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ep.55 ギャンブルと能力


「ポーカー?」


「リブラはギャンブル中毒なの。昔から勝敗をゲームで決めたがるのよ」


「だってギャンブルほど楽しい物もないじゃないか。知能と戦略、そして運。実力の違う相手とも、ギャンブルでなら裏返るかもしれない。だからこそ、賭ける価値がある面白いのさ」


 律の言葉ににやりと笑みを深めたリブラは、「それじゃあ始めようか」と言いながら霜月の方を見た。


「ちょっと待って!」


「燕? どうかした?」


「そのゲーム、おれと時雨も参加したい!」


「はぁ!?」


 驚いた時雨が立ち上がり、「何で俺まで!」と燕に向かって抗議している。


「僕は構わないよ。人数が多いほど盛り上がるからね」


 すんなりと承諾したリブラは、霜月にも目線を向けている。

 霜月が了承したのを確認すると、リブラは何処からかトランプを取り出した。


「じゃあ、四人でってことで──」


「五人」


「へ?」


「私も参加するから、五人にして」


 カードを切り始めたリブラに対し、参加の意志を伝える。

 驚きで目をぱちぱちさせたリブラは、「でも報酬が……」なんて呟いていたが、律に「リブラが支払えばいいじゃない」と言われたことで納得していた。


「睦月ちゃんとゲームできるなんて嬉しいね、時雨」


「俺はまだやるって言ってねぇけどな」


「もー。またそんなこと言って」


 燕と時雨が仲良く話す中、律は見学することに決めたらしい。

 楽しげな表情で燕たちを見守っている。


「ねえ霜月。このゲーム勝てると思う?」


「心配しなくていい。勝敗はもう決まってる」


 私を見て微笑む霜月の目には、確信めいたものが宿っていた。

 霜月がそう言うのなら、心配する必要もないだろう。


 シャッフルを終えたリブラが、カードをテーブルのすみに置いている。


「親はリブラがやるの?」


「いえ、ディーラーは別にいるんですよ」


 リブラは指でテーブルを叩くと、何かのマークを描き始めた。

 最後にぐるりと円で囲った瞬間、魔法陣のような模様が浮かび上がってくる。


「──ヴェルダージ。仕事の時間だよ」


 その声に応えるように、魔法陣から小人が現れた。


 小人は、カジノでよくディーラーが着ているものと似た服を身にまとっている。

 頭には黒いシルクハットを被っており、顔は鼻から下しか見えていない。


 帽子やネクタイに、トランプの絵柄であるスペードやダイヤなどがあしらわれており、にんまりと笑う口元からはギザギザな歯が見えていた。


「よおリブラ! ギャンブル狂いのおまえさんが、こんなに間を空けて呼ぶなんてな。俺っちびっくりだぜ!」


「ちょっと事情があったんだよ」


 ケラケラと笑っていた小人は、私たちの方を向くと丁寧なお辞儀をしてきた。


「俺っちの名はヴェルダージ。リブラの能力によって呼び出された、ゲームの管理者ってところだ。以後お見知りおきを」


「ヴェルダージだ! 久しぶり!」


「よお燕。律や時雨も久しぶりだな」


 顔を上げたヴェルダージは、アパートの面々と挨拶を交わしている。

 おそらく、今の名乗りは私や霜月に向けたものだったのだろう。


「睦月です。こっちは霜月」


「お、よろしくな。睦月に霜月」


 ヴェルダージはにんまりと笑いながら、私の方をじっと見つめてくる。

 そして、リブラの方を振り向くと、何やら小声で話し始めた。


「おいリブラ」


「なに?」


「あの死神、めちゃくちゃべっぴんさんじゃねぇか」


「いや、ほんとそうなんだよ! これは何としても勝たないとでさ〜」


「ま、頑張んな」


 隣に置いてあるトランプに手をかざしたヴェルダージは、そのまま上空に指を向けている。

 バラバラと音を立てて、トランプが宙に浮かび上がった。


 空を舞っているトランプは、ゲームの参加者である私たち五人の前に、それぞれ五枚ずつ落ちてくる。


「言い忘れてたが、俺っちが管理するゲームにおいてイカサマは一切通用しない。隣同士でも手札が見えることはないし、誤魔化すことも不可能だから安心していいぜ」


 にんまりと笑うヴェルダージの口から、鋭い歯が覗いている。


「ヴェルダージは公正なゲームを守り、敗者にはけたものを支払わせる権利を持ってる。たとえそれがであっても、その強制権は失われない」


 リブラの言葉に、スパイスのような空気が走っていく。


「賭け事はゲームだよ。でも、お遊びなんかじゃない」


 緊張感の増した部屋で、リブラは楽しそうにゲームのスタートを宣言した。


「さ、始めようか。睦月さんへのお願い権を賭けた──真剣勝負ってやつをね!」



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