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第64話:貴族の陰謀(1)

 レオンは目を覚ます。身体はふかふかのベッドに沈み込んでいる。さらには薄手の羽毛布団が身体にかけられていた。


「知らない天井だ。って、また勝利の余韻を味わえなかった……」


 城ロボを倒した後、気を失った自分はどこかの屋敷に運ばれたのであろう。寝たまま、首から上だけを動かし、部屋の様子を確認する。


「う~~~ん。調度品を見る感じ、貴族のゲストルームって感じ?」


 寝室に置かれている調度品の数は少ないが、センスが貴族のそれをうかがわせる。気絶していた間に何が起きたのかを少しでも自分で考えておかねばならない。


「うん、これは……城ロボを倒したけど、まだまだトラブルからは逃げられてないってことだろう! そうとなれば……俺は女神様のエッチなピンナップ集を読む!」


 少しでも気分をリラックスさせる。さらには身体に溜まった毒素を抜く。その両方が一度に叶うアイテムを自分は所持している。


 虚空に手を突っ込み、そこから女神の水着イラスト集を取り出す。おあつらえ向きにベッドの枕元にはティッシュの箱が置かれていた。


 いたれりつくせりとはまさにこのことだ。


◆ ◆ ◆


「はあはあ! 女神様ぁ! イクよ! そのおっぱいで受け止めて!」


 レオンがいよいよフィニッシュだというところで、ガチャリとドアノブが回される音が聞こえた……。


 嫌な汗をだらだらと流しながら、寝室のドアの方へと顔を向けた。そこには黒ぶちメガネをかけたメイドのお姉さんが立ったまま、固まっていた。


「……元気そうですね」

「……はい、とっても元気です」

「では、一度退出します。3秒後にもう一度、入り直しますね」

「ちょっと待てーーーい! 1秒でイって、1秒で後始末して、1秒で衣服を整えろと!?」

「あっ。まだ発射前でしたか。では30秒後に」


 メイドのお姉さんはそう言うと、退出していく。こちらはひくひくと頬を引きつらせるしかない。


 まずはパンツとパジャマのズボンをしっかりと履き直す。虚空の先へと女神のピンナップ写真集を仕舞う。


 ティッシュの箱を元の位置に直す。元気いっぱいすぎる愚息に拳を叩きこみ、無理矢理、半起ちくらいへと抑え込む。


 そうしているだけで、メイドのお姉さんにもらった30秒は過ぎ去ったようだ。彼女はご丁寧にコンコンとドアをノックしてから入室してきた。


 メイドは軽く顔を動かしながら、くんくんと寝室の匂いを嗅いでいる……。


「おや? 発射しなかったのですね?」

「できるわけないでしょ!?」

「そうですか。身体の調子はいかがですか? おふざけ勇者(むっつりすけべ)のレオン様」

「えっと……元気っちゃ元気だけど、身体のあちこちの筋肉が固まってる感じ?」

「そうですか。では、マッサージします」

「へっ!?」

「女の私にそれ以上、言わせるつもりですか?」


 ごくりっ! と息を飲むしかない。こちらがナニをしようとしていたかは、あちらも理解しているはずだ。そうだというのにマッサージをしてあげると言ってきている。


 それが何を意味するかは考えなくてもわかる。こちらが腰を引き気味にしているというのに、メイドのお姉さんがベッドの上へと身体を乗せてきた。


 ベッドがギシリと音を鳴らす。それに合わせて、もう一度、ごくり……と息を飲んだ。お姉さんの顔がどんどんこちらの顔へと接近してくる。


「だめぇ! 俺、初めての相手は決めてるのぉ!」

「おや? チェリーでしたか。安心してください。手コキの手ほどきはしっかり教育されていますので」

「やめてもらえます!? 愚息をせっかく大人しくさせたのに、手コキって言葉だけでビンビンよーーー!」」


 このままではメイドのお姉さんになす術なく、いいように扱われてしまう。お姉さんがそうしてくるのは、何か事情があってのことだろう。


 煩悩と性欲に負けるわけにはいかない。レオンはお姉さんの肩付近を手で押しやる。お姉さんはそうされながらも、キョトンとした顔つきになっている。


「あの……状況が一切飲み込めないので、マッサージはちょっと?」

「それは残念です。マッサージと称して、そのまま押し倒して、筆おろしさしあげる予定でしたのですが」

「あーーー、悩ましい! きっとこれはお姉さんを雇っている貴族の命令なんだろ!?」

「……」

「やっぱりそうなのね!? 俺、厄介ごとに巻き込まれるのは嫌です!」

「そんな……でも、ここは私の事情をなんとなく察して、流されてもらえませんか?」

「そ、そうね! そうしなきゃお姉さんも困る事情があるわけね? じゃあ、俺は悪くねえ! マッサージをお願いします!」


 この屋敷の貴族が何かを企み、お姉さんを遣わしたのだろう。


(しょうがないにゃあ? 俺は女性を悲しませたくないっ! これは善行だ!)


・女神からのコメント:本当に善行になると思ってるのかしら~~~?


 今からメイドのお姉さんにいいことしてもらおうとしているところに女神から忠告のメッセージが届いた。


・女神からのコメント:メイドの事情もあるから、今回は軽い神罰で許しておくわ♪

(セフセフ、やっぱりアウトー! ってことですねーーー!?)


