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第6話 芋から始まる野望

■フィオレラ村 荒畑


 ドリーが頑張ってくれたおかげで、荒畑の一画に成長した花から種が出て、作付け範囲が増えていった。

 一本の花から、ちょっとした畑まで成長できるのは農家として一家に一人ドリアードが欲しくなる。


「ドリーがいてくれて嬉しいぞ」


 俺はドリーの頭をぐりぐりと撫でてから、収穫に向かった。

 畑の上の方は問題なさそうだが、果たして根っこの部分、実がどうなっているのかが気になるところである。


「鍬とかが欲しいが、まずは手でいいか」

「パパー、ドリーが掘り起こすよ?」

「違うんだ、ドリー。こういうのはな、自分でやってこそ意味があるんだ」


 自分で育てたわけではないが、初めての収穫くらいは時間がかかっても自分の手でやる。

 それが作物への礼儀だと祖父がよく言っていた。

 育ってくれたことへの感謝を忘れずにいることは、日本の【いただきます】の精神だと思う。


「土がそれほど固いわけでもないからな、汚れても水は出せるから気にならない」

「おいらもやるよ!」


 俺が掘り進めているのを見ていたピーターが一緒に育った他のものを土を掘り起こしはじめた。

 そして、掘り起こして取り出したらなかなかの大きさの黄金の実ジャガイモが実っている。


「成功だ! ジャガイモができたぞ! これを半分に切って、埋めていけば増やしていけるぞ。荒畑はこれでしばらく耐えきれるな」

「キヨシ様、それは村の奴が食べて腹壊したから食べないようにしているんだ」

「それは芽をとってないだけだ。ちゃんと調理すれば、美味いぞ~。小麦だけじゃない村の名産にもなるかもな」


 急いで育てるにはドリーの力が必要だが、小麦の方を急成長させて合間に芋を育てればバランスよくできるはずだ。


「ええ~、本当かな~」

「ぶー、パパは嘘言わないよー!」

「ごめん! ドリーちゃん、おいらが間違っていたからっ!?」


 ピーターが俺を怪しんだら、ドリーに怒られたので頭を下げている。

 なんだか、尻に敷かれそうなやつだ。

 今から将来が不安になる。


「今夜は俺がこいつを使った料理を何か作ってやろう。見本があればみんな育ててくれるだろうからな」

「それは楽しみだぜ! ようし、収穫がんばるぞ」


 俺とピーターは育ったジャガイモを掘り起こしていった。

 その後、お供えものと一緒に運び出すにも大変になってきたのでピーターに荷車を頼む。

 気づけば日も傾いており、夕方になろうとしていた。


「体を動かして一日過ぎるのは工場でも一緒だが、充実感が違うなぁ……」


 俺は日本で働いていたことが、遥か昔のことの様に思い始める。

 それだけ、この世界が充実しているのだ。


■フィオレラ村 村長の家


「じーちゃん、ただいまー!」

「遅くなった」

「おお、キヨシ様。村のものから小麦畑が戻ったと喜びの声を聞いております。なんとお礼を言えばよいのか」


 村長の家に着いたときには日も落ちており、ドリーは植物の成長をさせることに力を使いすぎたのか眠ってしまっていた。

 荷車の上で寝かせていたが、さすがにそのまま外においてはおけないので俺はドリーを抱っこして村長の家に運んでいる。

 今日一番の功労者だ。

 起きたらたっぷり甘やかしてやりたい。


「すっかり父親だな……」

「どうかされましたので?」


 不思議そうに俺を見てくる村長に首を振って「なんでもない」と告げた。


「じーちゃん! これ、キヨシ様が荒畑で作ったやつなんだけど。美味しい食べ方があるんだって」

「ほぅ、確か村のタイラーが食べて腹を壊した奴じゃな。根っこなんぞ食べるからと思っておったんじゃが……」

「ジャガイモをちゃんと食べないなんて人生損してるぞ。これはいろんな使い方ができて、荒畑でも育てるのが楽で便利なんだ」


 俺は祖父から教わった知識で、祖父のような村長に伝える。

 教わる側から教える側へ、植物が種を作り後世へとつなげるように大切なものをつなげたいと思っていた。


「そうなんですのぉ……キヨシ様は村の救世主様じゃ。ありがたや、ありがたや」

「キヨシ様、ドリーちゃんを奥で寝かせようよ。そのままじゃ、ジャーガイモを食べられないよ」

「そうだな、ちょっと村長寝室を少し借りるぞ」


 ピーターにそういわれて俺はドリーを寝かせにいき、戻ってきたら次はキッチンへと向かう。

 面倒だったので鍋に〈浄水〉で水を注ぎ、火をつけて湯を沸かした。

 沸騰するまでの時間で、ナイフでジャガイモの目をとっていく。


「キヨシ様は刃物の使い方も上手だねぇ、なんでもできる人なんてとってもすごいよ」

「俺なんか……いや、ありがとう。このジャガイモの目をとれば腹痛なんかおこさないんだ」


 包丁ではないものの、趣味がソロキャンプだったこともあり、ナイフの扱いはお手のものだ。

 火起こしもすぐにできたので、人間いつどこで何が役に立つかはわからない。

 そうこうしているうちに鍋が沸騰したのでジャガイモを入れていって湯でた。


「バターとかはないから塩と胡椒だな。酪農して乳製品を作りたい……」


 俺はぶつぶつと言いながら、この村で快適な生活をするために自分の野望を抱き始める。

 どうせならば、村人も楽しく笑顔となるような村にしていきたいと思い始めていたのだった。



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