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第26話 春のPON事件の本当の真実(オチ)

 あの時、センパイは、ボクのことなんてお構いなしにお団子をあっという間に食べちゃった。

「美味かったから、また買ってくる!」と言ってボクを置いてお団子屋さんに行っちゃった。


 もう、センパイってば。ボクを放置してお団子買いに行くなんて。

 ボクみたいな可愛い子とデートできている実感がないのかな。

 女の子に見向きのされていない可哀想な男なんて、ボクとデートするためなら数十万払っちゃう気持ち悪い人だっているのに。


 まぁ、センパイはお団子に夢中になっちゃうお子ちゃまだから仕方ないか。


「まさに……花より団子か」


 ボクはセンパイにあんこを取ってもらった右ほっぺを触りながら、さっきのことを思い出していた。もう、センパイって天然なんだから。

 悪気あってやったわけじゃないかもしれないけど、変な勘違いを起こさせる行動は控えて欲しいよ。


「そんなおバカさんは、いつか痛い目を見せてあげるんだからね」


 もしかして、そういうことを期待しているの? 

 センパイ、ボクにそういうフラグを立てているの?


「もう、センパイのえっちなんだから……」


「ねぇ、彼女!」


 うん? ボクが振り返ると、一人の男の子が立っていた。

 見た感じ大学生くらいかな。大量生産された安っぽい赤いチェックのシャツと安っぽいデニムを穿いている。少ないお小遣いで頑張ってオシャレしましたって顔に書いてある。


 う~ん……ないかな。顔も平均点くらい。可もなく不可もない。恋愛初心者の女の子が初めて付き合うんなら、妥当な感じかな。


 で、教習車みたいなキミがボクに何か用?

 もしかして、ボクをナンパしようと思っているの?


「ねぇ、1人? 俺とデートしよう!」


 マジ? 面白いボケだね? 

 あれ? もしかして、ボケじゃない?

 じゃあ、全然笑えないよ。よく、そんなつまらないボケをボクに見せられたね。ボクに声をかける前に自分の顔をもう1回チェックしたら?

 キミみたいなブサイクと並んで歩いたら、ボクまでバカにされるでしょ。


 そんな身の程知らずな恋愛初心者のキミがボクと同じ時間を過ごせると思っているんだ。

 ねぇ、頭は大丈夫? 1回、鏡で自分の顔を確認してから出直してくれる?


 本音をぐっと飲み込んで、ボクは声優時代に鍛えた完璧な営業スマイルを貼り付けた。


「ねぇねぇ、無視しないでよ」


 あれ~空気も読めないの? この顔は「あなたみたいなイケメンに声をかけられて嬉しい!」って意味じゃないよ。

「ブサイクは、さっさとボクの視界から消えろ!」って言っている顔なんだよ。相手の雰囲気や表情から本音を読み取れないキミと過ごしている無駄な時間は、ボクには1秒もないんだよ。


「ねぇってば……」


 あぁ、うざい。もうこの反応を見たらわかるでしょ。キミはボクの眼中にないんだよ。その辺を歩いている頭が悪そうで性欲を持て余しているヤリマンでも捕まえてホテルにでも行ってよ。

 ボクがブサイクくんに嫌気が差していたら、彼の声が急に止まった。


「おい! 連れに何か用?」


 センパイのハスキーボイスが耳に響く。

 ボクの中に安心感と胸のドキドキが一気に襲いかかる。

 いつもの優しいだけのセンパイじゃない。

 ボクを本気で守ろうとしてくれている。


「なんだ、彼氏持ちかよ」


「いや、彼氏じゃ……」とセンパイがムードぶち壊しの一言を口にしようとしている。

 ボクの心臓がギュッと掴まれた。

「センパイ、そんなこと言わないで……!」とボクの独占欲が限界になった。

 思わずセンパイの腕にぎゅっとしがみついた。


「センパイ、遅いよ」とボクはセンパイの腕に抱きついて、ブサイクくんにセンパイとのラブラブアピールを見せびらかした。ボクと付き合いたいなら、これくらいカッコ良くなってから出直しなさい!


