目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第41話:竜皇襲来(2)

「わしが掴んだ情報では、タンス漁り勇者はこのリゼルの街にやってきておる」

「はぁ……」

「隙を見つけて、殺してでも奪い取れ!」

「いや、待って!? ドラゴン・バスターって、アイス・ソードレベルなの!?」

「その通りじゃ。殺してでも奪い取れ!」

「大事なことだから、二度言った!?」


 謎の老人は物騒すぎた。レオンは「とほほ……」と肩を落とすしかない。気落ちしていると、バーレがこちらの肩に腕を回してきた。


「まあまあ。真に受けるなって。タンス漁り勇者とは決闘でもして譲ってもらおうぜ?」

「そう……だな。って、お金で買い取る選択肢とか、普通あるよね?」

「パンツ一丁でマントを翻し、依頼の報酬金の全てをミルキーたちへのプレゼントで消える予定のお前に、そんな金があるのか?」

「悔しい! 女子にプレゼントしたくなっちゃう、男のSAGAに打ち勝てない自分が嫌になっちゃう!」


 結局のところ、タンス漁り勇者とは暴力で解決するしかなさそうであった。レオンは今のうちに女神に平謝りしておく。


・女神からのコメント:今回だけはおおめに見ておくわ。でも、殺しちゃダメよ? さすがに弁護できなくなっちゃうから!


 女神の許しを得た。しかしそれでも、気が乗らない。タンス漁り勇者と出会った時に別の選択肢が取れることをただただ願うしかなかった。


「わかりました。そのタンス漁り勇者とどこかで出くわしたら、そいつからドラゴン・バスターをを手に入れておきます!」

「頼んだぞ。ニセ勇者(むっつりすけべ)よ。見事、ことを成し遂げた時にはランクアップを認めよう」

「はい……。今度は何勇者にされるのかわかりませんけどっ! 一応、楽しみにしておきます」


 ようやく老人との長話が終わる。これ以上、足止めされたくもない。レオンは老人に次の話を振られる前に、冒険者ギルドから逃げるように出ていく……。


 冒険者ギルドから外に出たレオンは一転してうっきうきだった。ミルキーとエクレアがこちらに腕を回してくれている。


 まさに両手に花の状態だ。レオンのやる気はあがりっぱなしだ! 向かうところ敵無し! 意気揚々と武具屋へと向かう。


 戦士バーレがこちらにジト目を向けてくるが、知ったことではない!


「あたしも新しい僧侶服がほしいです~」

「おーん? まずはミルキーの買い物からだっ!」

「勇者様、ひどいのです~! 可愛い女子の扱いがなってないのです~! おっぱいはあたしのほうが断然大きいのです~!」


 左腕にぽよよ~~~んという弾力と柔らかさが兼ね備えられた感触が強まった。レオンの顔はでれっでれとなる。


 それに対抗するかのように、右隣りのミルキーが「ふ~~~」と右耳に息を吹きかけてきた。「いひんっ!」という声を出しながら、その場で腰砕けになってしまった。


「すまん! まずはミルキーへのプレゼントだ! 許してくれ! 俺は……ミルキーの願いを先に叶えたいっ。エクレア、また後で……なっ!」

「んもうっ! 絶対に忘れないでくださいよ~~~!」


 レオンは仲間たちとともに武具屋に入った。ミルキーが魔法のローブが並ぶコーナーへと歩を進める。


 ミルキーが何着もローブを手に取り、どれがいいのかをレオンに聞いてきた。


「すっぽり全身が隠れちゃうのはもったいないなぁ? バーレはどう思う?」

「おれっちもレオンと同意見だ。ジャケットっぽいのがいいかもな。軽く羽織るタイプ」

「そうだよなっ。さすがヒップブラザー! こうさ……ローブがひらひらとしたところで、キュロットパンツが主張してくるやつ。そういうの大好物!」

「うんうんっ! わかってるじゃねーか! でも、こうなるとショーパンであってほしいってのは高望みしすぎ?」


 ミルキーよりも男性陣のほうが大盛り上がりであった。エクレアがおっぱい担当である以上、ミルキーにはお尻担当であってほしいのが男性陣の見解だった。


 年頃の男たちが気にするのは結局のところ、可愛い女子たちがもっと可愛くなってほしいことだ。


 ミルキーは軽く羽織るタイプのローブをレオンに買ってもらった。ミルキーは上機嫌で武具屋の外に出る。


 その後ろをゆっくりと続くレオンたちであった。もちろん、男どもの視線はミルキーのヒップに釘付けだ!


