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第25話 これからの潮見城


俺は風間かざま城からの使者──長谷川はせがわ昌治まさはるへと新情報を明かす。


「先ほど長谷川殿もおっしゃっていましたが、潮見城は現在、建設ラッシュ中でしてね。新しい石垣を造っているんですよ」


長谷川はいぶしかむように、俺に視線を送った。

俺は自慢するように、使者殿へと向けて説明する。


「新しい石垣は高さ十二しゃく、幅四しゃく荒獣こうじゅうから潮見しおみ城を守るための大規模な石垣です」


「そんな巨大な石垣、聞いたことも見たこともありません。『紅雨季こううき』までに間に合うとは思いませんが──」


「他の城でしたら、きっとそうなのでしょう。ですが、我が城の職人は働き者でしたね。おかげさまで、『紅雨季』にはなんとか間に合いそうです」


「そんなバカな……!」


長谷川が目を見開いた。

風間城の技術力では、とうてい真似できることではないからだ。


「疑うようでしたら、長谷川殿もご覧になりますか? いくらでも視察されても構いませんよ?」


「…………お願いします」


すでに勝敗は決している。

それでも、まだ終わりじゃない。



俺の計画通り、長谷川は潮見城の石垣建設を視察した。

そして彼は、驚くように口を開ける。


「まさか本当に、潮見城がこれほどの石垣を建造しているなんて……!」


「長谷川殿、いかがですか? 潮見城はもう、昔の潮見城ではないということを、おわかりいただけましたかな?」


「はい……たしかに理解しました。潮見城はあの頃とは、もう変わったのですね」


長谷川は、前にも潮見城に来たことがあったのだろう。

その時の記憶と、いまの潮見城の現状に、衝撃を受けているように見えた。


「先ほど皆本殿がおっしゃっていたことですが、風間城に持ち帰らせていただきます。他の五家とも、しっかり協議することをお約束いたしましょう」


これで、風間城からの一方的な支配から、潮見城が抜け出せることができるだろう。



──それにしてもこの男、面白いな。


一緒に視察をしてわかったのだが、長谷川には商売の才能がある。

変革された潮見城の経済状況にも興味があるらしく、先ほどからずっと城下内のあちこちを見て歩いていた。

このまま風間城の武家の人間にしておくにはおしい。


「長谷川殿……ここだけの話なのですが、俺には計画があるんですよ」


「計画、ですか……?」


「俺は『紅雨季』が到来しても、この潮見城に残るつもりです。それだけじゃない、この地を蒼霞そうか国の新たな国境線にし、さらには商業都市へと発展させるプランがあります」


「潮見城を新しい国境線に!? しかも商業都市だなんて……」


「俺はこの潮見城を、これまでの鉱石の鉱石供給地で終わらせるつもりはありません。この潮見城こそが、蒼霞国の中心となるのです!」


「そんな突拍子もない計画が、実現するとは思えませんが……」


「そう思っているのであれば、それでもいいですよ。でもその時は、風間城は新しい時代には乗り遅れてしまっているでしょうが」


「……皆本殿のその言葉で確信しましたよ。やはり潮見城には、風間城以外の資源調達手段があるのですね」


「我が潮見城はもはや、風間城との交易をすべて切り捨てても倒れることはありません。これまでと同じようなやり方では、時代に置いて行かれますよ?」


「新しい時代、ですか……」



長谷川の顔つきが、変わった。


潮見城はもう、風間城の従属地ではなくなった。

それだけじゃない、俺が何をしようとしているのか、この男は理解してしまったのだ。



こうして、風間城との会談は終わりを迎えた。


使者の長谷川は、口を閉じたまま風間城へと帰って行った。

潮見城が変わったことは、痛いほどわかったはずだ。




数日後。

風間城からの使者を追い払った俺は、次の行動を起こすことにする。


「この潮見城で、『自然科学普及講座』を開く!」

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