 ボクを彼氏持ちの女の子と思い込んだブサイクくんは、悔しそうな顔を浮かべて去って行った。


「ましろ、大丈夫か?」


「センパイ、怖かったよ~」


 ボクはセンパイの胸に思いっきり抱きつく。センパイの胸に甘えられるなんて……職権乱用ってやつかな?


「おい、くっつくなよ」


「やだ~!」


 センパイが離れろと言っているけど、本気で嫌がっていない。

 甘えん坊のボクを思いっきり甘やかしてくれている。

 そんな、センパイが大好き!


「センパイ、ボクの彼氏って言われたね」


 ボクは冗談っぽく言ったけど、心の奥でチクり痛みを感じた。

 本当はセンパイに守られる立場じゃなくて、センパイを守れる立場にならなきゃいけない。いつまでも可愛い後輩じゃダメだ。一人の男としてセンパイに認識してもらわなくちゃ。


「うるせぇ! ほら、団子買ってきたぞ」


「うん、ありがとう」


 センパイは、あんこのお団子を美味しそうに食べている。

 さっきまでかっこ良かった王子様が子供のように可愛い顔を浮かべてお団子にかじりついている。もう、センパイ。可愛すぎるよ。


「やっぱり、うまいな」


「そうだね……」


 あれ? センパイのほっぺにあんこが付いてる。

 もう、センパイったら……。

 ボクの中に住む悪魔ちゃんが「ましろ……センパイの口のあんこを取るフリしてキスしろ!」と良いアドバイスをくれる。


 良い考えだよ、悪魔ちゃん。


 ボクはセンパイに顔を近づける。そのまま、ゆっくりと唇を目指す。

 あれ? センパイがあわあわしている。鈍感なおバカさんも何か察したのかな? どうしようかな? このままボクの柔らかい唇で取ってあげるようかな?


「ダメだよ! ましろ」とボクの中に住む真面目な天使ちゃんが止めた。


「え〜? 天使ちゃん、空気読んでよ!」


「そんなふしだらな子は……センパイに嫌われちゃうよ!」


「ふしだら……?」


「いいじゃん、ちょっとくらい! ましろの唇でセンパイを目覚めさせてあげなよ!」と悪魔ちゃんはニヤリと笑った。


「ほら、ほっぺにチューくらいで終わらせればセーフ、セーフ!」


「ダメ、ダメ、ダメッ!! そんなのアウト〜!!」と真面目な天使ちゃんが慌てて止め始める。



 ボクと悪魔ちゃんはポカンとした顔をした。そんなにヤバいかな? 

 鈍感なセンパイだから、ほっぺにチューくらいしないとボクの恋心に気付くかないよ。


 だけど、クソ真面目なセンパイがこういう合コンみたいなノリが苦手だ。天使ちゃんの言うとおり一歩間違えたら、関係の修復は難しい。


 でも、ちょっとイタズラするくらいならいいよね。

 ボクは唇をギリギリで寸止めして、代わりに人差し指でセンパイのほっぺについたあんこをすくい取って……ぺろっと舐めた。


「は、はぁ!?……」


 センパイは耳まで真っ赤になって、「まるで初恋中学生男子」みたいにあたふたしている。

 ボクはその反応を見て、悪魔ちゃんにこっそりウィンク。


「さっきのおかえし」とボクは甘い声でささやいた。


「う、うるせぇ!」


 センパイのリアクションが可愛すぎてボクはお腹が痛くなるくらいに笑った。

 これだから、ボクはセンパイを好きでいることをやめられない。

 ボクは、そんなセンパイの鈍感さに呆れつつも、胸の奥で愛しさがこみ上げてきた。


「まだまだゴールが遠い……」


 だけど、絶対に辿り着いてみせるからね。

 センパイの鈍感っぷりに呆れながらも、ボクを心の中で静かに誓った。


「うん? 何のゴールのこと?」


「いや、登録者10万人のことだよ!」


「あぁ、それか。確かにな」


 センパイって本当に鈍感だよね。ボク、本当にこの人に10年以上も片思いしているのかな? たまに不満になるけど、それだけこの人から目が離せない証拠なのかもしれない。


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