわかったはずだ。
数日後。
風間城からの使者を追い払った俺は、次の行動を起こすことにする。
「この潮見城で、『自然科学普及講座』を開く!」