プーパの顔には、やってしまったという言葉がありありと浮かんでいる。
「そっか。偶然じゃないなら、誓約書に違反したってことになるね」
「ちちち、ちがいま──」
慌てて否定しようとしたプーパだったが、次の瞬間、どこからか落ちてきた雷がプーパの体を丸焼きにした。
かなりの威力なのだろう。
ビリビリと打たれているプーパからは、「びゃー!」という叫び声が上がっている。
その近くでは、同じように雷に打たれたビベレが、地面の上でのた打ち回っていた。
時雨の方を向くも、怪我を負った様子は見られない。
どうやら、誓約を破ったことで起こる罰が、関係ないものを傷つけることはないようだ。
雷が止み、体から煙を上げるプーパたちの姿が見える。
「うう……」
よろよろと起き上がったプーパは、自分の体を見下ろし、ショックを受けた顔になった。
「ぷーぱのからだがこんなにくろく!」
「いや、最初から黒かっただろ」
呆れ返った様子の時雨が呟いている。
「にしても、誓約書なんてあったんだな」
「これで下手に動かれなくて安心だね! あ、でも、誓約書を行使できるのは、神性が高い死神だけじゃなかったっけ?」
「そうなの? この誓約書は、上司から貰ったんだけど……」
上司という言葉を聞いた途端、時雨たちの表情が何かを察したように変わる。
それ以上、言葉は必要なかった。
「せいやくしょ! それをよこすのです!」
いきなり声を上げたプーパが、手元の誓約書に飛びついてこようとする。
しかし、手がこちらに届く前に、プーパの体は再び雷に包まれていた。
共犯だからだろう。
プーパの後ろでは、もれなくビベレも一緒に打たれているのが見える。
「……こいつら、マジでどうすんの?」
「うーん……」
時雨の遠い目と、燕の何とも言えない表情が、現状を物語っていた。
◆ ◆ ◇ ◇
褐色の肌と、くすんだ白髪を持つ男は、とある扉の前で立ち止まった。
男はノックもせず、そのまま扉を開け放っている。
「おーい、レイン。俺様が来てやったぞー」
部屋の中にずかずかと入ってきた男を見て、レインは不機嫌そうに男を
「ノックくらいできないのかアヴァリー。そもそも、何でお前がここに居るんだ」
「相変わらず冷てぇなぁ。お前がボロクソにやられたって聞いて、わざわざ駆けつけてやったってのによ。にしても、これまたひでぇ有様じゃねぇか」
三白眼を愉快そうに歪めるアヴァリーに、レインの眉間には深い
所々が焦げた服に加え、まるで何かに焼かれたように黒ずんだ皮膚。
レインに起きたことを察するには、充分すぎる要素だった。
「哀れだなぁレイン。部下の失態で、お前まで罰を食らうなんてよ」
「茶化しに来たのなら今すぐ帰れ」
「そう怒んなって。今のは旧友としての言葉ってやつだよ。そんで、──ここからは魔王の
一気に増した圧迫感。
魔界には六人の将が存在する。
天界の
それぞれの神が自ら選び迎え入れた六柱とは違い、魔界は魔王でさえも引きずり下ろすことのできる世界。
それ故、六将の中で最も長く座に着いていた者が、次の魔王に一番近いと言われているのだが──。
アヴァリー。
六将の中でも二番目に長く座する悪魔で、
いくらレインの旧友とはいえ、戦えばどちらが勝つかなど明白だった。
「お前の部下の失態を、俺様が埋めてきてやる。その代わり、連れてきた死神はこっちでもらうぞ」
「なっ!?」
思わず声が漏れたレインだったが、不服ながらもすぐに黙っている。
「まあまずは聞けって。お前の目的は誓約書を破棄させ、やられた借りを返すことだろ? なら心配いらねぇよ。
アヴァリーに失敗するという考えは、毛頭ないようだった。
条件としては悪くない。
けれど、何故そこまでしてあの娘を欲しがるのか。
疑惑の目を向けてくるレインに、アヴァリーはにやりと口角を上げた。
「俺様も理由は知らねぇけどよ。──魔王様のご所望なんでな」