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第5話 俺のチートスキルがすごすぎる

■フィオレラ村 小麦畑


「こいつは酷いな……」


 思わず顔をしかめて声が漏れるほど、畑の状況は悪かった。

 祖父のところでは小麦は作っていなかったが、土を触ればわかる。

 しっとりと栄養や水気があるものではなく、カラカラでサラサラなものでまるで死骸だ。


「ドリー、俺の〈浄水〉で治るのか?」

「パパはパパの力を信じるの! ドリーが信じているの!」

「キヨシ様、おいらも信じてるぜ!」


 子供二人に応援されたら、大人としてカッコイイところを見せてあげたいと思うのは当然。

 だから、俺は畑に向かって水まきする姿をイメージしながら〈浄水〉を使った。

 シャワーのように手から水がまかれて、死骸のようになった畑へ広がっていく。


「命の……命の息吹を感じるの!」


 そういってドリーは屈伸運動をするように体を上下に動かし始めた。

 おいおい、その動きは有名アニメみたいじゃないか……。


「おいらも!」


 ドリーの動きに合わせて、ピーターも上下に体を動かすと、乾ききった土の中から芽が生え急成長していった。

 植物を守護する妖精、ドリア―ドであるドリーの力なのだろう。


「ぐんぐん~」

「ぐんぐん~」


 幼女と少年が畑の前で屈伸運動をしている姿はやっぱり隣の怪物が出てくるアニメのようだった。


「俺のスキルすごいな……いや、ドリーがいてこそか。ありがとうな、ドリー」


 ある程度、育ったところでドリーが一休みをはじめたので、俺は近づいてその頭を撫でてあげる。

 目を細めて撫でられるドリーの姿をピーターが悔しそうに見ていた。


「安心しろ、ピーター。俺はロリコンじゃない」

「ろりこんってなんだ? キヨシ様」

「パパ、ドリーにもろりこんを教えて!」


 変なことを言ってしまったと後悔をしたが、その場はごまかしてホリィの用意してくれたお弁当で昼食をとることにする。

 この世界では余計なことを言わない方がいいな。


■フィオレラ村 畑の近くの木陰


「固いパンと葡萄酒だが、ないよりましだな。日本がとっても裕福だと改めて思うよ……」


 食事が実に貧相だというのを俺はマジマジと感じている。

 派遣社員での暮らしもギリギリで大変だと思っていたが、それでもコンビニが近くにありスーパーで新鮮な野菜や肉が手に入ることがこれほどまでにありがたいなんて思わなかった。


「パパ―、ドリー眠い……」

「わかった、俺も昼寝しようと思っていたから一緒に寝るか」

「わーい、パパ大好きー」


 ぎゅっと抱き着いてきたかとおもったら、ドリーはすぅすぅと寝息を立てて寝始めた。

 子供は元気で、スイッチが切れたかのように寝るものだが……妖精だろうとそれは一緒のようである。


「キヨシ様! 父ちゃんたちが畑を見て、他の畑にもやってほしいってさ!」


 ピーターは畑の復活で興奮したのか両親や村長に報告へいき、畑には人がごった返していて中には涙を流して崩れ落ちる人さえいた。


「わかった、一休みしたらやるって言っておいてくれ」

「おいらもご飯食べてくるから、午後からもよろしくな!」


 俺はピーターを見送ると欠伸一つだして、抱き着くドリーを抱き寄せながら木陰でひと眠りする。

 昼寝がこんなに気持ちいいなんて、久しぶりに感じたな。


「ん……寝すぎたか?」


 俺がゆっくり目を覚ますと、まだドリーは俺に抱き着いて眠っている。

 頬をつんつんとするとぷにぷにという柔らかい感触がして、人間っぽいななどと思った。


「いや、遊んでいる場合じゃないな……ピーターが来る前に……って、なんじゃこりゃぁぁぁ!?」


 昔やっていたという探偵ドラマの主人公のような叫び声をあげると、ドリーが目をこするながら寝ぼけまなこで俺を見上げてくる。


「ぱぱぁ……おあよー」

「お、おう。おはようだな……さて、どうしたものか」


 俺が驚いたのは、寝ている俺とドリーの周りに葡萄酒の瓶や、干し肉、花束、黒パンなどが置かれていたのだ。


「これは……もしかして、お供え?」

「あ、おはよう! キヨシ様!」

「ちょうどいい、これはいったん何なんだ?」


 戸惑っているといいタイミングでピーターがやってきたので、状況の説明を求めた。


「これは、村人からの感謝の証だよ。畑の復活を見た村の大人や子供がキヨシ様に感謝のためにといろいろ持ってきたんだってさ」

「やっぱり、お供えものか……何度も言っているが俺は普通のおっさんだぞ?」

「チートスキルを持っているのに何をいってるんだよ、キヨシ様」

「それもそうか……あんまり実感ないけどな。ドリーも起きろ、次の畑にいくぞ」

「んゆ……ふわぁーい」

「ド、ドリーちゃんが眠たいなら……寝ているのを見ていてやるっぞ!」


 ドリーが眠そうに声を上げていると、顔をちょっと赤くしたピーターが若干下心のありそうな雰囲気でドリーの護衛を申し出る。

 ピーターの恋(?)を応援するのであれば、この護衛を認めてやるのもやぶさかではない。


「やー、ドリーはパパと一緒がいいのー」


 起きはしたものの、相変わらず俺にべったりくっついてくるドリーにピーターは複雑な気持ちを顔に表しながら、次の畑への案内を始めた。

 小麦畑をいくつかやった後、誰もが管理していない荒地に足を運ぶ。


「ここは畑だったのか?」

「もとは畑だったけど、この畑の持ち主のおじいちゃんが亡くなってからは手入れはできてないよ」

「そう、か……」


 他人事とは思えない事情に俺は言葉を失った。

 兄貴が次いで維持してくれているだけでも、感謝しなければならない。


「ここでも何か育てたいが……そういえば、さっきのお供えもの花に、気になるのがあったな」


 俺はもってきていた花を取り出して確認を行った。

 どこか控えめで可憐な雰囲気を漂わせていて、淡い紫色を中心に、花びらの内側には濃い紫色の模様があり、中心へと向かうグラデーションの美しい花があった。


「これは……ジャガイモの花だ! ドリー、コイツを育ててみてくれないか?」

「わかったの! ドリーがんばるの!」


 俺が花を荒れた畑において距離をとると、グングン育っていく。

 この花はジャガイモの花だ。

 荒地対策と食料問題、同時に解決できる手が見つかる。


「さて、蛇がでるか鬼がでるか……」


 緊張した面持ちで花の成長を見守るのだった。



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