簡素だが質が高い室内だ。
畳の
三日月が用意してくれた座布団に座り、テーブルを挟んで向かい合った。
「話を整理しましょう。貴女は死神として、今よりも強くなりたいと思っている。ひいては、位をあげたいとも」
「そうだね」
視線を逸らさず、はっきりと肯定する。
「ご意志は
背筋が伸びるような声だ。
いきなり名前を呼ばれた驚きよりも、三日月の雰囲気に意識が引っ張られていく。
全身に行き渡る美しい所作。
エメラルドのように鮮やかな瞳には、静かな炎が揺らめいていた。
「
たしかに、今の私は人でもあり死神でもある。
これまでこの状況を不思議に思わなかったかと聞かれれば、答えは否だ。
私はいったい、何者なのだろうと。
「私が死神として特殊な立場にいるのは分かってる。でも、上司が連れて来ただけで、どうして危険視されることに繋がるの?」
「新月は、あの愚神に仕えている気など毛頭ないはずです。いつ
つまり、私だけでなく霜月や美火たちも対象に入っているということだ。
「中でも睦月は、新月が自ら現世に行き、部下として引き入れた存在です。
常に飄々とした様子で物事を進めてくるから、初めはなんだこいつとばかり思っていたけれど。
上司はたぶん──。
「素直じゃないだけか」
「ふっ。そうかもしれませんね。新月は俺たちの中でも、特に苦痛の多い道を選びました。とても一途なんですよ。……もし月が残っていなければ、死界の有様はさらに大きく変化していたはずです。主の創った世界を守るためにも、誰かは残る必要がありましたから」
軽く吹き出した三日月が、懐かしむような表情で語っている。
「これを受け取ってください」
「……お守り?」
テーブルに置かれた物は、お守りに似た形をしていた。
夜空色の袋には三日月が描かれており、「封」という一文字が添えてある。
「必ず役に立つ時が来ます。それまでは、見つからないよう仕舞っておいてください」
「分かった」
受け取ったお守りを扉の空間へ送ると、立ち上がった三日月が手を差し出してきた。
そろそろ時間なのだろう。
三日月に連れられるまま、家の外へと歩いていく。
「どうして、私の願いを叶えようとしてくれるの?」
「
「それもそうだね」
ゆっくりと離れる手は、三日月の抑えきれなかった気持ち──名残を表している。
「どうかご健勝で」
「うん。ありがとう三日月」
振り向かず、来た道を進んでいく。
蛍の光が案内するように揺らめく中、私は木々に姿が隠れるまで、夜空に浮かぶ三日月を眺めていた。
◆ ◆ ◇ ◇
美しすぎる容姿も、静かなように見えて鮮やかな内面も。
思い出すだけで、ぽっかり空いた傷口をなだらかにしてくれる。
「残り少ない時間を、貴女が楽しめますように」
口にした願いは、夏の風に
「俺たちの願いを叶えるためには──睦月に死んでいただかなくてはならないのですから」
蛍の舞い遊ぶ森を眺めながら。
ぽつりと呟いた三日月の姿は、家の中へと消えていった。