■フィオレラ村 工房長屋
「姐さん! 外に女の子が倒れてますよ!」
エミルからお茶を貰い、俺らがゆっくりしていると片付けをしていた弟子のフィリップが急いで部屋の中へと入ってくる。
その腕の中には小さな女の子が抱かれていた。
透き通るような白い肌に薄い水色の長い髪の毛をしている女の子である。
「村の子ではないのか?」
「知らない子ですね……姐さんは?」
「先に言っとくけど、あたいの隠し子でもないよ」
「そんなことはいちいち言わなくてもいいだろ、全然似てないんだから」
そうテーブルの上に寝かされた女の子は色白であり、エミルは褐色系だ。
雰囲気が全然違うので親子と間違うことはない。
「パパ、この子はフロスティアだよ」
「雪の精霊ね。山の方に住んでいると聞いているけど、何かあってコッチに来たのかしら?」
「また精霊か……俺は引き寄せる何かでもあるのか?」
「モテモテだねぇ~」
「俺に幼女趣味はない。ともかく、ここに置いておいては仕事の邪魔になるだろうから、教会へ戻ることにするよ」
「そうかい、まぁ手土産代わりに祭りで振る舞うパンの試作持っていきなよ」
俺が眠っているフロスティアを背負っていると、エミルの言葉にフィリップがクルミなどを練りこんだパンを持ってきてくれた。
「わーい、エミルおば……お姉さんありがとう!」
ドリーが何かを言おうとした瞬間エミルの眼光が一瞬鋭くなった気もするが、気のせいとしておきたい。
「雪か……もしかして、この子が原因か?」
俺がフロスティアを背負って外にでると、しんしんと雪が降り始めていた。
晴れていた空が雲に覆われているので、本降りになる可能性は高い。
「その可能性もあるけれど……あたしも詳しくフロスティアについては知らないわ。ホリィなら知っていそうよ」
「俺もそうだと思ったところだ、足元が雪に覆われる前に急いで戻ろう」
フロスティアを背負い直して、俺は急ぎ教会へと戻るのだった。
■フィオレラ村 教会 司祭宿舎
「うぅー、さびぃぃぃぃぃーっ!」
雪が降り積もる中、俺はフロスティアを背負い、寒くて動けないというドリーを抱っこして運ぶという腰にクルことを無事やってのけた。
アラフォーのおっさんにはいくら軽いとはいえ幼女二人を抱えて動くのはキツイ。
さらに雪が降ってきて寒いのだから、そのつらさは
「キヨシ様、雪が急に降ってきましたので心配しておりました。暖炉の前に行ってくださいな」
そういってホリィは防寒用のマントと温かいハーブティを入れてくれた。
冷たい手にあったかい飲み物はありがたい。
ドリーとフロスティアを床に寝かせてから飲み物を受け取り、一口飲み体内に熱が戻ってきてからホリィへ経緯を話した。
「フロスティアなのですね。雪の精霊として語り継がれていますが、私も見るのは初めてです。というよりも、ここ数年で瘴気が世界に広がっていますので、出会うことすらかなわないことの方が多いとは思っていました。キヨシ様と一緒ですと嘘の様ですね」
「エミルにモテモテだとからかわれたよ。幼女趣味はないんだがな……」
俺が頭をガシガシかいているとホリィは少し声を弾ませて話をつづけた。
「山の方に普段は住んでいると聞いていますし、山の方へ返しにいくのが適切だと思います」
「そうなるよな……お、目覚めるぞ」
俺とホリィが話していると、フロスティアのまぶたが震え、ゆっくりと目を開けた。
薄水色の髪とおそろいの澄んだ水色の瞳をしている。
「ここはフィオレラ村ですの?」
「ああ、そうだ。俺の名はキヨシ。彼女はこの村のシスターで知恵者のホリィだ」
「わたくしはフローラと言いますわ。助けていただきありがとうですわ」
ペコリと丁寧にお辞儀をする幼女に対して、俺もホリィもお辞儀をし返した。
物腰がやわらかいというか、丁寧な精霊だと思う。
「わたくしはここを見おろせるあの山から来まして、その……最近すごく楽しそうな空気と清らかな土地だったので、遊びに来てしまいました」
恥ずかしそうに俯き、フローラは目を閉じて再びお辞儀をした。
隣の芝生は青いというが、賑わっている世界が近くにあると行きたくなる気持ちは俺もわからなくはない。
「でも、それならどうして工房長屋の前に倒れていたんだ?」
「お恥ずかしながら、飛んできた際に瘴気の影響で力を吸われたためにお腹もすいてしまって、匂いにつられて近づいたのですがそこで倒れてしまったのですわ」
そこまでフローラがいうとくきゅぅと小さな腹の虫が鳴る。
「ひゃぅ!? 恥ずかしいですっ!」
「恥ずかしがることはない。もっとわがままを言うべきだぞ? ホリィ、スープを……って、何を食べるんだ?」
「わたくしは普通の人が食べるものをいただきますわ」
「それは良かった。ホリィのスープは美味いから、ゆっくり味わっていくといい。あとはこの雪なんだが、フローラが来たせいか?」
俺が外をみるとしんしんと雪が降り続けていた。
少し降るのが収まった気はするが結構、積もり始めている。
「そうですわね。わたくしの吸われた力の一端がここの雪を作っていますわね。わたくしも目覚めましたし、もう少しで落ち着くはずですわ」
「それなら、雪遊びができそうだな」
俺の一言に幼女たちが目の色を変えて俺を見上げてくる。
その中には寒くて動けないといっていて、ドリーの姿だってあった。
「雪遊び! 魅惑的な響きですわね」
「へぇ、雪を使って遊ぶなんてあたしはやったことないから興味あるわ」
「ドリーも! ドリーも遊ぶの!」
温まったら村の子供たちも誘って雪かきついでに雪遊びをしようとなる。
はしゃぐ子供たちを前に、俺も少しワクワクしてきた。
雪を見るとなんでこうなるんだろうな?