「改めまして、Ⅴ号室に住んでいるリブラです。睦月さんがⅡ号室なので、ちょうど上の階に当たりますね」
ぽーっとした表情で話しかけてくるリブラは、周りに花でも舞っていそうな雰囲気だ。
リブラの要望により、
真っ先に正面を希望したリブラに対し、
意外な選択に時雨の方を見るも、「リブラの横だけは嫌なんで……」と言いながら目を逸らした時雨の姿に、
リブラの隣には燕が座り、律は私とリブラの間、いわば上座の部分に座っている。
「ほら、冷める前に食べるわよ」
「はーい」
燕が元気よく声を上げる。
温かい手料理に、先程まではなかったはずの食欲が湧いてくるのを感じた。
「そういえばリブラ。今回はいつまで居るつもりなの?」
「んー。とりあえず、しばらくは居ようかなぁと思ってるよ」
「決まった期間はないってことね」
こちらを見たリブラと目が合う。
にっこりと笑いかけてきたリブラは、「そういうことになるかな〜」なんて返事をしている。
「ほんと、一度決めたら譲らないんだから。困ったものだわ」
「どの道、あいつが帰ってくるまでの話だろ」
「まあまあ、その話は後でもいいじゃない! 食事は美味しく食べなくちゃ」
リブラの言葉に、時雨は誰のせいだと言わんばかりの顔をしていたが、律は折れることにしたようだった。
「そうね、この話はまた後でにしましょう。せっかく睦月ちゃんが来てくれたんだもの。色々とお話しするチャンスだわ」
「はいはい! おれ、睦月ちゃんに聞きたい事があります!」
勢いよく手を上げた燕が、こちらを見てキラキラと目を輝かせている。
期待に満ちた輝きに、答えられることならと返すと、燕は嬉しそうに口を開いた。
「睦月ちゃんは、好きな人がいますか?」
「ぶっ」
唐突な質問に、時雨の口から水が吹き出した。
向かいでは、リブラが固唾を
「好きな人……っていうのは、恋愛としてってこと?」
もしかしたら意味合いが違うかもしれない。
そう思い確認してみるも、燕はその通りだと言うように、大きく頷いている。
好きな人、か。
正直、誰かに恋愛感情を抱いたことがないため分からない、と言うのが答えだ。
いや、そもそも人に特別な感情を抱いたこと自体ないのかもしれない。
両親に対する思いはあったし、
だけど、それだけだ。
──恋愛感情が何かさえ、私はよく分かっていない。
「睦月ちゃん?」
思考が現実へと引き戻されていく。
心配そうにこちらを見る燕が、柔らかく色付いている。
いつからだろう。
こんなにも視界が、色鮮やかに戻ったのは──。
「好きな人は、いないかな」
あの日からだ。
上司が突然、やってきた日。
「そうなんだ!」
嬉しそうに笑う燕の横で、リブラがほっと息を吐くのが見えた。
隣では時雨が、何か言いたそうな顔でこちらを見ている。
「じゃあさ、一つお願いがあるんだけど……」
「お願い?」
意を決した様子でこちらを見た燕は、はっきりした声で願いを口にした。
「おれと時雨と三人で、デートしてほしいんだ!」