「それは、陽向が
私の問いかけに、陽向は
「めちゃくちゃなことを言ってるのは分かってる。でも、本当ならここは、全て姉さんのものだった。なのに僕が……奪ってしまったから」
奪ってしまった、ね。
自分が居たせいで、私が
──けれど、その考えは大きく間違っている。
「陽向。あの日のこと覚えてる? お父さんの、神楽家当主の遺書が読まれた日のこと」
「もちろん覚えてるよ。あの日は姉さんと一緒に、お祖母様の所に泊まったよね」
「そう。それでその日の夜に、今後の事を聞いた」
祖母は、遺言書は紛れもなく父が書いたものだと話した。
そして、幾分か落ち着いた陽向と共に、これからすべき事を伝えてくれた。
「当時、
「それは、父さんが先に
陽向の顔色が悪くなっていく。
おそらく、この話の違和感に気づいたのだろう。
両親が亡くなった後に分かったこと。
それは、陽向の父が
「もし私に
流れてきた雲が、太陽を覆っていく。
日差しが遮られ、影の濃さが増した。
最初から決まっていたのだ。
当主の座は、陽向が継ぐと。
何もかも、初めから──。
「でも……それだと少し変だよね。
そう。それが私にも分からなかった。
何故両親は、
けれど、今まで分からなかったことが、
「もうすぐ死ぬと、分かっていたから」
「え……?」
両親は分かっていたのだ。
──自分たちが、死ぬ運命にあるということを。
記憶を取り戻したことで、紅い目の死神が昔から
当時の記憶を思い出す限り、おそらく両親とも何かしらの関わりがあったのだろう。
当主の座を陽向に継がせることは、前もって決めていたはずだ。
しかし、それだけなら私を
両親は、陽向を後継に据えると同時に、私を
だからどうしても、先に準備しておく必要があった。
次期当主について話し合う頃には、自分たちはもういない。
それが分かっていたからこそ、陽向の父と先に縁組を済ませ、私を
私が
「それって……まるで、
多分、この事実を知らなかったのは私と陽向くらいだろう。
両家の人間は、以前からこの話をしてきたはずだ。
そして、もしこれが
──証明できるのはきっと、あの死神しかいない。
「とにかく、陽向が当主の座を継ぐのは前から決まっていたということ。つまり、私は何も奪われていないし、陽向は何も奪ってなんかいない」
青ざめた陽向の顔に、光が差し込んでいく。
雲は過ぎ去り、空からは再び太陽の光が降り注いでいた。
「そろそろ帰ろうか。多分両親も、このまま陽向が当主になることを願ってる。だから、ここで話したことは私たちだけの秘密にしておこう」
「……うん、そうだね。ありがとう姉さん」
気になることは他にもあったはずだ。
けれど、陽向はそれ以上何も言わず、墓石に向かって頭を下げていた。
◆ ◆ ◇ ◇
「明日には帰っちゃうんだよね? 何だか寂しいな」
「いつもこのくらいだったと思うけど」
陽向から、寂しいなんて言葉を聞くのは久しぶりだ。
「もう少し居てくれたらいいのにって、いつも思ってたんだよ」
柔らかい声で呟いた陽向は、不意に私の方を見ると、真剣な表情で口を開いた。
「また必ず、ここに帰ってきて。姉さんが来てくれるのを……僕はずっと待ってるから」
真っ直ぐな声に視線を返す。
陽向の目には、色々な感情が詰まっていた。
何も答えられない私の隣で、陽向が祈るように目を閉じたのが見えた。