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第27話魔法を覚えよう2

◆◇◆


 図書室は魔王城の三階の奥、突き当りの部屋だった。

 学校の図書室くらいの広さがあり、入口には司書らしき人物がいる。おそらくは、猛禽類の獣人の男性で、厳めしい外見をしている。だが、所作はとても美しく、紳士だった。

「持ち出しをする際には、こちらの書類にサインをお願いします。鎖付きの本は持ち出し厳禁です。書見台で読むのは許されておりますが、私に一声かけてください」

「ありがとうございます、にゃ」

 丁寧に説明してくれた司書の男性に、ぺこりと頭を下げる。

 本は高価で希少な品だと教えてもらったので、汚したり破ったりしないよう、気を付けなければならない。うっかり爪を出してしまわないように手を握り込んで、そーっと移動する。


「ミヤさま、どんな本を読みたいですか? 私のおすすめは恋愛小説です。そちらの棚にありますわ」

「それはあんまり読みたくにゃい、です」

 異世界の恋愛小説というジャンルはどんな内容なのか。

 ちょっとだけ気になるが、今はそれよりも別の本が読んでみたい。

 この世界の歴史書や地理の本、魔獣図鑑も面白そうだ。薬草図鑑も今後、何かの役に立ちそうなので、目を通しておきたい。

 ジャンルごとに区分けされている棚を、ひとつひとつ眺めていくことにした。

 気になる本があれば、そっと指さす。そうすると、メイドさんが取ってくれるのだ。

 高い場所にある本はどうするのだろうかと思ったら、何やら呪文を唱えると、本が浮いて降りてきたのには驚かされた。あれは、きっと魔法!


「魔法の本が読みたいにゃ!」

 せっかく、剣と魔法のある異世界に召喚されたのだ。ぜひとも、魔法を使ってみたい!

 だが、肝心の魔法の使い方が分からないので、魔法について書かれている本で勉強がしたい。

「魔法の本ですね。こちらです」

 メイドさんに案内された場所には、魔法やスキルについて記された本が十冊近くあった。

「ふわぁ……」

 どれも羊皮紙を束ねて丁寧に縫い合わされた魔法書で、興味深かったが──

「これ。これを借りたい、にゃ」

「初級魔法の本ですね。こちらで良いのですか?」

「これで魔法の使い方を覚える、にゃ」

「ふふ。分かりました。こちらの本なら、持ち出しができるようなので、借りて帰りましょう」

 やった! ぱらぱらとめくって見たけれど、子供向けの教本だったのでちょうどいい。

 さっそく自室に持ち込んで、魔法を勉強しよう。この姿でいられるのは三日間だけ。

(あと二日で、魔法を使えるようにしたいわ)

 魔法を使えるようになれば、子猫の姿でも「最弱勇者」だなんてバカにされなくなるに違いない。

 そういう風に自分をバカにしている悪口を、城内でお散歩中に耳にしたことがあるのだ。

(確かに私は、よわよわな可愛い子猫ちゃんだけど、一応『召喚勇者』なんだから! 悪口言ったヤツにはぎゃふんと言わせてやる!)

 貸し出し用の書類にサインをした美夜は、初級魔法の本をぎゅっと大事そうに抱き締めた。


◆◇◆


 そんなわけで、図書室から借りた本を持って、自室に戻った美夜。

 子猫の姿の時は、魔王の寝室か執務室でずっと過ごしていたが、この姿になってからは自分用の部屋を魔王が用意してくれたのだ。

 客間と聞いていたのだが、ホテルのスイートルームのような、豪奢な部屋だった。

 魔王のベッドよりは小さいけれど、クィーンサイズの天蓋付きベッドは十歳の少女が一人で眠るには広すぎる。

 室内には高級そうな手織りの絨毯が敷かれており、クローゼットやライティングデスク、ソファセットまである。驚いたのは、部屋の横に小部屋があり、トイレとバスタブがあったことか。

 廊下に出てトイレを探さないで済むのは正直、とてもありがたい。

 バスタブは魔道具になっているようで、魔力を通すと適温のお湯が張れるらしい。

 クローゼットにはワンピースが吊るされている。靴も三足、いつの間にか用意されていた。

 抽斗ひきだしには靴下や下着が畳んで収納されている。ちなみに、下着には獣人用らしく尻尾の穴があった。後ろ側にボタンが取り付けられており、穴の大きさを調節できるようになっていた。

 ナイトウェアは木綿のネグリジェだ。肌触りがいいので、お気に入りだ。半日ほどで縫い上げてくれたお針子さんたちには感謝しかない。

 読書をしたいから、とメイドさんたちには断っているので、自室には一人きりだ。

 綺麗で優しいエルフのお姉さんたちは大好きだが、さすがに四六時中一緒にいるのは疲れてしまう。本を読む時くらいは、一人でのんびりしたい。

 シャローンがお茶とお菓子を用意しておいてくれたので、じっくりと引きこもれそうだ。

(さて、魔法のお勉強の時間です)

 ソファに腰かけて、わくわくしながら本を開いた。



 一時間後、初級魔法の本を読破した美夜はすっかり冷えてしまった紅茶で喉を潤した。うん、冷たくても美味しい。さすが高級茶葉。お菓子はクッキーだ。ナッツが入っていて、香ばしい。

 ぽりぽりと無心でクッキーを食べる様子は、リスのよう。ここに魔王がいれば、鼻血必至の愛らしさだ。幸い、美夜しかいないので、平和におやつタイムを楽しめた。

(ふぅ。美味しかった。糖分も補給できたし、さっそく試してみよう)

 まずは、ステータスを確認してみよう。【鑑定】スキルを発動して、自身のステータスを見る。

「鑑定。……むむっ」



<勇者・ミヤ>

レベル1

種族 猫獣人(十歳)

体力 E

魔力 A

攻撃力 E

防御力 E

俊敏性 F

魔法 【全属性魔法】

スキル 【全言語理解】・【鑑定】

固有スキル 【猫パンチ】・【ひっかき】・【咆哮】・【毛玉吐き】



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