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第28話魔法を覚えよう3

「……子猫の時と比べて、ちょっとだけ変わっている、にゃ?」

 まずは種族が猫獣人になっている。年齢も『幼体・生後一ヶ月』から十歳に変わっている。

(あとはステータスが違うかも。体力と攻撃力、防御力がFからEに上がっている。でも、俊敏性が逆に下がっているような……猫から獣人になったからとか?)

 レベルは1のまま。これは仕方ない。スライムを倒すなどのイベントは皆無だったので。

 ただ、体力などのステータスが上がったのは、純粋に子猫から獣人になったからだと思われる。

(ということは、子猫に戻れば、またステータスが変わるのかしら)

 子猫になった時にまた確認しよう。

 それはそれとして、やはりステータスもスキルも頼りない。固有スキルって、普通はすごく強かったり、使い勝手のいいものではないのだろうか。


「ねこぱんち……どういうの、かにゃ?」

 ていっ、と腕を交互に素早く動かしてみたけれど、これじゃない感がすごい。

「ひっかき。爪でひっかく? 爪……」

 じっと両手を広げて眺めてみる。特に長さもない、普通の爪だ。ひっかくどころか、無理をしたら、こっちの爪が剥がれてしまいそうで怖い。練習するのはやめておこう。

「ほうこう。……叫ぶの? これも使えそうにニャイ」

 にゃあにゃあ鳴いても、敵は倒れてくれそうにない。……もしかして、魔王にはダメージが与えらえるかもしれないが。

(そういえば、魔王って叫んだら、すぐに駆け付けてくれたよね? あれのことかな)

【咆哮】スキルは魔王を呼び出す能力。うむ。……よく考えたら、めちゃくちゃすごいスキルでは? 何と言っても、最強の魔王を呼び出せるのだ。怖いものなしである。

 そして、スキルの最後。【毛玉吐き】。……見なかったことにしよう。

「スキルの使い方は分からニャイし、やっぱり魔法にゃ!」


 初級魔法の本を読んで、何となく発動方法は分かった気がする。

 なにせ、腐っても召喚勇者。魔力はAランクだし、【全属性魔法】に適正があるのだ。

 ベッドに腰かけて、目を閉じる。

(まずは、魔力を感じることが大事。心を落ち着けて、瞑想する。魔力。魔力……)

 血が流れるのと同じように、全身に流れている魔力を見つけることができれば、発動するのは容易いらしい。

 一時間ほど、そうしていただろうか。

 何がきっかけになったのかは分からないけれど、ふと魔力の流れをつかむことができた。

 これが魔力。そう理解した途端、発動方法が分かった。

 火魔法は危ない。部屋の中で試すとしたら、水か風の魔法がいい。水魔法だと、部屋の中がびしょ濡れになってしまう可能性があるので、風魔法が最適。

 そこまで考えて、風魔法を試してみることにした。

(……風。小さな竜巻)

 てのひらを上向きにして、念じてみる。身体の中から、何かが抜け落ちるような感覚。これが魔力なのだろう。そう理解したのと同時に、てのひらの上に風が生まれた。

「成功! やったにゃ!」

 小さな竜巻が生じて、カーテンが揺れる。暴発が怖いので、消すことにした。

 消えろと念じると、竜巻は姿を消した。魔法は想像力が大切だと、初級魔法の本に書いてあったが、その通りのようだ。

 イメージで魔法が作れるのならば、現代日本人は得意ジャンルだと思う。フィクションの世界でよく見るので、想像力を膨らませれば何だってできそうだ。

(水魔法もできそう。ベッドを濡らすのは嫌だから、バスルームで試してみようっと)

 ぴょん、とベッドから飛び降りる。十歳の少女の身体は身軽だ。

 子猫の姿から人へと変わった際には、二本足で歩くのに戸惑ったが、身体はちゃんと覚えていたようで、今では駆け足やスキップだってお手の物だ。

 寝室横の小部屋に行くと、バスタブの縁に腰掛けた。この中で水を作れば、絨毯を濡らさないで済む。多少、水がはねたとしてもバスルームなので誰も気にしないはず。

(水……水道の蛇口をちょっとだけ捻ったくらいの、水)

 水滴がぽたりぽたりと落ちてくる様を脳裏に思い描いて、魔力を込めた。

「できた!」

 想像通りの水がバスタブに滴り落ちる。何もない空間から水が生まれてくる様は、とても不思議な光景だった。魔法みたいだ、と思ってしまい、くすりと笑う。みたいじゃなくて、魔法なのに。

「にゃふふふ。これで私も魔法使いにゃ」

 語尾がニャでは格好がつかないけれど、魔法が使えたことが嬉しくて仕方ない。

 風魔法と水魔法が使えたので、次は火魔法と土魔法を試したいのだが、さすがに室内で試すのは怖い。

「シャローンさんに頼もうかな?」

 だが、侍女長である彼女は多忙そうだ。侍女とメイドなどの女性従業員を統括しているらしく、本来なら子猫の面倒を見るような人ではないらしい。

 メイドさんたちは、一人で本を読むから、と仕事場に戻ってもらったので、また呼び出すのは申し訳ない気がする。

「よし、一人でこっそりお外に行けばいいにゃ!」

 しばし思案した結果、美夜はそう判断を下した。

 ちょっとだけ、魔法を試したらすぐに戻ればいいのだと考えて、意気揚々と部屋を後にしたのである。



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