何というか……餌付け?
茶菓子を食べる三日月から、嬉しそうな空気が
試しに自分でも食べてみたが、なるほど。
確かに絶品だった。
「綺麗な刀だね」
月明かりに照らされ、縁側に横たわる刀。
「これは俺の
この刀が
どこからどう見ても、刀の形をしている。
三日月は刀を持ち上げると、私の膝の上に置いてくれた。
「位の高い死神は、それぞれ専用の武器を持っています。俺の
そう言えば、初めて
「
「つまりこの刀は、三日月にとって最適な形に変わった結果ってことなんだね」
「おっしゃる通りです」
鞘の部分に触れてみると、まるで返事をするかのように刀が小さく振動した。
何だか不思議だ。
死神と言えば大鎌のイメージがあったため、刀の形をした
三日月に刀を返すと、受け取った三日月の手の中で、刀は音もなく消えていった。
「あ、でも、現世に行く死神が支給される
「現世では死神に対する固定のイメージがあるようですが、あれらは単なる噂や想像に過ぎません。死神の武器が
三日月の主と言えば、本来の死神王のことだ。
たとえば、死神と言われてすぐに思いつくのは、大きな鎌と黒いローブ。
死期の近い人の元にやって来る、という事くらいだろう。
けれどそれは、あくまで噂でしかない。
現世の人々が想像する死神と、実際の死神が大きく異なっていたとして、何らおかしなことではないのだ。
「ただ、支給されるローブを除き、服の形にこれといった決まりはありません。俺が着ているこの羽織も、ローブの代わりに使うことが可能です」
「位が上だと、自由なことも増えるんだね」
「そうですね。神の権能を借りなくても、自らの力で全てを
そう言えば、上司も現世に来た際、ローブは着ていなかった。
上司と三日月の服は全く違うものだが、唯一共通点を挙げるとするなら、暗色が多いということだろうか。
三日月の和服は深い色合いが目立つが、それがこの上なく似合うのだから、圧倒的な美貌とは恐ろしいものである。
「どうやったら位を上げられるの?」
「上に行きたいのですか?」
「うん」
口から滑り落ちた言葉が、心にすとんと落ちてくる。
ふわふわと舞う蛍の光を眺めながら、自分自身の中に生まれた願望が沁み込んでいくのを感じていた。
「では、
立ち上がった三日月が、こちらに向けて手を差し出してくる。
「どうぞ中へ。ご案内します」
縁側に引き上げてくれる三日月に、慌てて靴を亜空間へとしまった。
「引きずり降ろすって……?」
「今の死界で貴女が力を手にするには、あの愚神をどうにかしなければなりません」
◆ ◇ ◆ ◇
【 おまけ 】
『考えることをやめた睦月と、特に考えていない三日月』
「現世に行く死神には、ローブが必須なんだよね」
「はい。仕事着の代わりになりますから」
「それって、死神だけの決まりなの?」
「悪魔は
「そうなんだ。どんなやつ?」
「羽です」
「え?」
「羽です」
「……天使の羽って、仕事着だったんだ。背中から生えてると思ってた」
「着脱式ですよ」
「……」
「……」
「この茶菓子、美味しいね」
「はい。とても美味しいです」