「勇者様ぁ! 次はあたしの分ですよぉ!」

「わかってるって! 何を買ってほしい?」


 レオンは仲間たちと他愛もないことを話していた。しかしだ……急に辺りが暗くなった。何事だ!? とばかりにレオンは空を見上げた。


「うわっ! なんじゃこりゃぁぁぁ!」


 レオンが目を向けた先、とんでもないサイズのドラゴンがリゼルの街の上空を優雅に飛んでいた。


 嫌でも「ゴクリ……」と息を飲んでしまった。全身を蒼い鱗で覆われている。奴が飛んでいる高度は雲と同じだ。


 そうだというのに、リゼルの街の半分近くが奴の影で覆われてしまっている。とんでもないサイズであることは、地上からでも一目瞭然だ。


「ねえ、バーレの旦那。もしかして、あれが竜皇?」

「かもしれんなあ……。てか、もうそんな時期だっけ?」

「え? そんな時期ってどういうこと?」

「お前、そんなことも知らないのかよっ! 竜皇は涼しい場所が好きみたいで、夏に向かって行くこの時期、北へ飛んでいくんだよ。んで、その途上にあるのがここリゼルの街ってこと」

「ふーーーん。渡り鳥みたいなもんか……」


 レオンは何を思ったのか、上空を飛んでいる竜皇へと向かって、左手を突き出す。その左手の先からは真っ黒な雷球が生み出された。


「ライトニング・メガ・キャノン」

「ちょおまっ! 何やってんの!?」

「いや、あそこまで届くかなって」


 バーレに向かって照れ笑いをしてみせた。ドラゴンは雲と同じ高さを飛んでいる。そんなところまで自分が発射した雷球が届くわけがないと踏んでいた。


 しかし、雷球はグングンと速度を増して、どんどん上空へとすっ飛んでいく。もちろん、レオンは自分が放った雷球を見ることはない。


 無常にも真っ黒な雷球は竜皇の顎を下からカチ上げた……。


「ゆ、勇者様。当たっちゃいました」


 エクレアが何か変なことを言っていた。しかもがくがくぶるぶると身体を震わせている。こちらは首を傾げるしかない。


「ん? 何が? アイスの当たり棒?」

「違いますぅ! 勇者様が放った雷魔法が当たったんですぅ!」

「え? まさかーーー! ここから竜皇のところまで、どんだけ距離があると思ってるんだよ~~~。あいつ、雲の高さだぜ?」


 エクレアを落ち着かせるためにも、こちらは努めて朗らかな声で言ってみせた。そうだというのに、エクレアは今にも泣きそうな顔になっている。


 エクレアの頭をよしよしと優しく撫でる。「落ち着けるようにおっぱい揉もうか?」と言いながらだ。だが、それでもエクレアはこちらから視線を外し、さらには右手の人差し指を空へと向けた。


「本当ですってぇぇぇ! ちゃんと見てくださいよぉ! ほらぁ、竜皇がどんどん落ちてきてますぅ!」

「まったく……そんなわけがないって、うぁぁ!?」


 エクレアの話は本当であった。レオンとバーレはあんぐりと口を開けてしまう。みるみるうちに竜皇が落ちてくる。


 まるで世界の終わりのような光景だった。山そのものが落ちてくる。竜皇が地面に近くなってくればくるほど、奴の巨大さが嫌でも目に焼き付く。


 この想像を絶する光景にリゼルの街の住人全てが釘付けとなった。


「空から山そのものが降ってくるぞぉぉぉ!」

「いやぁ! この世の終わりよぉ!」


 リゼルの街全体の空気が震えた。ゴゴゴ……と重低音が空から響き渡る。それに遅れるように、リゼルの街はひっくり返したかのように大騒ぎとなった。


「俺の中の勇者、また何かやっちゃいましたぁ!?」

「やっちまったよっ! それもシャレにならんやつだよっ!」

「に、逃げましょう! レオンさん! この混乱に乗じれば、レオンさんが撃ち落としたってことはバレないと思います!」

「勇者様、こちらに避難しましょう!」


 レオンたちはエクレアの先導に従い、リゼルの街中をひた走る。そうしている間にも竜皇はどんどん落下してくる。


 レオンたちは走るのを止めない。竜皇が落ちていく方向とは逆方向へと逃げた。次の瞬間、竜皇の身体の一部が地面にぶつかった。


 それと同時にリゼルの街全体に衝撃が走る。建物が宙を舞った。地面が掘り起こされて、大量の土砂が空中へと飛んでいく。


 それとともにとんでもない大きな揺れが起きた。レオンたちは足をもつらせながら、倒れ込んでしまう。


「うわぁぁぁ……どうしよう。リゼルの街がどんどん壊れていっちゃってるぅ!」


 巨大すぎる竜皇はリゼルの街の一角に墜落した。だが、それでも勢いを殺し切れていないのか、なかなか竜皇は止まらなかった。


 奴はでんぐり返しを続けながら、リゼルの街の西へと移動していく。リゼルの街はどんどん竜皇の巨体によって押しつぶされていった……。


 竜皇はリゼルの街の西門を豪快に吹っ飛ばしたあと、ようやく、動きを止めた。しかし、竜皇の墜落によって、リゼルの街の西区画は完全に破壊しつくされていた……。


(Oh……MY女神様! 俺、やっちゃいました!)


・女神からのコメント:んもう! 住民を守るのに神力を使い切っちゃったじゃないのっ! レオンくん、よく聞いて? わたくしはしばらく手助けできないから、あとは貴方自身で何とかしなさいよ?


(うへぇ……ありがとうございますぅ! 俺のせいでヒトが大勢死んだかと思っちゃいましたぁ!)


・女神からのコメント:大丈夫♪ 竜皇がリゼルの街を襲うのは、こちらで把握してたから、事前にこちらも準備してたのよ。頑張ってね、わたくしの可愛い子豚ちゃん♪


(ぶひぃ! さすがは女神様でございますぅ!)

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?