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第19話:結成会(3)

 しかも、エクレアは発言だけでは物足りないのか、フォークの先端でタコ焼きを持ち上げて、さらにはマイク代わりに、それをこちらへと向けてきた。


(くそっ! エクレアめっ、俗物を見るような目をしてやがる! 俺の隣に座るミルキーを見習えっ! ミルキーはそんなことないよね? って、心配そうに見てくれてるぞ!?)


 レオンは三者三様の視線を、その身に受けていた。仕込んでいたネタはエクレアによって潰された。ならば、即興で違うオチに持っていかなければならない。


「ふっ……確かに換金目的だ」

「やっぱり……勇者に期待するだけ損なのです」

「俺は国を手に入れたい」

「えっ?」


 エクレアからは激しい動揺の気配が伝わってくる。聞き間違いかと思ったのか、瓶底メガネをかけなおしている。


 彼女が再び、こちらに視線をきちんと向けてきた後、ゆっくりとはっきりと彼女に告げてやった。


「俺は俺の国を手に入れる! 金はそのために必要なだけだっ!」

「嘘……どうせ、今まであたしを騙してきた勇者みたいに口先だけで言ってるんでしょ!?」

「俺は金も名誉も欲しい俗物だ! だが、エクレアを騙してきた勇者紛いのやつらと一緒にするなっ! 俺は為すべきことのために金が欲しいんだっ!」

「そん……な。こんなにスケールが大きい御方だったなんて……」


 口から出まかせを言ってみた。国を興す予定なんぞ、これっぽちもない。だが、仲間たちに目的と目標を与えるのがリーダーの務めだ。


 その時、善行スクリーンが開く。ちらりと横目で見た。女神からのメッセージが届いていた。


 女神からのメッセージ:嘘も方便って言うけど……。まあ、わたくしは面白いから、そのまま続けて?


 女神からお許しが出た。このまま勢いで押し切ることにした。そろそろ、このゲンドウポーズも肩がこるのでやめる。


 椅子の上で姿勢を正す。サングラスと皮手袋を外して、虚空の向こう側へと仕舞う。


 そうした後、エクレアと視線をしっかりと交わす。彼女は頬を紅潮させている。こちらの言葉を待っている。そんな彼女を落としきると心に決める。


「俺に力を貸してくれ、エクレア!」

「ひっ! 手を離してっ!」

「お前が必要なんだっ!」

「ううっ。だめっ! プロポーズはキレイな湖に浮かぶボートの上がいいのっ!」

(あっ……これ、フラグ建築になっちまう)


 エクレアの手を自分の手で包み込んでいたが、それを止める。出会ってから1日も経っていないというのに、エクレアと将来の約束をしてしまうのは危険な気がした。


 それを察知できたのは男の本能のおかげとも言えた。レオンはエクレアに潜む地雷の香りを感じ取った。


(エクレアみたいなタイプ、曖昧な関係にしておくのはそれはそれで危険なんだろうが……)


 エクレアは目をぎゅっと閉じて、胸の前で手を握っている。ここで、彼女の頭を優しく撫でれば、彼女は落ちることはほぼ確定だろう。


 レオンは悩んだ。彼にはルートがふたつ用意されている。明らかに地雷臭がするエクレアに優しく接するルート。


 自分の隣で、自分とエクレアの成り行きに興味を示しながらも、それを必死に隠している、むっつりすけべの才能を持っているミルキーに乗り換えるルート。


 そんな悩める自分の前に善行スクリーンが展開された。


A:地雷臭プンプンのエクレア攻略ルート:☆

B:恋の感情もまだわからない初心うぶなミルキー攻略ルート:☆☆☆

C:うほっ良い男のバーレ攻略ルート:★★


 レオンが悩む必要など、どこにもなかった。レオンはエクレアに「無理言ってすまん」と謝り、今度はミルキーへと顔を向けた。彼女はきょとんとした顔つきになっている。


「私?」

「ああ。俺の国盗りに付き合ってくれるか?」

「うん、いいよ」

「えっ!? そんな軽く承諾していいの!?」

「うん。でも、話せるようになったら、ちゃんと本当のことを教えてね? 私たち、仲間なんだから」


 ミルキーがグラスを手にして、こちらに向かって、それをそっと近づけてきた。それに合わせるように、こちらはジョッキを手に取る。コンッと軽く、グラスとジョッキを当てる。


