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第25話 春のPON祭りの開催!?

 センパイは、チャンネル登録者50万人記念配信でボクとのお花見デートについて話し続ける。

 もう、ボクのほっぺについたあんこを取ってもらったエピソードをそんなに深掘りしないでよ。凄く恥ずかしかったんだから。


 でも、恋人同士みたいなやり取りで嬉しかった。

 ボクはセンパイに右のほっぺに触れながら、あの時のことを鮮明に思い出して顔が火照り出す。


「ましろ? どうした? 顔が赤いぞ?」


「な、なんでもないよ!」


:クロ様……それはないですよ

:クロ様、それはボケで言っていますか?

:わたしはボケだと信じてますよ!


 デリカシーのないセンパイは、自分のリスナーちゃんのリアクションが理解できないのか、ポカンとした顔をしている。リスナーちゃん、あなた達が慕っているクロ様は乙女心に鈍感な王子様なんですよ。


:ましろちゃん、やっぱりリアル彼女だったんだね……

:クロ様のあんこ取り職人に転職したい!!

:¥10000じゃなくて、¥50000払うからお願いします!


「いやいや、リスナーちゃん。そんなことでお金払っちゃダメだよ! ほっぺのあんこくらい、アタシがいつだって取ってやるよ」


:クロ様、わたしのほっぺのあんこを取ってください!

:わたしも!

:今すぐにお願いします!


 センパイってば本当に天然で困っちゃう。どうして火に油を注ぐことを無意識でやっちゃうかな。あなたのファンである彼女たちは、センパイがしてくれることは何でも受け入れちゃうんだよ。


 なんか、センパイが調子に乗っているからムカつく。

 調子乗りのセンパイをちょっと困らせたい。

 何か、センパイをいじれるネタないかな……。

 あ、そうだ。


「センパイ!」


「なんだ、ましろ」


「この話のオチって何だっけ?」


「はぁ? お前も一緒にいたから知っているだろ」


「そうだけど……ちょっとド忘れしちゃった」


:ましろんは、ド忘れを覚えた!

:ましろんの特殊能力が上がった!

:ド忘れ覚える早すぎ笑


「リスナーさん、ありがとう! ねぇ、センパイ教えて!」


「だから、あの時……」


 おや? センパイ、何か思い出したみたいだね。

 お団子事件のオチを話そうとするセンパイの目線が明らかに泳いでいる。センパイってわかりやすいね。もしかして、オチをねつ造しようとか思ってないよね?


「えーっと……お団子のおかわりを買って……あ、落としたんだ……うん、そうだ、落としたんだ」


:うん? それだけ?

:思っていたのと違う?

:これは春のPON祭りでは笑


「おいおい、そこまで言うことないだろ!」


:クロ様、良い意味で事件ですね……

:大事件じゃなくて、ほっとしました。

:春のPON祭りがぴったり


「リスナーちゃんまで、ひどいな」


「リスナーさん、ごめんね。このエピソードは。まだチャンネル登録者10万人目指していた時の話なんだよね」


「そうなんだよ……つまらないオチで悪かった」


:クロちゃんがデレた!

:おかしいな……クロちゃんが可愛く見える

:ちょっと視力がおかしいから、眼科行ってくる!


「おい! アタシをいじるな!」


:デレたクロ様、可愛い!

:ここは切り抜きポイント!

:切り抜き師さん、出番ですよ


「リスナーちゃんまで! いじらないでよ!」


 あたふたするセンパイを見て思わず笑いそうになる。

 もう、センパイは可愛いな。


「おい、ましろ! なに、笑ってるんだよ」


「内緒だよ!」とボクは人差し指を唇に当てて、とびきりのスマイルをセンパイに見せた。


「配信がグダグダになっちゃったから、今日はここまでにしょうか。みなさん、今日は来てくれてありがとうございました! おつまし~」


「おい、勝手に絞めるなよ! みんな、おつクロ~!」


***


「おい、ましろ! 勝手に配信終わらせるなよ!」


「だって、センパイが配信ネタをつまらないオチで終わらせちゃったから」


「お前が……思い出せるから……」


「へぇ? ボクが何を思い出せたの? ほら、言ってみなよ」


「あぁ! もういい! アタシは寝る!」


 センパイは顔を赤くして自分の部屋へと逃げていった。


「センパイ……可愛すぎるよ」


 配信ではカッコいい王子様になりきろうとしているのに、普段はクソ真面目なポンコツちゃん。このギャップがボクの心を10年近くもつかんで離さない。


「何がお団子を落としただけだよ……」


 あのお団子事件は、そんなつまらないオチではない。センパイがボクのほっぺについたあんこを取ってくれた後の続きがちゃんとある。

 センパイは最後まで話すのかなって思っていたのに、本当の事実オチを思い出して、恥ずかしがっちゃうなんて。想定の範囲内だけど、あそこまで慌てるとは思わなかった。

 センパイは、いつもボクの予想を超えてくれる。

 そんなセンパイだから、ボクはずっと好きなんだよ。


 あのお団子事件の真相はボクとセンパイしか知らない。

 これを話したら、センパイの人気が今以上に上がる。

 もしかしたら、ボクのリスナーさんもセンパイのファンへと寝返るかもしれない。

 でも、センパイの可愛さを知って欲しい気持ちも、ほんの少しだけあるんだよね……。

 だけど、それを誰かと語り合うのは、なんだか寂しい気持ちもある。

 それは独り占めしたいというボクの独占欲があったからだ。


 だけど、それは高校時代までのボクだ。今は昔と違う。女の子としてのセンパイの可愛さをリスナーさんたちに知って欲しい。そうすれば、センパイは今よりも絶対に人気配信者になれる。カッコいい王子様キャラだけだと、いつか限界が来る。センパイは真面目だから、リスナーさんの期待に応えようとして、いつも王子様キャラに縛られている。

 でも、本当のセンパイは……もっと可愛いんだよ。

 センパイの女の子らしい一面をリスナーさんたちに見せることで、センパイは一気に人気が出る。ボクはそう信じている。


「”ましろんべーす”で暴露しちゃおうかな……や~めた!」


 やっぱり可愛いセンパイはボクが独り占めしたい。

 みんなにはカッコいいセンパイだけで十分だ。


「センパイ、春のPON祭りの真実オチはボクとセンパイだけの秘密だよ……」と、ふて寝しているだろうセンパイの部屋に向かって、ボクはそっと微笑んだ。


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