「リーネアはどうしてここに?」
「あ……えっと……」
霜月の方を見るリーネアに、威吹は納得した顔で口を開いた。
「霜月に会いにきたのか。ごめんな、邪魔しちまって」
「そんな……。邪魔とかでは……」
リーネアの視線は常に霜月を見ているものの、やはり霜月が相手にする様子はない。
黙りこくるリーネアに、威吹はどうしたものかと眉を下げた。
「そ、そういえばさ霜月! 今回は睦月さんと一緒じゃないんだな」
「……」
その言葉を聞いた霜月の表情が、一瞬だけ寂しそうに歪む。
無理に離れてでも、死界に戻らなければならない理由があったのだろう。
候補生の頃のような、どこか
「睦月って……霜月くんが組まされてる死神の名前だよね」
「リーネアも知ってたんだな。さすが情報管理課」
情報管理課なら、睦月の情報を知っていても不思議ではない。
威吹の言葉には答えず、リーネアは何かを
「
「
「あー、なるほど……。早く終わるといいな」
「何で霜月くんが、
「リーネア?」
不満と怒りを押し込めたような声だった。
リーネアは霜月に向けて、
「いくら霜月くんが優秀だからって、いきなり素人同然の死神と組まされるなんておかしいよ……!
「リーネアいったん黙っ──」
「今、何て言った?」
威吹が止めようとしたが間に合わず、その場に凍えそうなほど冷たい空気が流れていく。
様子を
「落ち着けって霜月。何か誤解があったのかもしんねぇし」
「何でそんな目で見るの……? だって、本当のことじゃない。霜月くんはこのまま死界にいる予定だったのに、睦月って死神のせいでわざわざ現世なんかに──」
リーネアの頬を、鋭い何かが切り裂いた。
背後の柱に突き刺さった氷の刃は、霜月の能力によって生み出されたものだ。
無関心とは違う。
明確な敵意と怒りの
「ちょ、霜月! 女性の顔に傷つけちゃ駄目だって!」
「死神にとって、性別は大した問題にならない」
「いやそうだけどさ! 睦月さんだって女性だろ?」
睦月の名前が出たことで、霜月の雰囲気が僅かに緩まる。
目の前で固まるリーネアに、威吹が話しかけようとしたその時──何かが勢いよくぶつかる音がした。
「霜月いる!?」
専用ルームから飛び出してきたミントは、霜月たちを見るなりもの凄い速さで近寄ってきた。
「今すぐこっちに来て!」
霜月の腕を握むと、ミントは再び専用ルームの中へと戻っていく。
一瞬の出来事だった。
残されたのは威吹と、隣で黙りこくるリーネアだけ。
周囲の死神たちは、解散だと言わんばかりに各々の仕事へ戻っていった。
「あのさ、リーネア」
「……」
リーネアは黙ったままだったが、威吹は気にせず話し続けていく。
「霜月のことは諦めた方がいいと思う」
「……どうしてですか」
「霜月にはもう、心に決めた相手がいるから」
悔しそうに
泣いているのかもしれない。
けれど、今の威吹にはどうでもいいことだった。
「じゃあ、俺ももう行くな」
リーネアに背を向けると、威吹はそのまま来た道を戻っていく。
「平和が一番なんだけどなぁ」
自宅に帰る途中、威吹は空を眺めながら、そんなことを呟いていた。