 それに合わせて、バーレとエクレアもこちらにグラスを差し出してきた。


「おれっちを忘れてくれるなよなっ。レオンが国を盗るってのなら、おれっちも付き合ったほうが何かと真の妹探しに都合が良さそうだっ!」

「バーレ、お前……。そんな夢、追いかける必要ある!?」

「あるよっ! 胸がバーンって出てて、尻も主張が激しくてっ! そんな真の妹をゲットするには国を盗るくらいにスケールがデカいだろうがっ!」


 バーレは頑なに真の妹探しは譲らないようだ。彼の気持ちを汲んで、三種の神器集めをするための仲間となってもらうことにした。


「あの……あたしも及ばずながら、勇者さんの夢を応援させてください……」

「お、おう!? でも、俺はまだエクレアにとっての真の勇者かどうかはわからないけど!?」

「あたしにもわかりません……でも、勇者さんなら、あたしを変えてくれると思えるんです」


 エクレアも三種の神器を集めるために一緒に戦ってくれると言ってくれた。皆に本当のことを言っていないことに少し後悔を覚えたが、それでもこのパーティの目的と目標は決まった。


 皆で改めて、カチーンとグラスを鳴らし合い、グラスの中身を一気に飲み干した。


 食べると同時に、飲むのも忘れない。新しく運ばれてきた飲み物に皆で口をつける。ひと口飲んだ後、ミルキーが「ふぅ、熱い……」と吐息を漏らしてくれた。


(色っぽいなぁ……)


 お酒が進めば進むほど、ミルキーの吐息が熱くなっていくのが、手に取るようにわかる。


 ミルキーの頬が赤くなっていくにつれて、自分は年頃の男らしく、ミルキーに欲情を抱いて、身体全体が熱くなっていた。


 しかし、自分は紳士であることを忘れてはいけないと、しっかりと心に誓う。無理に飲ませてはいけないと、ミルキーの状態をしっかりと観察しつつ、お酒を勧めた。


「酔ってない?」

「酔ってないよー」

「じゃあ、お代わり、いっとく?」

「うんっ! レオンも飲んでー」


 レオンの見立てでは、今のミルキーは酔度3。そろそろ、立てばふらつく程度には酔いが回っている。


 酔度4となれば、立つとふらふらで誰かの手を借りなければならなくなる。酔度5を超えれば、ひとによっては、そのままテーブルに突っ伏してしまう。


(ここは見極めが肝心だっ。酔度4までで上手く、コントロールするんだ!)


 ミルキーとの会話は楽しいの一言に尽きる。先ほどまで口説き落とそうと躍起になってしまったエクレアは、バーレと楽しく料理とお酒を楽しんでくれている。


 バーレもレオンと同じく、隣に座る女性の酒量がおかしいことにならないように注意を払ってくれている。そのため、ミルキーにまで、注意が向いていないことは一目瞭然であった。


(しめしめ……こちらにとって、都合の良い状況が整っているぜ!)


 パーティ結成会は大きな波乱に発展せず、和気あいあいと料理とお酒と会話を楽しむ場になっていた。


「酔ってない?」

「酔ってないってばー! んもう、子供扱いはやめてー!」


 ミルキーは運ばれてきたばかりのグラスの中の黄色い液体をグビグビと飲んでいる。その手を無理やり止める。


 ミルキーは「なんでー?」と聞いてきたが、これ以上は酔度5に達してしまう。


 酔いつぶれてしまっては、こちらが困る。酒杯を交わしながらも、どうやって、ミルキーとより一層、親密になれるかと、こちらは彼女の酒量を調整しているのだ。


 だが、ミルキーはコントロール不能に陥りかけていた。


「もうだめだってー」

「だめってなーにー?」

(あかん。もうそろそろ、ちゃんと止めないと)


 ミルキーの手から無理やり、グラスを奪い取る。彼女は「うわーん!」と言いながら、こちらにのしかかってきた。チェニックの服越しからも、彼女の胸の柔らかさが伝わってくる。


(役得……じゃねえよ!)


 ミルキーから奪ったグラスをバーレの前に置く。バーレはこちらにウインクしてきて、そのグラスをすぐさま空にしてくれた。さすがは気が利くバーレである。


「のーまーれーた!」

「はいはい。お酒はここまでな」


 ミルキーはバーレに文句を言うと同時にテーブルに突っ伏して「くーくー」と可愛らしい寝息を立て始めた。


 バーレが「やれやれ……」と嘆息している。こっちは「くふふ……」と、いやらしい声が出てしまう。


「レオン、ミルキーのことは頼んだぞ」

「ああ、任せてくれ」

「って、おい。なんで立ち上がった?」

「宿屋にミルキーを運んでおく」

「お、おう?」


 バーレが目を白黒させていたが、今、奴にかまっている余裕はこちらも無い。左腕全体がどうにもうずいてたまらない。ミルキーに付き合って、自分も結構な量を飲んでいた。


 このままでは、ここで寝てしまうことになる。そうなれば、バーレにミルキーをお持ち帰りされてしまう危険があった。


 席から立ちあがり、ミルキーの身体をやさしく揺する。目を開けた彼女に手を差し伸べた。彼女はにんまりと笑顔になって、自分に抱き着いてきた。


(あふぅ! お酒に酔った女性って、こんなに色っぽく変わるんだぁ! もう、紳士を辞めたいよぉ!)

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