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ニ人の書~アースとレイン・結~

 その日の夜はオーウェンの言う通り、みんなで宴会をする事になった。

 俺はまだまともに歩けない為にベッドの上での参加だ。

 まぁたどたどしかった言葉も、この数刻で流暢に出せるようになったんだ。

 明日にでもまともに歩けるようになるだろう。

 それよりも、今はこの目の前にあるうまそうな肉を……。


「はぐっ……もぐもぐ……うまい……!」


 肉を口に入れた瞬間、油の甘味が口の中に広がる。

 プレートアーマーの体の時は食べる必要がなかったからな……久々に食べ物を口にしたから、よりおいしく感じる。

 これだけで、また涙が出そうだ。


「んぐんぐ……ぷはぁー、今日は一段と酒が旨いぜ! ……アースが蘇った事を皇帝に言ったら、一体どんな顔をするだろうな? 早く見てみたいぜ、クヒヒヒ」


 オーウェンが意地悪な笑顔をした。

 俺が居ない10年の間に皇帝と何があったんだろうか。

 ……俺が蘇った事を、か。


「なぁエイラ。聞きたい事があるんだが、いいか?」


「モゴ? モグモグ……ごっくん。何?」


「プレートアーマーの時、俺はラティアの傍にいないと動けなくなったが、この体の場合はどうなんだ?」


 プレートアーマーの体を維持出来ていたのは、ラティアの魔力が俺へと供給されていたからだ。

 この体でもそうなってしまうのなら、何か打開策をオリバーと相談しないといけないな。


「ああ、それね、そこはだいじょ~ぶだよ。その体は魔力の塊みたいな物だから、ラティやあ~しと離れていても問題ないよ~」


「えッ! そうなノ!? ……そうなんダ……」


 何故か話を聞いていたラティアが驚き、落ち込んでいる。

 ラティアも俺という枷が無くなるから喜ぶべきところだと思うんだが……まぁいいか。


「そうか……なら、みんなにお願いがある。俺が蘇った事を口外しないでほしいんだ」


「はあ? それはどういう事なんだ?」


「俺は10年前の死人だ。蘇ったとはいえ、そんな死人が表に出るもんじゃない。それに昔と今とじゃあ体が全然違うから、偽物だのなんの言われるだけだ。仮に俺が蘇ったと信じられたとしても、ラティアやオリバーの力を利用しようと考える奴が必ず出て来るだろう……それは、絶対に駄目だ」


 2人を巡って戦争が起きる可能性もある。

 ファルベインが居なくなった今、新たな戦の火種を出すべきじゃない。


《……》


 俺の言葉にみんなが黙った。

 そんな中、最初に口を開いたのはオリバーだった。


「……そうじゃなぁ……アースの言う通りじゃ……」


「だね、アースが生きているのはアタシ達だけの秘密にしましょう。けど、これからどうする気?」


 俺の存在を隠すんだ。

 丁度、俺の体も変わった……なら。


「新たな人間として生きていくよ。そうだな……ラティアには祖母の名前を借りたから、俺は祖父の名前を借りて……ケヴィン、ケヴィン・パーカーという人間で」


 はは、俺まで別の名前を使う事になってしまったな。


「後は住む所だけど……アカニ村の村長の許しが出るのなら、神父としてあの教会に住まわせてもらおうかなと思っている」


 駄目なら駄目で、その時また考えよう。

 ただ、みんなの家に転がり込むというのだけは避けたいな。

 新しい人生を進むんだ、だから自分の事は自分の力で切り開きたい。


「ふ~ん……教会ねぇ……ラティ、ちょっと」


「……? 何?」


 エイラがラティアの傍まで寄って耳打ちをしている。

 何を話しているんだろう。


「……ふんふン……はッ! 確かニ!! ……あノ! アース様! シスターとして私もお手伝いしても良いですカ!? 私、シスターにすごおおおおおおおおく興味があったんでス!」


「え、そうだったのか?」


 へぇー、ラティアがシスターにねぇ。

 そんな素振りを見ていなかったから興味がある事に全く気が付かなかった。

 とはいえ、全部俺が決められる事じゃない。


「手伝ってくれるのは嬉しいが、村長の許可が出るかどうかわからないし、何よりフランクさんとアリソンさんの許しも無く決めてしまうのは……」


「村長さんの許可は頑張って取りましょウ! そして父と母の事ですガ、必ず私が説得してみせまス! 必ズ!! なんとしてモ!!」


 ものすごい気迫だ。

 それほどラティアはシスターになりたかったのか。

 なら、これ以上俺があれこれ言うのも野暮だな。


「わかった。ラティアがそこまで言うのなら……」


「ありがとうございまス!! 私、頑張りまス!」


「あ~しは、もうちょっとラティと一緒に居ようかな~色々と面白そうだしね~」


 エイラが俺の方を見てニヤニヤとしている。

 なんだ? 何を企んでいるんだ?


