「ポーカー?」
「リブラはギャンブル中毒なの。昔から勝敗をゲームで決めたがるのよ」
「だってギャンブルほど楽しい物もないじゃないか。知能と戦略、そして運。実力の違う相手とも、ギャンブルでなら裏返るかもしれない。だからこそ、
律の言葉ににやりと笑みを深めたリブラは、「それじゃあ始めようか」と言いながら霜月の方を見た。
「ちょっと待って!」
「燕? どうかした?」
「そのゲーム、おれと時雨も参加したい!」
「はぁ!?」
驚いた時雨が立ち上がり、「何で俺まで!」と燕に向かって抗議している。
「僕は構わないよ。人数が多いほど盛り上がるからね」
すんなりと承諾したリブラは、霜月にも目線を向けている。
霜月が了承したのを確認すると、リブラは何処からかトランプを取り出した。
「じゃあ、四人でってことで──」
「五人」
「へ?」
「私も参加するから、五人にして」
カードを切り始めたリブラに対し、参加の意志を伝える。
驚きで目をぱちぱちさせたリブラは、「でも報酬が……」なんて呟いていたが、律に「リブラが支払えばいいじゃない」と言われたことで納得していた。
「睦月ちゃんとゲームできるなんて嬉しいね、時雨」
「俺はまだやるって言ってねぇけどな」
「もー。またそんなこと言って」
燕と時雨が仲良く話す中、律は見学することに決めたらしい。
楽しげな表情で燕たちを見守っている。
「ねえ霜月。このゲーム勝てると思う?」
「心配しなくていい。勝敗はもう決まってる」
私を見て微笑む霜月の目には、確信めいたものが宿っていた。
霜月がそう言うのなら、心配する必要もないだろう。
シャッフルを終えたリブラが、カードをテーブルの
「親はリブラがやるの?」
「いえ、ディーラーは別にいるんですよ」
リブラは指でテーブルを叩くと、何かのマークを描き始めた。
最後にぐるりと円で囲った瞬間、魔法陣のような模様が浮かび上がってくる。
「──ヴェルダージ。仕事の時間だよ」
その声に応えるように、魔法陣から小人が現れた。
小人は、カジノでよくディーラーが着ているものと似た服を身に
頭には黒いシルクハットを被っており、顔は鼻から下しか見えていない。
帽子やネクタイに、トランプの絵柄であるスペードやダイヤなどがあしらわれており、にんまりと笑う口元からはギザギザな歯が見えていた。
「よおリブラ! ギャンブル狂いのおまえさんが、こんなに間を空けて呼ぶなんてな。俺っちびっくりだぜ!」
「ちょっと事情があったんだよ」
ケラケラと笑っていた小人は、私たちの方を向くと丁寧なお辞儀をしてきた。
「俺っちの名はヴェルダージ。リブラの能力によって呼び出された、ゲームの管理者ってところだ。以後お見知りおきを」
「ヴェルダージだ! 久しぶり!」
「よお燕。律や時雨も久しぶりだな」
顔を上げたヴェルダージは、アパートの面々と挨拶を交わしている。
おそらく、今の名乗りは私や霜月に向けたものだったのだろう。
「睦月です。こっちは霜月」
「お、よろしくな。睦月に霜月」
ヴェルダージはにんまりと笑いながら、私の方をじっと見つめてくる。
そして、リブラの方を振り向くと、何やら小声で話し始めた。
「おいリブラ」
「なに?」
「あの死神、めちゃくちゃべっぴんさんじゃねぇか」
「いや、ほんとそうなんだよ! これは何としても勝たないとでさ〜」
「ま、頑張んな」
隣に置いてあるトランプに手をかざしたヴェルダージは、そのまま上空に指を向けている。
バラバラと音を立てて、トランプが宙に浮かび上がった。
空を舞っているトランプは、ゲームの参加者である私たち五人の前に、それぞれ五枚ずつ落ちてくる。
「言い忘れてたが、俺っちが管理するゲームにおいてイカサマは一切通用しない。隣同士でも手札が見えることはないし、誤魔化すことも不可能だから安心していいぜ」
にんまりと笑うヴェルダージの口から、鋭い歯が覗いている。
「ヴェルダージは公正なゲームを守り、敗者には
リブラの言葉に、スパイスのような空気が走っていく。
「賭け事はゲームだよ。でも、お遊びなんかじゃない」
緊張感の増した部屋で、リブラは楽しそうにゲームのスタートを宣言した。
「さ、始めようか。睦月さんへのお願い権を賭けた──真剣勝負ってやつをね!」