死局に戻ってきて早々、隣には霜月と美火が張り付いている。
今回は緊急の呼び出しで来たため、終わり次第すぐに現世へ帰ろうと思っていた。
いくら時の流れが違うとはいえ、私たちが居た場所は
出来る限り、早く帰った方が無難だろう。
「睦月さん、もう戻ってしまうんですね……」
「ごめんね。また会いにくるから」
しょんぼりした美火の頭を、宥めるように撫でる。
嬉しさと寂しさがないまぜになった表情で、美火はこくりと頷いてくれた。
「帰る前に、
「今回は契約だけだから、店には戻っているはずだ」
「そっか。なら大丈夫そうだね」
霜月と共に、威吹の店へ向かう。
当然のように差し出された手を、私もぎゅっと握り返しておいた。
◆ ◆ ◇ ◇
「睦月さん!」
太陽のような笑顔が眩しい。
明るく笑う威吹の周りには、爽やかな風が吹いているようだ。
「威吹くん、あの後大丈夫だった?」
「あー、まあ……それなりに。でも、入るって決めたのは俺なんで。腹は括りました」
真っ直ぐな眼差しに、後悔は
「明鷹さんとの相性も良さそうだし、何より威吹くんのためになるといいね」
「はい、頑張ります! あ、そう言えば睦月さんって──」
「睦月」
意気込む威吹が言いかけた言葉は、後から店に入ってきた霜月によって
「うおっ。霜月、来てたなら声かけてくれよ……!」
「店の前にはいた」
驚く威吹をよそに、霜月は淡々と返事をしている。
「いや、よく考えれば霜月が睦月さんから離れるわけなかったよな……。それにしても、気配くらいは出しといてほしかったけど」
上司から連絡が届いたことで、霜月はいったん店の近くで留まっていた。
連絡は私の方にも届いていたのだが、返事が必要な内容でもなかったため、私は一足先にお店へ入っていたという訳だ。
「もういいの?」
「うん。ただ、思ったよりも時間が押してるみたいだ」
時間というのは、現世に戻る時間のことだろう。
アパートからであれば急ぐ必要もなかったが、あいにく今回は場所が悪い。
「頼まれてた服なんですけど、試着してもらって問題なければ、そのまま渡せるようにしてあるんです」
任せてくださいと笑った威吹は、私と霜月を以前の部屋に案内してくれた。
入ってすぐ、正面に飾られた服に目が留まる。
黒を基調としたワンピースの
上半身や袖口にも入れられたラインは、繊細ながら美しいフォルムを生み出していた。
胸元と袖口を留めるボタンの色は金で、まるで霜月の目を模したかのような色だ。
膝丈ほどのスカートと、大きく入った切れ込み。
その間を繋ぐ別の生地には、散らされた銀が天の川のように流れていた。
ワンピースとは別にショールも用意してくれており、ローブを着ていない時はこっちを着るのも良さそうだ。
「スカートは繋ぎの部分が伸縮するので、自由度も高いんですよ。とりあえず、試着してみてもらえますか?」
威吹は服を手に取ると、そのまま隣の部屋へ案内してくれた。
さらりとした生地に腕を通しながら、不意に聞こえて来た声に小さく笑みを溢す。
本来なら急がなければいけないのだろうが、威吹の嬉しそうな笑い声を聞いて、ほんの少しだけ……着替える手を緩めておいた。