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第4話 平和な一日のはじまり

■フィオレラ村 教会司祭の家 寝室


「パーパッ! 朝! 朝だよー!」

「ドリーか……ちょっとゆっくりさせてくれ、昨日は飲みすぎた」


 俺の体をゆすって起こそうとするドリーを無視してシーツを被り直す。

 若干頭が痛いのは事実で、村のビールを結構飲んだ記憶があった。


(大学のコンパとかで飲んだのが最後だから……10年ぶりの飲み会にはしゃぎすぎたな)


 ジンジンと痛む頭を休めるように眠ろうとする俺をドリーがゆすってくる。


「むー! パーパ! ドリーお腹すいたのー! パパのお水が欲しいのー!」

「誤解されそうな言い方をするな」


 ゆさゆさと揺らされながら変なことを言い出すドリーに根負けして俺は起きあがった。

 ドリーはにっこりと微笑んで起き上がった俺を出迎える。


「パパ、おはよー!」

「ああ、おはよう……そのパパというのは……もう、いいか」


 昨日から何度か訂正を求めたが「なんで?」と純粋な瞳で見返されるだけだったので、あきらめた。

 ヒヨコの刷り込みみたいなものだろうと納得する。


「彼女どころか、嫁さえいたことないんだがな……」


 ぼりぼりと後頭部をかきながら、憧れていた兄嫁のことを思い出した。


(いや、もうここにはいないし再会するかもわからないから気持ちを切り替えよう)


「パーパ! おーみーずー!」

「ああ、そうだったな……〈浄水〉」


 俺が掌をドリーの口元にもっていきながら、水を出すとドリーはんくんくと喉をならしつつ水を飲む。

 水を飲むとドリーの頭にあった花が元気に咲き誇った。


「ぷはぁ! パパ、ありがとう!」

「よかった。それじゃあ、ホリィにも挨拶しにいこう。着替えるから先にいっててくれ」

「はーい!」


 元気に挨拶して部屋からドリーが出ていったのを見送ると、俺は村人からもらった服へと着替える。

 作業着を脱ぎ捨て、麻だかでできた質素な服へと変えたら俺はいよいよこっちの世界の人間になった気がした。


■フィオレラ村 教会司祭の家 キッチン


「おはようございます、キヨシ様。着替えられたのですね? とってもお似合いですよ」

「お、おう……ありが、とう?」


 着替え終わってキッチンに向かうとホリィがスープを作っていた。

 昨日とは違い、野菜が結構入っている。

 服を褒められると照れ臭いが、ホリィの態度が明らかに昨日の朝とは違っていた。

 俺を女神の使徒と信じており、崇拝するような感じである。


「美女に構われて悪い気はしないんだが、もっと普通にしてほしい」

「そうはいわれましても、私は女神セナレア様に仕えるシスターですので、セナレア様の使徒でありますキヨシ様に仕えるのも当然です」


 胸をぐっと張って主張をするホリィに対して俺は何とも言えない気分になった。

 ドリーといいこの世界の人は自己主張が強いのだろうか……。


(いや、日本人というか俺が受け身すぎるんだろうな……)


 事情はあるにせよ、自分の心を塞いで生きて来たのを改めて生きようと気持ちを切り替えた。


「では、朝食にいたしましょう」

「ああ」


 そういえば、美女と幼女に囲まれて朝ごはんを食べるなんて家族みたいだな……。


◇ ◇ ◇


 朝食を済ませた俺達は昨日宴で頼まれたように畑を何とかすることから始めるために見回りをすることにした。


「私は教会の仕事もありますから、すみませんがキヨシ様だけで村長さんの家にいってください。そこで案内の人を用意してくれると聞いてますから」

「わかった。色々すまないな」

「いえ、女神セナレア様のお導きのままに……キヨシ様でしたら、祈らずとも加護がありますよね」


 うふふふと微笑んだホリィはバスケットを渡してくれる。

 中にはパンとワインが入っていた。


「昼飯か……もっとおいしいものを食べられるように、俺がなんとかしていかなきゃな」

「期待していますよ」

「パパならできるよー!」

「よっし、やるか!」


 女子に応援されるとヤル気になるので男って単純である。

 そんな風になったのは、間違いなくこの二人が俺を肯定してくれるからだ。


「じゃあ、いってくる」

「パパとおさんぽー」

「はい、いってらっしゃいませ。帰りをお待ちしてますよ」


 手を振って俺を見送ってくれる姿を見て、胸が熱くなったのは秘密である。


■フィオレラ村 村長の家


「ようそこ、おいでくださいました。うちの孫がキヨシ様の力になりたいとおっしゃっておりまして」

「じーちゃんを助けてくれてありがとう、キヨシ様! 村の案内はおいらが手伝うよ。畑仕事も手伝っているから、いろいろ教えられるぜ!」


 村長の家にいくと、元気に動けるようになった村長と頬にそばかすの残る少年がいた。


「うん、某アルプスのヤギ飼いみたいだな……」

「ウチの村はヤギなんか飼ってないぞ?」

「ああ、なんでもない。すまないな……」


 思わず言葉にだしてしまったのを反省して、俺はペーター(仮)に謝る。


「ああ、名乗ってなかった! おいらの名前はピエトロ。仲いい奴はピーターって呼ぶんだ」

「ピーター! ドリーはね、ドリエルなの!」

「ど、ドリーも……よ、よ、よろしく、なっ!」


 手を差し出したドリーと握手をするピーターだが、顔が真っ赤になっていて照れているようだ。

 ははぁんと俺は納得する。

 この少年は俺を助けるということもあるが、ドリーが目的なのだ。

 ドリーは確かに可愛い。

 人懐っこい笑みを浮かべ、表情がくるくるとかわる。

 小さい背丈なところも相まって愛らしさが大きかった。

 姪っ子のようなものであり、正月になればお年玉をちょっと色を付けてあげたくなる。


「っと……ペ、じゃなくてピーター。よろしく」

「おう! おいらに任せて! キヨシ様、ドリー」


 キリッと親指を立てて決め顔をするピーターと共に俺達は村の畑に向かうのだった。



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