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第42話:竜皇襲来(3)

 瓦礫と化した西地区。その瓦礫の下から大きなシャボン玉がいくつも湧き上がってくる。そのシャボン玉ひとつひとつに逃げ遅れた人々が包み込まれていた。


 ゆっくりとシャボン玉が宙に浮かび上がってくる。女神の言う通り、竜皇に踏みつぶされた者は誰一人、居なさそうであった。


(女神様の慈悲が温かいよぉ。本当に巻き込まれたひとがいなくて、よかったよぉ!)


 レオンは涙目になりながらホッと胸を撫でおろす。しかし、次の瞬間、冬の嵐がリゼルの街に吹き荒れる。西から東へと雪氷混じりの突風が吹き荒れた。


 それによってシャボン玉は次々と吹き飛ばされた。レオンたちは「くっ!」とうめき声を上げながら、吹き飛ばされないように踏ん張る。


『どこのもんじゃゴラァァァ!!』


 竜皇は大層、ご立腹であった。奴が怒声をあげると大気が凍え、大地が振動した。さらには気温が一気に下がり、リゼルの街には季節外れの雪が舞い降りてくる。


「寒いぃ! バーレ、服をくれっ! お前が着てるやつ!」

「あぁん? マントがあれば何とかなるだろっ」

「無理無理! ギャグ補正は寒さと熱さには弱いんだよっ!」

「じゃあ、パンツ一丁の今のその姿なら、何に耐えれるわけ?」

「んと……爆発ネタ」


 バーレが「ヤレヤレ……」と肩をすくめている。そうでありながらも、バーレは男前だ。寒さで震える自分のために、何かないかと辺りを探してくれる。


 バーレが積みあがった木箱の蓋を腕力で引っぺがす。その木箱の中をごそごそと漁ってくれた。バーレがある物を見つけて、こちらへと下手したてに放り投げてきた。


「ほら、タイツがあったぞ。これでかなり温かくなるだろ」

「ありがてえ!」

「貸しはミルキーちゃんとのデートで返してくれよな?」

「エクレアで頼む!」

「まじかよっ! おれっちはエクレアとくっつく気はこれっぽっちもねえよっ!」

「すまんっ! 俺もミルキールートを選びたいんだっ、許せっ!」


 レオンはバーレから受け取った黒のタイツをすぐさま履いた。バーレの優しさを嬉しく感じてしまう。冷えを防ぐには下半身を温めること。それを心底、実感できる。


 防寒対策を終えたレオンはリゼルの街の一角から竜皇の動きを見た。未だに奴は怒りが収まらないのか、怒号を上げている。


 しかしながら、奴が一歩、足をリゼルの街へと踏み出そうとした時、リゼルの街の周囲に薄い白色のベールが降りてきた。


 その薄い白色のベールと竜皇が触れ合うと同時にバチッ! という大きな音が鳴る。竜皇がよろめき、後ずさりした。


「おお……すげえ。竜皇がひるんだぞ!?」

「マジですげえな。リゼルの街にこんな仕掛けが?」

「誰が魔力供給してるのかしら?」

「わかりません。でも、少なくとも100人分相当の僧侶のマジック・バリアですね」


 バーレたちは驚いていた。この街を活動の中心にしていたバーレたちも、リゼルの街にこんな仕掛けが施されていることなど、知らなかったことが伝わってくる。


 レオンたちがとまどう中、リゼルの街に警報が鳴り響く。その警報はセントラル・センターの方から鳴り響いていた。


 レオンたちの視線は自然とセントラル・センターへと向いた。


『こちらはリゼルの街を管理しているセントラル・センターです。住民の皆様。伝承にある通り、竜皇がついにこの街へと攻め込んできました』


 ラッパのような形をした機材が目に見えた。そこから大音量で放送が流れてきた。レオンは目を皿のように丸くしてしまう。


「俺は悪くなかった!? 伝承通りってことは、俺はたまたまきっかけを作ったにすぎないってこと!?」

「いや、それはさすがに通らないんじゃね?」


 バーレがすかさず、それはないないという仕草を取ってきた。レオンは「ですよねー」と照れ笑いしてしまう。


「てか、どうしよう。竜皇をリゼルの街に墜落させた責任は取らないとダメだよな」

「んま、出来る限りのことはしないといけないだろうな。そんなに気張るな。おれっちたちもついてるぞ」

「バーレ……お前、本当に良い奴だなっ。なんで女性じゃないの!? お前が女だったら、俺、めっちゃバーレのことを攻略対象にしちゃう!」

「へへっ。性別なんて気にしなくていいんだぜ?」


 バーレが勇ましくて頼もしい。彼がこちらに向かって腕を広げてきたので、彼の胸へとそっと身体を寄せる。


 バーレの腕の中にそっと包まれた。トゥンク……と胸が鳴る。彼の温もりがじんわりと伝わってくる。


「とりあえず、ドラゴンの鱗すら切り裂くドラゴン・バスターを手にいれないとな。奴に攻撃が通る武器はそれだけだって言われてるんだ」


