思った通りの言葉に、手を握りしめる。
私のせいで、燕や時雨を巻き込んでしまった。
私と一緒に居なければ、こんな危険な状況に巻き込まれることもなかったはずなのに。
アヴァリーからの圧が増していく中、話を聞いていたプーパから「えっ!」という声が上がった。
「おいプーパ。まさかお前のことまで面倒見ろってか?」
「ぷーぱになにかあれば、ごしゅじんがかなしんでしまいます!」
「そ、その通りです! 侯爵様、何卒わたくし共をお助けくださいませ……!」
「お前らなぁ……」
プーパたちに気を取られている隙に、二人と話をする。
「燕と時雨は今のうちに逃げて」
「何言って……!」
「そうだよ睦月ちゃん! 離れるなんて嫌だよ!」
燕がローブの
いつのまにか、怪我をした腕の痛みが幾分か
「少しだけ、治療系統の適性があるんだ。大したことはできないけど……」
「そんなことない。ありがとう燕」
腕を見ていたためか、燕が能力で治療したことを教えてくれた。
燕の頭をそっと
プーパを摘み上げていたアヴァリーの視線が、こちらへと向けられる。
「もういいか? この俺様がわざわざ待ってやるなんて、珍しいことなんだぜ」
「もし、私が大人しく同行すれば……二人のことは見逃すと約束してくれますか?」
「おい! 勝手に決めんな!」
「駄目だよ睦月ちゃん!」
反対する時雨たちを見て、アヴァリーから漂う空気がだんだんと鋭いものに変わっていく。
「後ろのやつらは納得してねぇようだがな。まあ、俺様もこれ以上待つつもりはねぇからよ。三秒以内に決めろ。いいか、これが最後の
いくらなんでも相手が悪すぎる。
このまま離れなければ、二人とも消されてしまうかもしれない。
死神に、終わりはあるのだろうか。
不意に浮かんだその言葉の答えを、私は知りたくないと思った。
少なくとも今は、知る必要のないことだと。
燕や時雨のことを思うなら、ここは無理矢理にでも引き離すべきなのだろう。
けれど、二人の取った選択を、心のどこかで嬉しいと感じてしまっている。
燕も時雨も、とっくに分かっているのだ。
残ればどうなるかなんて、初めから
それでも、私の傍にいることを選んでくれた。
だから私も選んだ。
全員で生き残る道を。
みんなでアパートに帰れる、たった一つの可能性を。
「三秒経ったぞ」
アヴァリーの声が、やけに遠く聞こえる。
「答えは変わらずってわけか。ま、根性だけは買ってやるよ。
その言葉を
上空にずらりと現れた槍の穂先は、全てこちら側を向いていた。
「どきな嬢ちゃん。わざわざ痛ぇ思いなんてしたくねぇだろ? 俺様も、レインみたいな趣味は持ってねぇからよ」
口の端を持ち上げ笑うアヴァリーだったが、その直後──周囲の槍が
最後に見えたのは、私を
◆ ◆ ◆ ◇
爆音が鳴り響き、辺りに土煙が立ち込めた。
「ったく、遅ぇんだよ。早く決めねぇと命取りになるぞ」
不機嫌そうに髪を掻き上げたアヴァリーは、「ま、嬢ちゃんさえ生きてりゃいいんだけどな」などと呟きながら立っている。
「わー! けむたい! つちでからだがまっくろに!」
「プーパ様! ご無事ですか! プーパ様!」
「うっせぇんだよお前ら! ほんとにあいつの部下か!?」
「たしかに、少し煙が多すぎるかもね」
周囲の土煙が一瞬にして払われた。
はっきりとした視界と、映り込む死神の姿。
突如、
目の前の死神は、そんなアヴァリーを見て不思議そうに首を
先ほどまでの死神とは、何かが違う。
まるで、入れ物は同じなのに、中身だけが変わってしまったかのような──。
「どうしたの? そんな顔して」
何の感情も読み取れない所は同じだ。
けれど、明らかに違う点を挙げるとするならば……。
「何か喋ったらどうかな。わたしも、のろまは嫌いなんだ」
そう話す死神は、アヴァリーに向けてにこりと笑みを浮かべている。
近づいてくる死神と、視線がかち合った。
──そうだ。あの死神は、不思議な目をしていた。
神秘的とも呼べるほど、綺麗な目をした死神。
それは今も変わらない。
変わらない……はずだった。
中で眩しく光る星。
表面だけは優しく笑う死神の目には、宙ではなく──紺碧が宿っていた。