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ep.26 時の干渉


 点と点が繋がっていく。

 そして、それを待っていたかのように、いきなり空間が崩れ始めた。


 足元が無くなり、私の身体も下へ落ちていく中、満月をしっかりと抱きしめる。

 顔はよく見えなかった。

 けれど、あの紅い目だけは鮮明に記憶されている。


 もし私の記憶を消したのがあの死神だとすれば──また、会えるだろうか。

 視界の先が徐々に黒く染まっていく。


 同時に、私の意識も黒へと飲み込まれていった。




 ◆ ◆ ◆ ◇




「おかえり」


 空から降り注ぐ、日差しのような声だ。

 目を開けると、上から覗き込む転幽の姿が見えた。

 穏やかに微笑む転幽は、私に向かって手を差し出してくる。


「ただいま」


 横になっていた身体を起こすと、傍にいた満月が嬉しそうに擦り寄ってきた。


「これで、この扉の役目も終わりだ」


「他の扉にもそれぞれ役目があるの?」


「そうだよ。扉はどれも、睦月のために存在しているからね」


 転幽の言葉が、澄み渡る青空のように沁みていく。

 扉の先で取り戻した過去の記憶。

 朧月は、私の「視る力」が真実を探すためにあるのだと言っていた。


 死神でも見えないものを、視ることのできる力。

 私がこの力を持って生まれた理由は、きっとが握っているはずだ。


「転幽は、私を助ける人格だって言ってたよね」


「睦月の言う通りだよ」


 私の問いかけに、転幽は真っ直ぐこちらを見つめてくる。


「それなら、もしもこの先……私が危険な状況におちいる時が来たとしたら、転幽は──」




 ◆ ◆ ◇ ◇




「睦月」


 霜月の声に、うつむきかけていた顔を上げる。


「どうしたの?」


「もうすぐ転移地点に着く。……睦月、もしかして疲れてる?」


「平気だよ。少し考え事をしてただけ」


 心配そうな霜月の頭を撫でると、目が猫のように細まっていく。

 無抵抗で撫でられ続ける霜月の姿に、何だか手を離し難くなってしまった。


死界むこうに戻っても、時間は経っていないはずだよ。この空間はどの世界の流れとも違う。隔離された領域ばしょだからね」


 扉の空間へ行く前と、ほんの少しも変わらない光景。

 死界や現世だろうと関係ない。

 あの空間にいる間、私は全ての世界からみたいだ。


 転移先で死局を眺めながら、私はこれから会う上司や、警備課のことについて頭を悩ませていた。



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