「みなさん、こんまし~。あなたのお耳の恋人ましろだよ~!」
:ましろん、こんまし!
:ましろん、安定の可愛さ!
:ましろんの癒しボイス最高!
ましろの甘ったるい演技ボイスに釣られたリスナーたちが、熱狂的なコメントで埋め尽くしていく。
モテモテのましろに目を向けると、「なにこのノリ……」とでも言いたげな顔でコメント欄を眺めていた。
コイツ、ある意味プロ根性すごいな。表情が見えないからって、本音を一切出さずにリスナーの要求に応えてる。
そのプロ根性だけは見習わなくちゃ。それ以外のリスナーを見下す態度はマネしないようにしよう。アタシは、ましろと違ってリスナーちゃんを大切にしているからな。
「みんな、こんクロ~。キミのお耳の王子様クロナだ」
:クロ様、こんクロ!
:クロ様のイケメンボイスで耳がとろけそう
:これを聞くために社畜のように仕事がんばりました!
「リスナーちゃん、ありがとう! 仕事がんばるのもいいけど、無理しちゃダメだよ。無理して体調崩したら、人生もったいないからね」
:そうですよね!
:でも、クソ上司に仕事を押しつけられます。
:クロ様が上司なら最高の職場なのに
「そうなんだ。最悪な上司がいるの辛いね。アタシも頑張り屋さんのみんなと働きたいな。でも……定時で帰らせてあげないよ」
:ドS上司来ました!
:クロ様、私をこき使ってください
:ドSボイスありがとうございます! 録音して永久保存します!
あれ? アタシの想っていたのと違う。今のは、こき使うって意味じゃなくて、ずっと一緒にいようねって意味だったんだけど。
フォローしないと、みんなが勘違いしちゃう。
訂正しようとしたアタシを見て、ましろが小さく首を振る。「そのままで大丈夫」と目が語っている。
マジか? いや……まぁ、リスナーちゃんたちが喜んでるなら、いいか……。日本語って難しいな。次は間違えた伝え方にならないように気をつけなくちゃ。
「今日は、みなさんに大事なご報告があります! なんと、ついにボクらの『しろ×クロちゃんねる』が登録者50万人を突破しました!」
:8888
:ましろん、おめでとう!
:ご祝儀だよ! ¥10000
「
ましろ、スパチャが入ったときだけ満面の笑みを浮かべるのやめろ。
お前は金の亡者か!? 確かにスパチャが入ったらテンションが上がるけど、そんなあからさまな態度はマズいだろ。リスナーに見えないからって目を輝かせるなよ。
まぁ、アタシたち配信者の収入はリスナーのスパチャ頼りな部分もある。チューチューブなどの配信サイトからの再生数に応じた収入は本当に微々たるもの。動画に広告がついたら、別だけど。
昨日の放送事故配信みたいに100万再生いけば、かなりデカい。
あとは企業案件が出来れば、もっと大きな収入が期待できる。
アタシたちみたいな駆け出し配信者には、まだ先の話だけどな。
企業が無視できないくらいの配信者になってやる!
「みんなの応援のおかげだ。ありがとうな!」
:クロ様、50万人達成おめでとうございます!
:自分のことのように嬉しいです
:わたしからもご祝儀です ¥20000
「え!? 20000円!? 嬉しいけど、ダメだよ! 大事なお金なんだから……」
アタシがリスナーちゃんからの大金スパチャにテンパっていると、「センパイ、ボクより大きな金額のスパチャもらってる」とホッペを含まらせて悔しそうな顔をしている。
ましろちゃん、いい顔してるじゃない。あなたのリスナーにも見せてあげたいよ。ふふっ、今日は気分がいいな。
ましろはスパチャのありがたみを見なした方がいい。お前は、スパチャをもらい慣れているから喜びが薄いんだ。
それにましろのリスナーは、お前に貢ぐことに命を賭けている。
ましろに貢ぐためなら飯代を削る、キャバクラ通いのオヤジリスナーばかり。
アタシのリスナーちゃんたちは、一生懸命働いたお金をアタシのために使ってくれるんだ。
アタシにとって、リスナーちゃんのスパチャは金額じゃない。気持ちなんだ。アタシのために出してくれる。その心意気だけでいいんだ。
今回は、いつもスパチャもらって調子に乗っているましろには良い薬だな。
:ましろん、俺からもご祝儀 ¥50000
:オレも ¥50000
:ぼくも ¥50000
おいおい! 15万だと! アタシのバイトの月収より多いじゃねぇか! アタシよりも多くスパチャをもらったましろは「センパイ、ごめんね?」と、わざとらしく首を傾げてみせた。
しかも、その顔はちっとも申し訳なさそうじゃない。むしろ「ボクの方が人気ですね?」って言いたげなドヤ顔だ。
本当にムカつく! この憎たらしい顔を、お前のリスナーにも見せてやりたい!
「みなさん、たくさんのスパチャありがとうございます! チャンネルも収益化復活出来たし、ボクらも安泰だね」
「おい、リスナーちゃんたちの前で下世話な話するな!」
:ましろんブレイカー発動!
:それでこそ、ましろん!
:現金な子め ほら、おこづかいだよ ¥50000
「やったー! スパチャありがとうございます!」
追加で5万だと!? この数分間で、アイツ20万も稼ぎやがった。
ちょっと待て、普通に月のバイト代超えてるんだけど!?
こんな簡単に大金が動く世の中、なんかおかしくねぇか!?
「お前ら、ましろを甘やかすな!」
「てへへ」
「……てへへじゃねぇ!」
:クロ様、お金も大事ですよ
:わたしたちはクロ様たちが生きがいなので
:少ないですが、わたしからご祝儀です ¥10000
「り、リスナーちゃん!」
やめてくれ! ましろのパパ活リスナーと張り合わないで!
……でも、嬉しい。
自分なんかのために、大切なお金を使ってくれる人がいる。
それなのに、ましろはこんな大金を平然と受け取って、涼しい顔で「やったー!」って……。
なんか納得いかねぇ!!
「センパイ、やったね」
「う、うるさい! 別に狙ったわけじゃねーし……リスナーちゃん、ありがとう……!」
:クロちゃんも現金だな
:おめでたムードぶち壊し(笑)
:まさに花より団子だな
「おい、ましろ! お前のリスナーを黙らせろ」
「もうセンパイ、ひどいよ。みんな、お口にチャックだよ」
:ましろんのお口にチャック!
:オレのハートを打ち抜かれた!
:可愛すぎる!
たいしたこと言ってないだろ、アホリスナーが!
ましろが言えば、何でもいいのか!?
「花より団子か」
「センパイ、どうしたの?」
「花より団子って言うけど、団子って聞いて春のことを思い出した」
「……ああ、お花見の時の?」
:お花見!?
:ましろんとクロちゃんでお花見したの!?
:気になる! 詳しく!
「そういえば、あの時のお団子事件は伝説だったね」
:伝説のお団子事件!?
:ましろんのワードセンス(笑)
:詳細を希望
「いや、そんな、配信で話すほどのネタじゃ……」
「センパイ、もう話すしかないね!」
「そうだな……あれは今年の春」