 バーレがよしよしとこちらの頭を撫でてくれた。嬉しさが込みあがってくる。レオンはバーレにこくりと頷き、左手を猛り狂う竜皇へと向ける。


「ライトニング・メガ・ランチャー」


 レオンは左手の先から黒くて太い雷光をビーム状にして撃ち出した。瓦礫と化した西門近くにいる竜皇の顔面にぶち当たる。竜皇はぐらっとよろめいた。


「ちっ、さすがは竜皇だな。サイズ感が狂ってやがる」


 レオンの言う通り、竜皇は倒れるまではいかない。すぐさま姿勢を正し『どこのもんじゃあああ!』と怒声を上げている。


 それとともに大気がまたしても震えた。竜皇の怒りは収まらない。ガーーーン! と勢いよく薄い白色のベールへと頭突きしてきた。


 白いベールが一瞬で凍り付いた。それだけではない。バリバリガッシャラララーーーンという盛大な音が鳴り響く。


 竜皇とリゼルの街の間にあった薄い白色のベールが跡形もなく、吹き飛ばされた。


 この白色のベールが竜皇が放つ冷気を防いでくれていた。竜皇のたった一撃により、それが剥がされた。


 竜皇の放つ多大な冷気が再び、リゼルの街を襲う。瓦礫と化した西地区が真っ白な霜に覆われ、さらには氷の棘が瓦礫の上に生えた。


 バーレがこちらの肩を手で掴み、前後へと大きくこちらの身体を揺すってきた。レオンは照れ隠しに髪の毛の生え際を指でこりこりと掻く。


「お前、バカなの!?」

「いや……撃ち落とせたんだから、俺の雷魔法で何とかなるかなって……」

「とにかく身を隠すぞ! てか、もう二度とそんなことすんじゃねえ!」

「それって、やれって振りですよね!? ライトニング・メガ・ランチャー!」


 レオンが放った黒くて太い雷光ビームが下側から上方向へとアッパー状にカーブを描き、竜皇の顎を打ち抜いた。竜皇の紅い目からキラキラと星が飛び出す。


 竜皇がぐわんぐわんと頭を前後に揺らしながら、倒れ込もうとしている。しかしながら、山のように大きい竜皇だ。2~3歩後退しつつも、その場で踏ん張った。


「ばっかやろーーー!」

「えへへっ! 雷魔法だけじゃダメそうだっ!」

「2度も試すんじゃねえよっ!」

「で、でも、俺の雷魔法が効いてることは確かだぜ!?」

「黙ってろっ!」


 バーレはこちらの弁明を聞こうともせずに、どこからか持ってきた布団でこちらを簀巻きにしてきた。さらにはその布団の上からロープでぐるぐる巻きにしてきた。


「ミルキーちゃん、エクレアちゃん。担ぐのを手伝ってくれ!」

「わかったわ。これ以上、レオンさんに好き勝手させたら、本当にリゼルの街が全壊しちゃうもんねっ」

「さあ、勇者様をラブホに連れ込みましょう!」

「バーレ! エクレアが物騒なこと言ってる!」

「うるせぇ! お前のほうがよっぽど物騒なんだよっ!」


 レオンは簀巻きにされた後、バーレたちにそのまま担ぎ上げられた。すたこらさっさと、この場から逃げ出すのであった……。


 竜皇がきょろきょろと左右に頭を振って、攻撃をしてきた者を探している。バーレたちは逃走のために路地裏を選ぶ。


 竜皇に見つからないようにリゼルの街中を縫うように進んでいく。


「ふぅ……とりあえずはいつも利用させてもらってる冒険者ギルドに避難してきたけど」

「バーレ、もしかして、何も考えてない?」


 バーレにじろりと睨まれた。床の上へとポイッと投げ捨てられた。さらにはバーレはゲシゲシと簀巻き状態の自分を蹴り飛ばしてきた。


「ひどくない!? 俺、今、まったく動けない状態だよ!?」

「これでも手加減してるわ、アホがっ」

「そんなぁ! もっと強く蹴っていいのよ?」

「ドエムかっ!」


 バーレが踏みつけるのを止めて、サッカーボールキックを喰らわせてきた。布団越しにお尻を思い切り蹴飛ばされた。


「痛気持ちいいのぉ!」


 蹴り疲れたバーレが「ハアハア」と肩で荒い呼吸をしている。ミルキーとエクレアが繩をほどいて、簀巻き状態から救ってくれた。


 自由を得た後、タイツ姿のまま、踏ん反り返ってみせた。エクレアが目をキラキラさせながら、こちらに祈りのポーズを取ってきたので、こちらはVサインしてみせる。


「ほっほっほ。相変わらず、バカやっておるのう。ニセ勇者(むっつりすけべ)よ」

「おっ、謎の爺さん。生きてたのか。てっきり竜皇の墜落に巻き込まれたかと」

「ばっかもーん! ヒトを勝手に殺すなっ!」

「へへっ。不謹慎でしたねっ」

「まったく……。伝承通り、竜皇がリゼルの街に現れた。ドラゴン・バスターはもう手に入れてくれたんじゃろうな?」

「いえ、まったく! 竜皇とじゃれあっていて、すっかり忘れてました!」

「ズコーーー!」


 謎の老人が盛大にずっこけた。杖が宙を舞う。老人が後頭部を床に打ち付けた。それと同時に入れ歯もスポーンと飛んでいく……。

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