「新しい人生か……そうだな、それが一番いいかもな……。うっし! 俺も2人に負けてられねぇ! 俺の夢、組合をより大きくする事を頑張るぞ!」


 オーウェンが自分の頬っぺたを両手で叩いた。

 その気合の入れ方、10年経っても変わってないな。


「あっそうそう、アタシとジョシュアは当分組合に戻らないから」


「「――えっ!?」」


 レインの言葉にジョシュアとオーウェンが驚いている。


「おい! それはどういう事か、ちゃんと説明しろ!」


「そうだよ! ボク何も聞いていないんだけど!」


 オーウェンとジョシュアがレインに詰め寄った。

 オーウェンに至ってはまだ頬っぺたに両手が乗っているし。


「あ~も~そんな大声を出さないでよ……この1ヶ月、北の大陸の状態を色々と聞いたの……こっちは帝国の兵力が全然回ってなくて、モンスターに困っているんだって。だから、アタシ達が残ってモンスターの討伐をしようと思っているの」


「……そういう事か……なら早く言えよな、今言う事じゃねぇだろ」


「本当にそうだよー、当事者のボクに話していないっておかしいじゃないか」


 それはそう、2人の言う通りだ。

 相変わらずレインの思いついたら即実行には困ったもんだな。


「あっそうだ。ソフィーナだとかなり動きやすい事が分かったから、組合のレインとジョシュアの名前をソフィーナとジョンに変えておいてくれない?」


 レインは道具袋から白い仮面を取り出し自分の顔に付けた。

 こう見ると、改めてレインがソフィーナさんだったんだなーと実感するな。


「はあ?」


「うえっ!? ボクの名前も!?」


「当たり前じゃない、ほらっ」


 今度は道具袋から黒い仮面を取り出し、ジョシュアに投げた。


「…………はあ……もうーわかったよ……」


 ジョシュアも相変わらずレインに振り回されている一方だな。

 まぁこのコンビらしいけど。


「2人で色々と勝手に決めるなよ、長は俺なんだぞ……まぁいい、ソフィーナとジョンだな? 戻ったら変えておく」


 弱々しくソファーに座る組合の長……。

 なんか、ご苦労様です。


「そうよ~よろしく~」


 本名の一部を取って偽名に使うってレインくらいしか考えつかないだろうな。

 いや……レインの子孫なら同じように考えるのが出て来ても不思議じゃないか。

 将来、リア、メイティー、クリス、ソフィーナ、アリシア、ヴェロニカ、コレット、タニア、エリン、ラナのどれかを名乗る人間が現れるかもしれない……そう考えると、なんか怖いな。


「……ちなみにオリバーはどうするんだ? 良かったら、俺の組合に入って……」


 話を静かに聞いて酒を飲んでいたオリバーが手を止め。


「ワシはここから動く気はない。じゃから、たまには遊びに来いよ」


 はっきりと断った。


「……さいですか……」


 組合の長、オリバーの勧誘失敗。


「なんだよ……結局、俺だけ普段通りかよ……ええい! こうなったら今日はとことん飲んでやる! お前等、そのくらいは付き合ってもらうからな!!」


 そう言ってオーウェンは酒をがぶ飲みし始めた。

 仕方なく、俺達も付き合う事にした。

 屋敷の明かりと笑い声は朝になるまで消える事は無かった。






 ◇◆アース歴201年 6月11日・昼◇◆


「ふぃ~やっと着いた」


 あ~しは、お気に入りのお菓子が売っている街へとやって来た。

 久々に馬車に乗ったから体中が痛いわ~。


「さて、あのお店は確かこっちに……ん?」


 正面からフルアーマーを着たヒトが猛スピードで走って来た。


『――ッ!!』


 そして、あ~しの横を駆け抜けて行った。

 今のフルアーマーのヒト、アースがプレートアーマーの体になっていた時とよく似た魔力を感ぢたけど……まさか、ね。


「ケビンさん! 待ってくださいってば!!」


 そのフルアーマーの後を、ピンクの髪で2本のくせっ毛が飛び出ている娘が追いかけて行った。

 あの娘は普通の人間みたいだけど、なんだろ? 妙に懐かしい感ぢが……。


「…………むっ? あの建物からナシャータの気配を感ぢる」


 な~んだ、あの子もあ~しと一緒でこの外の世界へと飛び出してきちゃったか。


「まぁしょうがないよね、何せ――」


 あ~しは、ナシャータがいる建物へ駆け出した。

 成長した妹に会う為、これまでの事を語り合う為に。


「――この世界は広くて! 楽しくて! 面白い事がいっぱいあるんだから!!」




 デュラハンは逃走中-Dullahan is on the run- ――終――

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