雨も降り尽くしたのか、明け方には太陽の姿が見えていた。
庭園には妖精たちが飛び交っており、茂みの隙間からは何かのつぶらな瞳が覗いている。
「そろそろ行こっか」
霜月に声をかけると、すぐに私の方へ寄ってきた。
黒猫の霜月を腕に抱き上げ、私は用事を済ませるため部屋を後にした。
◆ ◆ ◇ ◇
「姉さん、その……今から行くんだよね?」
玄関口で声をかけられ振り向く。
「そんなに私と行きたい理由でもあるの?」
「分かった。支度が終わってるなら、このまま一緒に向かおうか」
腕の中で、霜月がパチリと瞬くのが見える。
安心した様子の陽向を尻目に、私はそのまま玄関の扉を開けた。
玄関先で追いついた陽向は、「僕が持つよ」と言いながら、墓参りの用具を私の手から抜き取っていく。
大して重くないのだが、せっかくなので任せておくことにした。
片手で抱いていた霜月を両腕で囲い直すと、横からじっと見てくる陽向に首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、その……随分おとなしいんだなって。猫ってもっとこう、自由気ままなイメージだったから」
逃げも暴れもせず、素直に抱かれたままの霜月が珍しく見えたのだろう。
敷地内にも猫は沢山いるが、周りのことなどそっちのけで住み着いている。
まあそれも、猫ならではの魅力なのだが。
「霜月は特別だから」
「……そっか。姉さんが言うなら、本当にそうなんだろうね」
すんなりと受け入れた陽向は、それ以上何かを聞くこともなく、空を見て眩しそうに目を細めている。
陽向がどう受け取ったのかは分からない。
けれど、別にそれで良いと思った。
きっとこの先も、陽向が特別に込められた
◆ ◆ ◆ ◇
両親の名前が記された墓石には、まだ鮮やかな花が添えられていた。
どんな形であれ、ここは神楽を名乗るものだけが入ることを許された場所なのだ。
つまりこの先、私が両親と同じ墓に入ることはない。
だからこそ、もう訪れる必要のない
墓に手を合わせ終えるまで、陽向は一言も口を開かなかった。
日差しが降り注ぐ中で、そよそよと吹く風が、供えられた花の先端を揺らしている。
隣で寄り添っていた霜月を抱き上げると、同じように手を合わせ終えた陽向と視線が合う。
「それで、どうして一緒に来たかったの?」
「……姉さんに、どうしても伝えたいことがあったんだ」
「わざわざここを選んだってことは、他の人に聞かれたら困る話ってこと?」
神楽の家には使用人が住み込みで働いている。
もちろん人払いが出来ないわけではないが、陽向は未だ、
当主として必要な時は使うものの、寝食を行う部屋は別に設けているらしい。
そのためだろうか。
内密の話をするのに、わざわざ
「姉さんの言う通り、二人だけで話したかったんだ。でも、この場所を選んだ理由はそれだけじゃない」
真剣な顔つきでこちらを見る陽向からは、どこか思い詰めているような雰囲気も感じられる。
無言で見つめ返す私に、陽向は意を決した様子で口を開いた。
「姉さんに、