アパートの一室は、お通夜のように静まり返っていた。
律の部屋に集まった死神たちは、冷え冷えとした空気を
頭を抑えて呻く律と、落ち込んだ様子の燕。
燕の隣に座る時雨は、先ほどから口を開かず黙り込んでいる。
長方形のテーブルを囲むように、縦側の上座には律が座り、片側に燕と時雨、その向かいに私と霜月が座っている状態だ。
重苦しい空気が流れる中、律の向かいに座っていたリブラが手を上げた。
「あの〜、ちょっといいかな?」
無言で集中する視線に対し、リブラは居心地が悪そうに身じろぎしている。
「どうしたの?」
「とりあえず、一番の問題は睦月さんが今後どうするかってことでいいんですよね?」
私が聞き返したことで、リブラの表情が明るくなったのが見えた。
律たちの視線がこちらに向けられる。
「そうだね。死界に行くことも案として出てはいたけど、上司はもう少し
「睦月さんは現世担当の死神ではないですし、死界の方が圧倒的に安全だと思うんですが……」
リブラの言う通り、私は現世で仕事を命じられた死神とは違う。
本来であれば、他の死神のように死界で暮らしていたはずだ。
けれど、それはあくまで死神としての話であり、人間としての枠には当てはまらない。
今の私は死神であり、同時に人間でもあるのだから。
しかし、リブラたちはこの事実を知らないのだろう。
警備課の死神のように、人としての私は既に死んでいて、スカウトによりそのまま死神になったのだと考えているはずだ。
隣に座る霜月へ視線を向けると、意図を察した霜月が代わりに答えてくれる。
「これまで、上司が現世へ直接スカウトしに行った前例はない。それもあって、睦月の存在は死局の一部でイレギュラーとして認識されてるんだ。環境が整うまでは、死界ではなく現世に居てもらう方がいいと上司も判断してる」
「なるほど、そんな理由が……」
へえ、そうだったんだ……じゃなくて。
私もその話は初耳なんですが。
アパートの面々が納得した様子で頷く中、一人だけ理解が追いつかない私を見て、霜月が
「睦月、その……」
「大丈夫。分かってるから」
考えてみれば、霜月も上司もあまり自分のことを話すタイプではない。
霜月は聞けば答えてくれるが、上司に関しては上手くはぐらかされる事も多いくらいだ。
この程度の事で気にしていては切りが無い。
安心させるため頭を撫でると、霜月の目が猫のように細まるのが見えた。
霜月の雰囲気が
嬉しそうに撫でられる霜月の姿に、時雨の目がだんだんと死んだ魚のようになっていた時だった。
「……ずるい」
ぼそりと呟かれた声は、リブラの方から聞こえてきたものだ。
「霜月だけずるい! 僕も睦月さんに撫でてもらいたい!」
「おまっ、バカなのか!?」
時雨からドン引きした声が上がる。
「タイミングが最悪だわ……」
「
顔を抑え悲痛な声を
一瞬で氷点下に戻った室内で、霜月とリブラの視線が合った。
「睦月に気安く近寄るな」
「嫌だね。それに、決めるのは君じゃないはずだよ」
「それなら、ゲームで決めよう。勝者は睦月さんに一つ願い事を聞いてもらえる権利ってことでどうかな? 僕が勝ったらもちろん、睦月さんに頭を撫でてもらう」
「睦月に……。ゲームの内容はなんだ」
「やる気になってくれたようで良かったよ」
いや、
速攻で話が進みすぎて、止める暇もなく決定事項のようになっている。
「カジノでも遊ばれるゲーム──ポーカーで勝負しよう」