 次の瞬間、寝室のドアが勢いよく開けられた。女神原理主義者のエクレアが現れた! 


 彼女が自分に神罰を与える存在であることにすぐに気づいた。


 こちらががくがくぶるぶると震えているのとは対照的にエクレアはうっとりとした表情をしている。だらだらと脂汗が全身から溢れてくる。


 これから自分の身に災厄が迫っている。気が気でない。そうであるというのに、エクレアはベッドへと近づいてきた。


 エクレアはまるで路傍の石をぞんざいに足で蹴飛ばすように、先客のメイドをドンッ! と手で突き飛ばす。


 さらにエクレアはこのベッドがレオンとエクレアのために用意されたものかのように振舞いだした。


 エクレアが薄手の羽毛布団を手で払いのける。さらに彼女がパジャマ姿の自分へと馬乗りになってきた……。


 絶対に獲物を逃がさないとばかりに、こちらへと体重を預けている……。


「勇者様ぁ。はぁはぁ……お目覚めになられたのですね」

「エクレア!? 俺に神罰を与えにきたの!? ギンギンだからぁ!」

「ふふ……神罰って、そんな。ちなみに聞きますけど、そこの女狐と浮気しようとしてました?」


 エクレアが言う女狐とはベッドの脇へと転げ落ちたメイドのお姉さんのことだろう。彼女は未だに立ち上がることができていない。


 身体を少しだけ動かし、メイドのお姉さんが怪我していなかと心配そうに見た。だが、エクレアはそんな自分にのど輪を仕掛けてきた!


「ぐえっ! え、エクレアさん! 聞いてほしい! そこのお姉さんに筆おろししてもらおうとしてないうほぉ!」

「ふふっ♪ けっこう大きい……勇者様のって。でも~~~神罰です♪」


 エクレアが後ろ手にこちらの愚息をパジャマ越しにしっかりと握っている。彼女の柔らかい手の感触がパジャマ越しに伝わってくる。


 それと同時に女性の力とは思えないパワーも感じることができた。


「ちなみに……最後の言い訳を聞いておきますわっ」

「エクレア……愛してる! だから、許して!」

「はい、嘘八百ですね♪ ゴートゥヘーーール!」

「うぎゃぁぁぁ!」


 レオンの愚息はパジャマのズボンの上からグキッと横へと90度、へし曲げられてしまう。


 ことを為したエクレアが馬乗りするのをやめて、ペッとこちらの顔へと唾を吐いてきた。しくしく泣くしかなかった。


 しかし、エクレアの怒りは収まらないのか、ベッドから降りて、女狐と称したメイドのお姉さんの腕を手で掴んで、無理矢理に起こした。


「あたしの勇者様に唾をつけるのはやめてくださいね?」

「ふむっ。玉の輿を狙いましたが失敗したようです」


 さすがは何かしらの事情を持っているメイドのお姉さんだ。お互いのメガネ越しにバチバチと火花を散らしている。


 メイドのお姉さんがエクレアから視線を外し、こちらへと身体を向けてきた。さらには丁寧に一礼しだす。


「では、お食事の用意をしてきます」


 メイドはそれ以上は何も言わず、寝室から出て行ってしまった。嵐のような時間がようやく終わりを告げた……。


 メイドと入れ替わるようにバーレとエクレアが入室してきた。彼らの表情から察するに、こうなることが予想できていたようだ。


 騒動に巻き込まれないように部屋の外で待機していたのだろう。レオンの愚息がぽっきり折られ、さらにこの騒ぎの元凶が去った後、彼らはようやく姿を現した。


 エクレアは慈母神のように「いい子いい子。痛いの痛いの飛んでいけ♪」とこちらの愚息に回復魔法をかけてくれる……。


 バーレとミルキーがひくひくと顔を引きつらせながら、こちらの様子を眺めていた……。


 治療が終わると、エクレアはベッドの上から降りてくれた。彼女に代わるようにバーレがこちらへと身を乗り出してきた。


「目覚めたばかりだっていうのに災難だったな。レオン、厄落としをしてもらったほうがいいんじゃねえの?」

「かもしれん。バーレ、俺の顔に女難の相が出てたりしないか?」


 バーレがこちらの顔をじっくりと覗き込んできた。そして意味ありげに「ふっ……」と息を吐いている。


「おれっちは人相占いは得意じゃないっ!」

「じゃあ、なんで俺の顔をじっくり見てきたんだよっ!」

「おれっち、実は……男でも案外いける性質たちなんだよなぁ!」

「そんなカミングアウトいらんわ! 大人しく、真の妹を探していやがれ!」


 バーレの冗談とは言い切れない発言に恐怖して、彼にベッドから離れるように言ってやる。


 バーレがやれやれと肩をすくめている。そうした後、どうしたものかと迷っているミルキーと立ち位置を変える。


「レオンさん。あのその……災難でしたね?」

「その通りだよ! 助けに入ってくれてよかったんだよ!?」

「いえ……エクレアが神罰を与えなければっ! って鼻息をフンスフンスさせてたので……」

「鼻息をフンスフンスさせるのはミルキーのアイデンティティなんだからさぁ!?」

「ひっどい! まるで私がイノシシ武者みたいじゃないですかぁ!」

「ごめんごめんっ! 枕で叩かないでーーー! 俺、病み上がりぃ!」

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