「っていうか!」
いい加減にしろってシュンが二人をにらみつける。
「もういいだろ? オレが会ってる相手、わかったんだし。もう行けよ」
「ええ、ハルボン冷たい」
「いやいや、今日は引こうな。サッキーに土産話はできたし」
シュンに絡んでいる子は、ぎゅってシュンの腕に掴まりなおす。
「えええ? ぶーさん、一緒にいちゃダメ?」
一緒にいる二人の反対何のそので、そのまま一緒にいたいって訴えておれを見る。
そんなふうにおれに甘えるようにねだられても……って困ってしまってシュンの方を見た。
おれはどっちでもいいんだけど、シュンはどうなんだろう。
「ダメ。邪魔」
サクッと返事するシュンに、びっくりした。
いや、そこはもう少しなんかあるでしょって。
「え~ねえ、ちょっとだけ。ちょっとだけ、相談したいことあるから、ちょっとだけ」
「寮に戻ってからでもいいだろ? オレ、今はいっくんといたいの。なかなか会えないんだから、邪魔すんなよ」
「そう冷たいこと言わないでよぅ。寮ではできない相談なんだって! なあ、ダメ? ぶーさん、ダメ?」
ここまで粘るってことは、『誰に会っているかの確認』っていう方が建前なのかなあって気がしてきた。
この子、きっとシュンと一緒にいたかったんだなあって、おれにしてはすごく珍しいことに察してしまった。
でも、おれもせっかくシュンに会いに来たんだよなっていうのも、本音は本音。
邪魔されたとまでは思わないけど、なんかちょっともやってする。
寮でできない相談って何? とも思うし、そういうこともあったよねっていう記憶もある。
なので、考えた末に折衷案を出した。
「なあ、寮監って今も遠藤さん?」
唐突なおれの質問に、三人が驚いた顔をして頷く。
うん、まだ変わっていなくて良かった。
「じゃあさ、おれ、ちょっと買い物行ってくるから、その間に話をしててよ」
「え、ちょっと、いっくん」
「食品売り場行って、貢物買ってくる」
目を丸くして慌てるシュンをまあまあって抑えて、財布だけ持った。
カバンはシュンに渡す。
ほら、これでおれがここに戻ってくるって安心できるだろ?
「貢物?」
「そう、貢物。おれ、遠藤さんにはお世話になってるから、まだ在職しているんだったら、何もしないって訳にはいかないんだよ」
だから買い物の間だけ友達の話聞いてあげなって、シュンに言ってその場を離れた。
大人だからね、そこは気を遣ってあげるでしょう。
もやってしても、それくらいは、ね。
遠藤さんはチュンやおれが寮にいた頃から、寮監だった。
年齢不詳でひょうひょうとした感じで、抜けてそうに見えるのに全然甘くなくて、おれは割と好きな感じだなって思っていた。
毎日本気で高校生と渡り合うには体力がいるんだよって、ぼやいていたのを覚えている。
ショッピングモールっていうのはたいてい同じような造りだから、たまにしか来なくても迷って動けなくなるなんてことはない。
まっすぐ食品売り場に行って、目的のものを探す。
寄り道して時間稼いであげた方がいいのかなって一瞬よぎったけど、なんかさあ、そこまで譲らなきゃなんないか? って気もした。
いや、大人げない気もしたんだけど、先約はこっちだよなあって。
思いついたものを買ってフードコートに戻ったら、席にいたのはシュンだけだった。
「話、終わった?」
「うん。あのさぁ、いっくん」
「あ、これ、荷物になって悪いけど、遠藤さんに渡して」
生方がよろしくって言ってたって伝えてねと、シュンに味もそっけもないエコバッグを渡す。
ちゃんとした贈答品の形にした方がいいっていうのはわかっているのだけど、そうするときっと受け取ってくれないのも知っている。
遠藤さんはそういう人で、だからおれも、あまり気兼ねしないで頼れていたって部分がある。
そんなわけで貢物は、普通の食品売り場で買ったものを、そこらで買ったエコバッグに突っ込んできた。
「何、これ」
「だから、遠藤さんに貢物。おれ、良く寝込んでたから、寮にいる時にはホントに世話になったんだ」
「チュンさんだけじゃなかったの?」
「チュンは同室だったから、そりゃあもう、今でも足向けられないくらい世話になってんだよな。それに、遠藤さんもね~……救急車こそなかったけど、病院連れてってもらったりしてるからさ」
「ああ……そういう」
「そういうこと」
重くて悪いねって、シュンに荷物渡す。
手にかかった重さに、ちょっと驚いた顔で、シュンが袋の中を見た。
「なにこれ」
「蜜豆缶とパックの漉し餡」
遠藤さんは、甘党なんだ。
でも甘味処が簡単に行けるところにないって、よく嘆いてた。
「は?」
「遠藤さんの好物。あと、猫グッズも好きだったはず。覚えとくといいよ」
そう言って笑ったら、シュンも一緒ににやって笑った。
「先輩からの大事な引継ぎ、承りました」
「マル秘情報だ、うまく使えよ」